悪戯双子の囁きと、迫るバッドエンド【本編完結】
固まるあたしに、それまであたし達の周りで空気に徹していた双子が楽しそうに言った。
珍しく、その明るく響く高い声音を小さくして。
「うわーエグい。事件が露呈したら、会長ってば星ちゃんと一緒に臭いものにフタされちゃうんじゃないの?」
「て、ゆうかー。このままだと、姫ちゃんの意向も汲んでセットで転校? それも座敷牢感覚で、外に出られない山の中の全寮制学校とかになるんじゃなーい?」
そんな、エグい内容を楽しそうに話す二人。
あ、わんこ庶務とサボリ風紀委員長(元?)はずっと肩を落としたまま、地面を眺めてる。
「ど、どうしよう……どうすれば……に、苦手な、だけで……嘘を、信じて……あんな……酷い事、言っ、て」
「別に今更、役職に返り咲きたい訳じゃねぇが……オンナに騙されて、俺の名を使われて、いいように隠れ蓑に使われたのかよ。俺ただの道化じゃねぇかよクソッタレ」
ぶちぶちとつぶやいてるけど、だーれも二人を気にしていない。これこそ空気。
あたしの逆ハーレム員はそんな感じだ。
楽しそうに笑ってるのは、風紀副委員長ぐらいかな? 学園長は、お姫様に付き添って、年長者らしく事態をじっと眺める様子だし。口出ししないのは、生徒を信じてるから?
……うう、空気が重いよ。
そんな、超暗い空気を押しのけるように楽しく話してる、いつもの調子の双子。
「なるほどなるほどー。姫ちゃんエグい。二人への報復内容として星ちゃんと会長との婚約は、既定路線な訳ねーなるほどー。憎い二人はセットでと」
「その流れで、婚約破棄ショックがさめやらぬままのご両親へ、自分の婚約の方も進めちゃおうって腹かー。愛しの奨学生なダーリンとの婚約をゴリッ☆ と、浮いた婚約にねじ込んで、親戚にも根回ししちゃうのね。二人はセット☆ 報復もセット☆」
「愛しさ余って憎さも百倍?」
「二百倍~?」
いや、その内容からすると、あたしと生徒会長にだけ聞こえるようにわざと声を絞ったのかも知れない。
だって、これって。
「コッワー。姫ちゃん策士ー☆」
「ていうか僕らも姫ちゃんバッシングの片棒担いでるんだけどー。ちょう冷や汗ー」
「冷清院グループと敵対とか、シャレにならないでしょー? その奨学生もIT業界の寵児、なんて言われてるときたらもう詰んだよね。冷清院出資で業績伸ばしたらもう手も付けらんないじゃん」
ブルリとわざとらしく震える仕草。
「磐梯側からしたら、冷清院の怒りを鎮める為に、冷清院の宝である姫ちゃんの目に映らない所に、姫のご要望の、会長愛する☆ 星ちゃんとセットでー、海外にでも押し込めてるしかないよねぇ。会長詰んだね」
「マジ詰んだね」
と、二人肩を竦めて。
「僕らはどうなるのかなー?」
「まあ、会長程には……? と、思いたいカナ? ……希望的観測?」
「謝っとこーよー。僕んちまで潰されたくないしー。島送りはんたーい」
「ここは土下座必死の流れだね! わぁい、嬉しくないなー」
……本当に、あたしと生徒会長に、言い聞かせる為の言葉だったし。
「で、真の悪女、星ちゃんは玉の輿ー?」
わざとらしく、双子の片割れは首を傾げる。
「いやいや、会長は磐梯傍系の子会社、それもちょー弱小部署に押し込まれて窓際ポジ、監視付きでの現代座敷牢配置だろうから、出世はまず無理っしょー。社長待遇、役員待遇なんて、冷清院が許す訳ないじゃーん。数年島送りで許される程、女の経歴汚した罪は軽くないでしょー? 相手にもちゃんと溜飲下げて貰わないとー。十年やそこらは、冷や飯飼い殺しが基本路線でしょー」
反対側に、もう一人は首を傾げて。
「これは、悲しい事件だったねー」
手を合わせ、二人は大きく息を吐く。
「まあ、思えば、殺人未遂ゴッコはヤバかったっしょー? 姫ちゃんが階段から突き落とした? 姫ちゃんの家の車に牽かれるとこだった? しかも、冷清院の姫の手配デース。これは事件デス! 冷清院のインボーですうっていう調子だもん」
「こわー。全部本当なら、冷清院家始まって以来の不祥事じゃん。教科書ビリビリ、靴箱荒らしあたりで終わらしとけばよかったのにー」
