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ヒロインはカラカラから回る~婚約破棄から始まる逆転劇~  作者: megu
ヒロインはカラカラから回る【本編】
1/13

ハロウィンパーティの裏で

冷清院桜姫(れいぜいいん・おうき)! 見損なったぞ。淑女の見本となるべきお前が、弱い立場の奨学生、棚橋星愛(たなはし・せいあ)を、取り巻きを使って虐めるとは!」

 あらこの声は、ドS眼鏡キャラ、風紀委員長の声ね。

 ヒロインは、ヒーローに囲まれて、悪役令嬢に虐められたばかりのショックで泣いているって設定だから、みんなの顔を見れないの。


 ええ、「設定」 なのよね。

 だって、悪役令嬢のヤツったらいつまで経ってもヒロインの事、虐めにこないから……。

 仕方なく、仕方なくだよ? 狂言ってヤツをやりました!

 たたないフラグを無理矢理自分でたてるとか、ホンット、メンドーだし空しいしで、正直イヤだったんだから。


 ああ、紹介が遅れたわね。あたしはヒロイン!

 あたしは、いわゆる転生ヒロインってやつ? 前世好きだった、乙女ゲーム「パーフェクダーリン! ~デキる男子は、デキる女と恋する~」 のヒロインとして産まれてきたの。

 つまりはこの世界の、主人公ってやつ?

 花もはじらう、十七歳の高校二年生よ。


 舞台となる学校は、「冷清学園(れいぜいがくえん)附属(ふぞく)冷清高等部(れいぜいこうとうぶ)」、通称冷高(れいこう)

 小中高一貫教育の、いわゆるハイクラスしか通えない超お坊ちゃま校なの。

 山一つを敷地として、各種最新施設が盛りだくさんの、学業に、スポーツにと、青春をぶつけたい者だったら、誰もが憧れるような学校よ。

 当然、お坊ちゃまお嬢様だけでなく、学園施設を使いたい人向けと、後は、偏差値を上げる為にかな? 一般枠があるのね。あたしはそれを使って入ってきた、優秀なる庶民というわけ。

 小学校はさすがに通いが多いけれど、中高ともなると、付属の寮に入る事が多い。とうぜんヒロインも、女子寮に入っているのよ。

 学内用の移動用に共用自転車が準備してあったり、各種施設を繋ぐ循環バスがある、といえば、その規模がわかるかしら?

 山のふもとには学園関係者を相手とした商店街まであるというぐらいに、関係者も多ければ敷地も広すぎて、二年経った今でも迷うぐらいの大きさなのが、玉にキズってやつかしら。


 そして、今日!

 秋も深まってきたこの日に、待ちに待った逆ハーレム完成、グランドハッピーエンドを迎えるの。


 それは、ハロウィン・パーティの日。

 お金持ち学校の子たちだから、それはそれは凝った仮装を身につけてるのよ。

 ……当然、実行委員の中心でもある、生徒会もいろいろ、装っていて。

 マントとタキシードで装った吸血鬼なカレ。

 ラフな装いに、狼耳カチューシャにふさふさ尻尾を付けた狼男なカレ。

 ジキルとハイドか、同じ服装できついメイクと穏やかメイクで真逆の性格を演出する双子のカレ。

 ボルトやらツギハギメイクで装ったフランケンシュタイン風のカレ。


 イケメン達が揃って、仮装した姿でラブエンディングのスチルを彩るの。ねえ、とっても素敵じゃない? 


 そしてこの日は、もう一つ大きなイベントがあるのよ。

 ヒーロー達に、悪役令嬢の悪事が糾弾されて、ヤツが落ちぶれる日でもある訳!


 このエンディングに至るまで、それはそれは苦労したのよ!

 何せ、あたしの役回りは、基本的には学力が高いだけの平凡庶民女子。

 いや本当に、顔も平均よりちょっと上ぐらい? 身長体重スリーサイズと、普通としかいえない平均。そんなあたしが、自分磨きしてデキる女になり、学年上位に入って学園の王子様達に見初められる、サクセスストーリーでもある訳。

 副題通り、デキる男子である攻略対象達をオトすには、高い教養、高い知識が必要で、ハイソな男子達の隣に立つ為には、美容やファッションにも手を抜けず。

 この二年というもの、日々が努力の連続だったんだから!


 ね? この苦労、報われてもいいと思わない?




 それにしても。

 ……糾弾フラグを立ててみたはいいけど、この悪役令嬢ってずいぶん大人しいのね?


