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【番外編5】恋に恋していた僕は(書記)

チャラ男書記視点で、真面目に失恋話。

ちょっとヒーローの女たらしふりが酷いので、ヒロイン以外の女性が出る作品が苦手な方はスルー推奨です。

今回、視点の持ち主の都合で、ギャルっぽい会話と、やや詩的表現が強い場面があります。苦手な場合はすみません。

 ――それは、秋の終わり。ハロウィン・パーティのあと。


 散りゆく秋の色は、足下に降り積もり複雑な色のタペストリーを描く。俺はさくさくと落ち葉を踏みしめて、一定の距離を保って付いてくる女の子達の黄色い声を背に聞いていた。




 俺は、高等部の生徒会で書記をやってる、三千院ミハエル悠翔。

 いわゆるハーフで、色素の薄い髪をチャラチャラと長くして、カラコンいらずの緑の目に軽薄な笑みを乗せて歩いてる、そんなひねた男だ。


 学内でも問題児と呼ばれるような、派手な恋愛を、とっかえひっかえ楽しんでいた。

 おそらく見目だけなら彼女らに負けないぐらいに派手な部類の俺は、自分に自信のある女の子達から声を掛けられる事の多い俺は、今まで、彼女らの言うように、気軽に付き合っていたん、だけど……。


 ……かわいこちゃん、なんて言って。

 ……顔か親の名前しかみないだろ、なーんて、見下して。


 ……そのツケだろうか。


 初めて本気で付き合った”つもり”の相手に、まんまと利用されて、人生の汚点まで作って。

 それで、ようやく学習した。




「どぉしてぇ!?」

 俺は裏庭で、名門校には珍しいタイプの派手な化粧の女の子達に囲まれ、詰問されていた。

 ああ、俺の場合はよくある事なんで、許可を取らない集まりも風紀には目こぼしされてるんだ。

 それぐらいによく……。


「いつもだったらぁ、ウチらの中から次のカノジョに選んでぇくれるじゃなぁい! 悠翔のフリーな時はぁ、自由に声掛けていいってぇ、決まりじゃん! あの女ともぉ分かれたんでしょぉ? だったらぁ!」

 手間暇掛けてくるんと巻いた髪の毛。血色のいい頬につやつやの唇。指先からつま先まで意識してキレイを作り上げる努力をした、女の子達。

 そんな努力をあざ笑い、気軽に振り回しては放り投げ。

 女の子を侍らしては、その気持ちを試して、捨てて。弄んでいた。

 そんな俺は今。



 黄色に赤に橙に、色づき散りゆく庭木の間を抜け、整えられた庭園を行く俺は、いつもだったらこの風景に感動していただろう。

 芸術的なまでに秋色に染まった裏庭で、彼女らの黄色い声も気にせず、ポケットからカメラを取り出して、心のフレームに最高のアングルを描き出しては最高の一瞬を切り取っていただろう。


 そんな俺は、趣味のカメラさえ手につかない程の、空虚に。捕らわれていて。


「ごめん」


「どぉしてぇ? ウチらの事嫌いになったのぉ!?」





「悪いね、君らのせいじゃないけど。でもホント今はさぁ、気分じゃないんだぁ……」


 かわいこちゃん、なんて今まで下に見て言ってた女の子にさ、弄ばれて傷心中。

 そんなバカな俺は、苦く笑う。


 笑っちゃうよね。

 心を試して、心をねだって、自分の理想に合わないからと投げ捨ててた、そんな付き合いしか知らないから。

 一見自分の”理想”によく似たふりをした、何かに、騙されて。


 無実の女の子を傷つけちゃった。

 古くからの友人まで失っちゃった。

 ……日頃はスキャンダルまみれでも、あれで立派な親達まで巻き込んで、大きな騒ぎにした。母は看板張ってたブランドの長期契約が解除されたし、父は父で、編集途中のアイドル写真集の出版差し止めに、カメラ雑誌のコラムの連載から降ろされと、かなりの影響があるようだ。

 磐梯も冷清院も、でかい会社だ。何処の誰かが配慮し、そして大人の領分で判断されるのだから、バカガキの俺には、親達の処分が妥当か、よく分からない。ああ、当然、俺も成人まで監視対象さ。そんだけのバカをやったって事、なんだ。


 俺ってバカだよね。

 こんな風になるまで、人のことを傷つけてはいけません、なんて当たり前の道徳を知らずに生きてきたんだから。


「俺ねぇ、しばらく色男休業するの」

 茶化したようにヘラッと笑って言えば。

「はぁ!? 意味わかんない」

 大きく目を見張る少女らの悲鳴をバックに、俺はまた苦笑い。


「ははー、わかんないか。俺もよくは分かってないけど。まあ、今までテキトーしてて振り回してさ、ごめんねってこと」

「別にぃ。ウチらもわかってて悠翔と付き合ってるし」

「そーそー。ちゃんと付き合ってる時は大事にしてくれるしぃ、二股とかヤなことしないからぁ、それでいいし」

 キョトンと目を丸くする君達は、ありもしなかった理想に縋った俺より、よほど強いね。

「ハハハ、わかってたかぁ。まあ、もう十七にもなるしさ、バカばっかやってらんないなーみたいなさ……」


 アイアンワークのベンチに座って、俺は空を見上げる。

 それを取り囲むように女の子達の姿がある。その顔の隙間に、青い空。……ああ、今きっと俺は君らを撮りたいな。心配そうに俺を見るかわいい君達を。君の、顔を。

みんな、俺のことちゃんと見てたじゃんね。なのに偏見で、一括りにして。俺は彼女らの存在を、軽く流してた。勿体無いことしたなぁ。こんなに近くに、俺自身を見つめてる、人がいたのに。