「だねー。事件性出し過ぎー」
「オオゴトにしすぎー」
「ちょっとした嫉妬の範囲、学生間のトラブルレベルの、姫ちゃんに嫌われてるカナ? あたし悲しいなってぐらいで終わらせとけばー、星ちゃんだって、注意で終わったのにねー」
「そしたら、ちょっぴり同情で、姫ちゃん怖しのうちのヘタレ犬オトメンぐらいなら、気を引けたかもなのにねー?」
そう言って、今度は二人して庶務の方をじっと眺める。
「そだねー、ヘタレ犬は姫ちゃんだーいっ嫌いだしぃ、星ちゃんラブだし。超愛してるし。お互いにねー、嫌いな女の事をぶつぶつ言いながらも、ハッピーエンドで終われたのにねぇ」
「ヘタレ犬庶務も、姫ちゃんバッシングの急先鋒でー。先頭に立って大嫌いな女をこれでもかーって、はしゃいで叩きまくりだったもんねー。ボッコボコに叩いてたしぃ。とうとうあの怖い女が本性出したって!」
「生徒達も、優しい庶務様が言うのだからきっと本当の事だ! って釣られてたもんねー。生徒の無視とかー、悪口とかー。一時期、姫ちゃんも泣きそうな顔だったしー」
「学内の姫イジメ、姫シカトが始まったきっかけって絶対庶務のせいでしょー」
「これは、お先真っ暗ねー。イジメ犯の中心人物だよー? 海外に星ちゃんハーレムの二人目として送られちゃうかもねぇ、あーあ」
二人の話を聞き、あたしのナナメ横で、庶務わんこが真っ青な顔のままふるふる首振ってるんだけど、それってどーいう意味よ。あたしのハーレムメンバーは嫌ってこと? ヘタレのくせに生意気。
「未来は、絶望だねー」
顔を覆うフリで、二人はあたし達へ向けた解説を終わる。
なるほど。あたしは、やりすぎたのか……。
欲張り過ぎた。出しゃばり過ぎた。それこそが、今回の敗因。
あーあ、次の周回では、加減を間違えないようにしないとなぁ。そんなのあるかわかんないけど。
あたしが、現状を冷静に敗因を分析するに至っている間にも。
お姫様の言葉は、まだ続いてた。
「で、先ほどのお話ですけれど、「わたくしの取り巻き」 とは、何方の事かしら? 失礼ながら、友人がたの事を仰っているとしても、五塔様、尼寺様、平池様……どの令嬢方の事を言っていらっしゃって?」
可愛らしく、首を傾げて。
名の挙げられた全員は、由緒あるお家の生粋のお嬢様方だ。……もしかして、彼女らにも話が行き届いている? 冷清院以外の良家の皆様からも、攻撃が始まる合図だろうか。
「まさか、貴方様のファンクラブの会員がお友達ですの? わたくし、皆様からは特別嫌われておりますし……今回のわたくしの悪行の噂を聞いて、大変喜んでいらしたようですし」
ありえませんわ、ときっぱり断じて。
「五塔様達、お三方ならば、確かに大変よくしていただいておりますが、何分、常日頃お忙しい方ですし、皆様、学内には居なくとも、送迎役のお付きの方がいらっしゃるでしょう? 何時のお話か確認さえ出来れば、当日のスケジュールを秘書役なり護衛役なりの方に、確認出来るかと愚考しますけど……いかがかしら?」
ここにきてようやく、完全に憔悴し、抜け殻となった元婚約者へ、最初に投げかけた質問の答えを、お返しになったのだった。
死体打ちアゲイン。会長のヒットポイントはゼロよ。
「……桜姫、桜、お願いだ、俺の話を聞いて、くれ……」
「もう十分わたくしへの苦情は聞きましたわ。婚約解消のお話も了承致しました。内緒の会合もいけない事ですし、そろそろ解散致しましょう?」
……ひ、酷い……。これは酷すぎる。最後にダメ押しとか。
振られ男は憔悴しきってもう倒れそうだ。
や、やめたげてよお……。余りの攻撃力に、あたしは思わず顔を覆った。
本気の姫様の怖さを感じて、あたしは横でガタガタ震えながら眺めるばかりだった。
そうして……あたしの逆ハーレム計画は、頓挫して。
何故か失恋した風な暴力男こと生徒会長、姫様嫌いで姫様の悪口三昧だった庶務わんこと共に、海外の全寮制学校へと、三人一緒に島送りになるのだった……。
なんなの、これ。あたしのハッピーエンドを返してよ! この世界は、あたしのものじゃなかったの!?
お読み頂きましてありがとうございました。