 呼び出しにお誂え向きなカンジの、校舎裏。造園会社が手を入れ、美化委員が日々の清掃をして守っている、イングリッシュガーデン風に作られているそこは、冬間近の秋の頃には、誰もいなくって丁度いいスペース。

 ずらっと並んだあ・た・しの! 逆ハーレム員たら、みんな恰好よくて、まったく乙女ゲームのスチル並に素晴らしいものだわ。惚れ惚れしちゃう。

 って言っても、絶賛泣きマネしてるせいで伏せた顔を覆う手の隙間からしか見れないんで、いまいち何処に誰が立ってるかも微妙なとこなんだけど。



 ゲーム内では、庶民派ヒロインにいちいち上流社会のオキテを言ってきては、「あなたの身が危ないから攻略対象から距離を置け」 とか、制裁の間に入って阻止してみたり。「収入の大きな違いは家同士の不幸になるから止めた方がよくてよ」、とか上から目線な忠告をくれたり。

  若干、ヒロインのドジを助けたりの、もしかして百合なんじゃないのってぐらいにヒロインに対してグイグイ来てた目立ちたがりやさんな原作要素が控えめになって、距離は開いた感はあるけど。いっそヒロインの事好きなのかしら? と思うぐらい上から目線なアドバイスを飛ばしてきた人物よ。

 現実でも、同じなのよね……。なんか、フツーにいいヒトなのねって、分かるような行動をするのよ、この悪役令嬢。

 何て言うか、押しつけがましいけどまあ、間違ったことは言わないって言うか。ハイソなお嬢様らしいプライドの高い女の子、意識高い系っていうか? そんなイメージがあったのよね。

 てっきり、皆に冷たい視線を向けられて、さぞかし上から目線の私は正しい事をしました! 家名に誓って不正などしてません! っていう弁解をするかと思ってたんだけども、つまんないの。


 本当に、こんな大人しい人だったかなぁ?

 原作知識も、転生して十七年も経ったから正直曖昧なことが多いんだよね。

 攻略に当たって、色々と、「悪役令嬢キャラならならこうする」 みたいなあるあるを、ヒーロー達に刷り込んでおいたもので、攻略対象達からの悪役令嬢の心証はどこまでも落ちきってるし、やり切っちゃった今では引くに引けない状況になってるんだけど。


 だって、このルートじゃないと、あたしの第二の本命たる学園長ルートが開けないのよねぇ。

 二年も経ったのに、例会や朝礼でしか見れないのよ、カレの姿。大好きなキャラなのに、ラブラブチュッチュ出来ないじゃない、このままじゃ。

 だからね、苦肉の策で、令嬢没落ルートに入るしかなかったの。


 本当にここまで来るには、ゲーム知識を必死に思い出しての裏工作が大変だったのよ。モブ令嬢はちゃんと虐めてくれたから、攻略対象の同情引くのは楽だったけど……。


 でもね、でも。学園長を引っ張りだせる唯一のルート、ヒロイン様女神様な、この逆ハーレムルートでは、意地でも彼女に悪役になって貰わないといけないのよ。

 だって、彼女、ゲームの裏ヒロインっていうか……。学園のマドンナ的存在で、皆が敬愛してるのよね。一途ルートなら、まあいいのよ。潔く身を引く人だし、ヒロインを助けてくれるし。

 でも、あれよ。ヒロインの一人天下の為には、放っておいたら百害あって一理なし、なの。逆ハーレムには、すっごい邪魔な訳!!

 だから、どうにかして、それこそ嘘を吐いてでも彼女を追い出さないとならないの! これは、ヒロインとしての使命なの!


 ……本当は、悪役令嬢じゃないの、あたし知ってるわ。

 実は、この、通称「冷清院ざまぁイベント」 の後、学園退学の上に彼女が実家から放逐された後に、彼女の意図とかが分かるんだけど。……ええ、当然、それは善意だったと分かるのよ。

 そこでようやく、ヒロイン虐めをやってたのは、令嬢とは違う赤の他人っていうのが分かるんだよねぇ。

 追放どころかピンピンしてる、モブ令嬢達が悪役令嬢の名を騙りやってたっていう……でも令嬢本人失踪しちゃってるし、本人の両親は名を下げてしまった家の為に朝も夜もなく働き、令嬢のその後を探す暇もなく。当人はおそらく自らが背負った借金返済に、その……。お水関連に、身を沈めたんじゃないってだけが分かって。全くて手掛かりも見つからず、お詫びも出来無いわー辛いわーってなるんだけど。




 ……チラッと、伏せていた顔を上げて令嬢の顔色を見てみるけど、なんだかヘーゼンとしてるんですけど。


 どうゆうこと?


「大体、以前からお前は可愛げのない女だと思っていたんだ。婚約者の俺の事も立てず、さも自分が正しいかのように振る舞う。それと比べ、星愛の可愛い事ときたら!」


 ……お、おう。

 何かすごい事言ってる気がするよ? この生徒会長。


「女は、黙って三歩後を付いてくる! 俺の事を何より立てる! それぐらいの配慮もないからこそ、俺にも生徒会の面々にも見限られるのだ! まあ、今更しおらしくした処で、俺は騙されないがな」


 じ、時代錯誤もいいところだこの会長……! 原作ではぐいぐい引っ張ってくれるリーダーとして格好いいと感じてたけど、どこのおじさんだ! やだなこれは……。


 むー? それにしても、婚約者がこれほど見下してくるのに、令嬢から何の反応もない。

 言われるままで反論もしないで、どうしたのかしらね。

 負けず嫌いのイメージがあったけど……やっぱりそれも現実では違うのかな?

