お菓子好きのふたりの出会い
「これがあたったらチップフライ新味が一年分もらえるこれが当たれば一年分もらえるこれがあたったらチップフライ新味が一年分もらえるこれがあたったらチップフライ新味が一年分もらえるお願い頼むから当たってくれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ」
鬼界から人間界に降り立ったは商店街のくじ引きエリアでくじ引き券がクシャクシャになるほどに握り締めながら呪詛のようにそう呟き、周囲の人たちをドン引きさせていた。なぜこうなったのかというと、少し前にさかのぼる。
人間界に降り立った後、ただひたすらチップフライの新味を探してぶらぶらと歩き回ていた。もうすでに八件もコンビニを回っているのにどこも売れ切れてしまっているか取り扱っていなかった。タイミングが悪かったのかもしれないが、そうそう怒らない俺でもさすがににイライラしてきた。
「なーんでどこのコンビニ行っても見つからないっかなあー」
一番最初のコンビニで買ったうまし棒の新味をサクサクと頬張る。
その時、突風が吹いて顔面になにか紙が張り付いた。
「ふがっ、なんなんだよ一体、紙なんて物質の分際でよく俺の顔に張り付いたな、破くぞくそっ」
顔に張り付いた髪を引っペがし、破こうと両端を掴んで・・・
「あ!こ、これは!」
飛んできた紙はちょうど探していたチップフライ新味のボックス一年分が商品だという、抽選会の券だった。
「やっぱ俺ってすげえ!こんなにも求めていたこいつらが、ただで、しかも一年分も手に入る!これは・・・、これは・・・行くしかねえだろ!」
そう街中で叫んで、近くにいた親子が「ママー、あの人どうしたの?」「しっ、ダメよ見ちゃダメ。絶対に見ちゃダメだからね?貴方はあんな街中で叫ぶような大人になっちゃダメよ?」「うん!わかった!」とかいう会話を交わされたりしても俺は気にしない!絶対に気にしたりはしないから!それよりも、いざ抽選会場へ!
というわけで今蒼はみっともなく抽選券を握りしめて自分の番になるまでにチップフライ新味があたってしまわないようにだらだらと汗を流しながら念を送りながら呪詛のごとく「当たれ」と唱えているのだ。
「では、次の方どうぞー」
「ひゃいっ!」
抽選券のお姉さんに呼ばれてビクリとして、更にギュッと強く抽選券を握り締めながら抽選器の前に立つ。
(今からこれを回して黒い玉が出ればチップフライ新味一年分が手に入る黒い玉だ、灰色じゃない黒い玉だお願い打でてくれいや本当出てください一等賞とかいらないから三等のお菓子の方が欲しいんだよ同じお菓子でも四等のチップチャプスはいらないから、いや、嫌いなわけではなくむしろ好きだよ、けどね名前似てるけどそっちじゃなくてチップフライだからそこんとこよろしく!)
「あのー、抽選券をこちらに渡して下さいませんでしょうか」
「あ、すみません」
はっと我に返り蒼は係りのお姉さんに抽選券を渡すが、お姉さんが「うわあ、汗だらけ、気持ち悪い、なんだよこいつ」とつぶやいていたのを彼は聞かなかったことにした。そうでもしないとメンタルが殺られてしまいそうだったので。
涙を拭いながら鼻をすすってから、スーハースーハーと深呼吸をして、抽選器の取っ手に手をかける。
(今こそ、運命の時――!)
「いや、大袈裟すぎますよ、馬鹿なんですか阿呆なんですか」
「お姉さんやめてください死んじゃいます」
溢れる涙をもはや止めることもできずにゴクリと唾を飲み、抽選器の取っ手を回す。
ガラガラ・・・と抽選機の中で玉が混ざり合うことが聞こえ、それに伴い心臓の鼓動の音も大きくなって行って・・・カラン、と玉が出る音がした。
「おめでとうございまーすっ、四等、チップチャプス新味一年分!当たりましたあーっ!」
オレンジ色だった。
それを知った瞬間膝から地面に崩れ落ちそうになるがかろうじて耐えて笑顔のお姉さんにチップチャプス一年分が詰め込まれたダンボールを受け取る。
ショックのあまり真っ白になりながら重いダンボールを持って抽選会場を離れようとした蒼の目に、一人の少女が目に入った。その少女も蒼と同じように真っ白になりながら重そうなダンボールを持っていた。少女の方も同じような格好の蒼が目に入って気になったらしく、しばらくの間お互い見合って、ダンボールに目をやったと同時に見事にシンクロして、
「「あああ!チップチャプス/フライ一年分!」」
と絶叫した。
蒼と少女はハッと目を合わせてしばらく見つめあうと、そのことに何か通じるものがあったのか目線だけで会話をしてフッと笑い、
「よし、交換しましょうか」
「そうですね、交換しましょう」
ダンボールを交換してから固く握手を交わした。
((お菓子好きには、悪い人はいない))
考えが見事に一致し、先程まで真っ白になっていた二人はとてもいい笑顔で別れた。
「あー、良かった。自分では当てられなかったのが残念だけど結果オーライ、だな!」
チップフライ新味を手に入れた蒼は目的を果たしたので鬼界に帰るべく人気のいない場所を探しに商店街から離れた。
しばらく歩いた後に、蒼はあまり人のいない住宅街に出た。
「ここらへんなら大丈夫かなー?」
蒼は周りに人影がないことを確認してから段ボールを足と足の間に挟まれるように置き、パンッと手を打ち合わせ、呪文を唱える。
「我、蒼鬼が命ずる。時と時、空間と空間を繋ぎし精霊よ、今この場に鬼の世と人の世の通り道を作り出せ!」
光のチューブが蒼の体を包み始め、半身まで包み込まれたところで、
「あ、いた!」
「はい?」
「先ほどのお礼にチップチャプス少しおすそ分けしようと思いましてですね」
先ほどの女子高生がお礼のために蒼の後を追いかけてきたらしく、蒼のそばに駆け寄った。悪意がないことは蒼にもわかったが、この状況はとてもヤバイものだった。
「え、ちょま、離れて!離れて!」
「え?なんでですか?」
必死に離れて、と言うもすでに遅く、
「ああああああ」
「え?何!?」
二人の姿はその場から消えた。