蒼と千里
「あー、だりー暇だー」
古い小さな小屋の中でそうぼやく鬼がいた。その鬼の腹がグウーとなる。
「…腹も減ったー」
鬼は心底だるそうに立ち上がり、小屋にそぐわない冷蔵庫を開ける。が、
「見事になんもねえ…」
見間違いかもしれないと、幾度か開け閉めを繰り返すが、何度見ても冷蔵庫の中身は空っぽで、食べ物のカスすらもなかった。
「腹が減った・・・あああ・・・なんか食いたい・・・だるいけどしゃーない、人間界いくか・・・ああ・・・」
鬼の食事、といえばなにが想像されるだろうか。
童話や伝説の中では、鬼は人間や動物を生け捕りにし、獣のように肉を貪り食う、という姿が一般的だ。
では、彼も人間を捕まえ、その血肉を喰らうのだろうか?
「今日はう○い棒にしよう、そうしよう!」
全然違う。人間どころか動物でもない、肉でも魚でもない。お菓子だ。人間の作り出したアレだ。
「なんか新味出てねーかなー」
鬼は嬉々としてその場で立ち上がる。
「我、蒼鬼が命ずる。時と時、空間と空間を繋ぎし精霊よ、今この場に鬼の世と人の世の通り道を作り出せ!」
鬼がパンッと手を打ち鳴らしながらそう唱えると、足元に白い光を放つ輪が現れ、足元から光のチューブがのびて鬼の体を包み込む。
「待ってろよ、お菓子共ー!」
彼の名は蒼鬼。
この物語は、彼を中心とした出来事を綴ったものである。