 いやま、このままお前が悪だ、バーン! で終わって、ヒロインが皆にラブラブチュッチュされる大団円エンディングが迎えられるなら何でもいいんだけど。




 ああ、しかし相変わらずの美形ねー。と、嘘泣きの間に、あたしは悪役令嬢、学園のマドンナの事を眺める。

 さらっさらの黒髪にしみ一つない白い肌、小作りな顔に整った目鼻立ち、きりっとした眦の、美少女というよりは美女ってカンジの女がそこにはいる。


 まあ、ね。ゲームやってた時は、「何であんな美人フッて平凡ヒロインなんかに靡くんだろ、ヒーローバッカじゃないの」と思ってたしねー。ヒロインに生まれ変わった時点で、そんな感想も投げ捨てたけど。

 だって、この令嬢はさ、最初っから恵まれた地位にいて、楽勝人生じゃない? けど、あたしはフツーに生きてたら、きらびやかでおハイソな世界には一生涯いけないんだもの。

 あたしだって、彼女ぐらいの家格があれば、六畳一間の安アパートが実家だったり、ダイエット記事に従って必死になったり、手作りコスメで肌づくりしたり、アウトレットで必死にセール品を漁ったりしなくても済むのに、世の中って酷いわ。


 そりゃあ、悪役じゃないけど の一人や二人、蹴り落として、成り上がりたいって思うってもんじゃない? 平凡な負け犬の人生なんて、前世だけで十分だし。


 あたしは、世界のヒロインなんだから、その権利があるわよね。

 ほら、彼女だって今の今までお姫様として幸せに生きてきたんだから、ここは勉強と思って、転落人生を送ってほしいの。

 地を這いずって、庶民の苦しさを知って欲しいわけ。ヒロインもね、この学園に入るまで大変だったし!!

 これは勉強、そう! ヒロインたるあたしだけが贈れる、彼女への試練よ、人生の贈り物なのよ!




 とか、考えてる間にも、糾弾は続いているみたい。


「規範の筈の冷清院家令嬢が、何をしているのか……軽蔑に値する」

 と、冷たい目で実はワルで外ではチームなんて率いてる、風紀委員長が、実行委員会の腕章を付けた、制服姿のまま言って。


「怖い女……虐めとか、最低なヤツ」

 癒し系女子が好きなフランケンシュタイン姿のわんこ庶務が、怯えた顔をして悪役令嬢から遠ざかって。


「うわー、イジメバレちゃったんだー。もっと上手くやりなよねー」

「悪い事は、最後まで隠してこそでしょ、こんな簡単にバレて、詰めが甘いよねぇガッカリー」

 とか、面白い事大好きなジキルとハイド姿の双子会計が、悪戯っ子らしく、悪事バレを笑って。


「女の子は皆好きだけど、……あんたみたいな影で虐めるような子は陰湿で嫌いだな。二度と近寄らないで欲しいよ、最悪」

 隠れピュア疑惑のチャラ男書記が、狼男姿で距離を取る、んだっけ。




 うんうん、原作通り!! これはあたしの勝利間違いなしだねっ!

 ……ん? 誰かがこの場面で足りない気がするけど……それは、まあいいや。


 それまで、生徒会役員として仲良くしていた面々、全員から、決別を言い渡される、それがこの糾弾シーン。

 学園のマドンナ、転落人生のはじまりはじまり、ってね。


 あたしは泣き真似しつつ、俯きがちなままにニヤリと笑った。だって、次の言葉が出たら……。


「全くだ、桜姫。気高い女だったお前だからこそ、俺の隣に置いていたというのに……取り巻きを使って虐めていたそうだな? そんな、卑怯な女など願い下げだ。今日、この時を持ってお前との婚約を解消する。お前の家とも取引は引き上げる。俺とお前が大学卒業後に役員になる事に決まっていた、例の共同事業は解体を進めるし、その負債をお前に負ってもらう。お前のような醜悪な人間が、人の上に立つなどあってはならない事だ。お前はその一生を費やして、星愛に罪を贖って貰おうか」


 ふふ、やったわ! 最難関のヒーロー、学園王子こと生徒会長の悪役令嬢との婚約解消フラグも立ったわね! 後は、遅れてこの場にやってくる、隠しキャラ達との決別、ヒロイン逆ハーレム完成と、学園追放フラグ完成も間近よ!

 さあ、隠しキャラ達よ来い!


 ……なーんて、思ってたあたしがバカでした。

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