 あぁ……こんな顔してたんだぁって今更分かるぐらいには、俺は彼女らをきっと、下に見てて。




 だから騙されるんだ。

 だからあんなに簡単に引っ掛かって。


『悠翔君の写真って好きだな!』


『え、親が写真家に、モデルさんなの。凄い、いい環境だねぇ。身近に被写体も、お師匠様も居るなんて贅沢な事だよ。だからこんなに素敵な写真が撮れるのかな』


『また季節が変わるね。次は何を撮ろうか』


 写真が好きと言って近づいてきた彼女、棚橋星愛は、本当に上手に俺を乗せてくれた。


『え、確かに被写体にしたいぐらいには格好いいけど……それより、師匠。次の撮影場所を決めようよ!』


 俺じゃなく俺の打ち込むものこそが好きだとばかりに振舞って。キラキラした目をしたのも、偽りなのかな、ねえ星愛。


『悠翔くん、ねえ、何を怖がってそんなにあたしを試すのかな。あたしは、別にあなたの後ろにある何かを見て近寄ってる訳じゃないよ。きっと、みんなそう。疑っても突き放しても、あたしはあなたを追うからいいけど。写真家三千院ミハエル悠翔の、一番目のファンはきっとあたしだもの』


 俺の承認願望を上手くくすぐって。


『だって、あの桜の下で笑ってるあたしを、あんなに綺麗に撮ってくれたのは、写真が好きになったのは、あなたのせいだよ?』


 ……その意識を、自分自身へと誘導した。


『あなたはだって、あんな優しい目をして、世界を見ている人だもの。写真家としてだけでなく、あたしは悠翔くんが気になるよ。ファインダー越しじゃなくて、いつかはその目でもちゃんとあたしを見てよ。その時どんな風に見えるか、それを楽しみにしてるから』



 彼女が好きだった。本当に。

 俺は、彼女の事しか見えなくなった。

 その頃、しきりに不安そうに俺を引き止めてくれていたのは……思えば、今俺を取り囲んでる彼女達だった。何故かすごく腹が立って、棚橋星愛を否定するすべての言葉に反発し、頑なに、拒絶して。……幼少の頃からの幼馴染の女の子への酷い仕打ちと、そう変わらないぐらい、彼女達にも酷い事をした。


 それでもまだ、俺の事を見放さないでいてくれたんだから、本当に頭が下がるよ。


「だって、ねえ」

「ウチらは、あれじゃん。悠翔の恋人って以前にファンだしぃ」

 ねえ、と当たり前のように言い合ってる少女達。……え、もしかして。

「君らは、俺のファンクラブ員、だったの?」




 そんな、俺にとっては衝撃の事実が発覚した次の日。



 放課後、いつもの生徒会室のいつもの机で、俺は書記らしく仕事をしていた。

「最近は随分真面目だな、悠翔」

「そういう会長こそ」

 なんの気なしに、そんな軽口を返したら……。


「俺は、引継があるから、な……」

 ぼそりと、あいつは気まずそうに言う。


 ……そういや、会長も、わんこも、……棚橋星愛、も。

 海外の学校に留学に、なるんだったか。


 それが温情だと、俺は知っている。でも、当たり前に居た幼なじみが欠けるのが寂しいのは確かだ。

 ――それを言える立場にない事も、分かっているけれど。


「帰りにさ、マカダミアナッツでも買ってきてよ」

「俺への土産の催促とは随分大きく出たな。……だが、今回は何時になるか分からん長旅になるからな、却下だ」


 いつもの通りに尊大に返る言葉が笑えないから、俺は気まずくて、その先を続けられなくなる。


 ……気づけば、日が傾いていた。

 冬はすぐに暗くなっていけない。大して長く仕事もしてないのに、すごく仕事をした気になってしまう。

 まあ、書類仕事嫌いの俺の言うことだから、誇張入ってるけど。


「ふう、今日はこんなところかな」

 毎日真面目に出てるのもあって、あんまり仕事も溜まってない。

 俺は書類を鍵付きキャビネットに片づけに立ち上がる。


「俺の方も一区切りだ」

「じゃあ、寮まで一緒に……」

「いや。少しばかり、残って片づけものがある」

 会長は俺の誘いに首を振り、一際に立派な机から立ち上がると……その机を、片づけはじめた。

 あらかじめ用意してあったのか、段ボールを組み立てると、私物をそんざいに突っ込み始める。


 ――ああ、本当にお別れか。


 その姿に俺は、ようやく実感が沸いてきた。


 大学まで、いや、個人的な付き合いとしては死ぬまで。

 一緒にバカやってるものだと思ってた。

 会長は……磐梯弘樹っていう存在は。

 幼稚舎からずっと、それこそ、兄弟みたいに付き合ってきた相方が、こんな途中で消えるなんておもってもいなかったから。

 胸の奥にずしんと、ひどく重く響くものがある。




 午後五時を過ぎ、フランス窓から見える外の景色は暗く沈んでいる。

 俺はぽつりと、呟いた。

「会長も……俺もさ」

「うん?」

「……いろいろ、ホント、いろいろ間違えたね」


 会長は段ボールに私物を詰める手を止めて。

「……ああ」

 重たい、ため息を吐いた。


 なにを、と。

 問いかける事すら陳腐な程、俺達は間違えた。盲目なぐらい恋に恋して。

 これからの、自分の生きていく道を、暗くするくらいに、失態を演じた。


 その結果が、この――どうしようもなく心を重くする虚しさなのだから、俺達はそれを、甘んじて飲み込むしかないのだ。

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