とっても良い日
……最悪だ。
……今日は最悪の日だ。
残業が終わり、もう少しで終電の時間になるところだったので、私は早歩きで駅に急いでいたら、ヒールが折れた。
私は仕方なしに靴を脱いで歩くと、思わず泣きたくなってくる。
本当に今日は朝からついてない。
まずは人身事故でいつもの時間の電車に乗れなくて遅刻をした。
お昼、コンビニでいつもは弁当やおにぎり、パンが置いてあるのに全部売り切れだった。
カップ麺は汁が飛ぶので嫌だったが、仕方なく醤油ラーメンを食べようとカップ麺にお湯を入れ、少し席を離れて戻ったら、職場でも嫌われている男に私のラーメンが食べられていたのだ。
私はその光景を唖然と見ていたがヤツは悪びれもなく、「悪い、買ってきた弁当が足らなくてさ」と言い、食べかけのそれを渡してきたが、ヤツの食べかけはいらないから丁重にくれてやった。
それを見ていた心の優しい同僚の女の子がカロリーメイトを譲ってくれて、だけどもやっぱりそれだけではお腹は満たされなかった。
そして、今日の嫌な事はそれだけにはとどまらなかった。
今日、最大の最悪。
それは、今年に入った部下の尻拭いだ。
少し気を付ければ回避出来たようなちょっとしたミスで、そのミスがその後の書類にも影響を受け、今日中に間違えた書類全部を直さないといけなくなったのだ。しかも私一人で……。
その書類の量は沢山あり、漸く先程終わった。
本当ならミスした部下がやるのが普通だが、私の上司はその部下がお気に入りの子だったので、定時に上がらせて私に押し付けたのだ。
改札口を通りながらその事を思い返して、本当に腹が立つ。
無事、駅について自販機でコーヒーを買い、一息ついた後、ちょうど来た電車に乗る。
車内は私を入れて数人程度だった。
携帯を取り出すとメールが来ていて、見ると少し驚く。
中学時代のとても仲の良かった人からで、「暇だったら連絡して」と書いてあり、無性に懐かしくなったのだ。
その人とは今でも稀に何気ないメールとかしていたが、県外に行っているのであまり直接会う事はない。
その上、こんな風に連絡してと言うメールも珍しいな、と思いながら「今暇になったけど、どうした?」と返すと、直ぐに電話がかかってきた。
『これから暇なら飲もう!』
「第一声がそれか!」
『別にいいじゃない貴女とわたしの仲でしょう。で、行くの?行かないの?』
有無を言わせないような問いかけに、明日は休みだしいいかあ、と思いながら言う。
「まぁ、明日は休みで暇だからいいけど、あんたはいいの?ていうか何時帰ってきたのよ」
『今日のお昼過ぎくらいかなあ。で、今どこ?』
「もう少しで〇◇駅だけど……」
『それじゃあその駅で降りて。今から迎えに行くから』
彼女はそう言うと電話を切り、私は少し唖然とするが、ちょうど駅に着いたので電車から降りた。
何時も唐突なのはあの頃から変わってないなあ、などと考えながら改札口に向かう。
駅から出て、今更ながら何時頃この駅に迎えが来るのだろう?と思った。
そんなには待たないだろうとは思うけど、外で待つのは少し寒い。
駅の中に入っても、この駅は風通しがいいからあまり意味がないので、外で待つ事にする。
「はぁー」
思わず大きな溜め息を吐く。
今日は散々な日かと思えば、懐かしの人に会えるのだから、まぁまぁな日なのかもしれない。
まだ駅から出て数分も経ってないのに早く来ないかな、と思いながら夜の空を見上げたら、一つの星があっと言う間に落ちていくのを見た。
何だろうと思い、流れ星だと暫くして気づく。
初めて見た。流れ星。
あんなに早いのか。
あんなに早いのだから、例え一回でも願い事を言ったとしても絶対に間に合わないだろう。
誰だよ、三回願い事を言えば叶うって言った人は。
願いなんてそんな簡単に叶うわけないから諦めなって言ってんのかなあ、とやさぐれた考えをしながら夜空を見上げている。
もう一度溜め息を吐くと、また星が落ちて行くのを見て、少しだけテンションが上がり、そう言えばと思い出す。
確か今日は流星群が見れるんだっけ。
何の流星群かは忘れたけど、今日だった筈だ。
そう思った瞬間にもまた、星が落ちる。
……うん。
今日は散々だったかも知れないけど、これから仲の良い友達といろんな話でもしながら飲んで、のんびりして、しかも初めて流れ星を何回も見れて、今日はとっても良い日だ。
安いかも知れないけど、多分それで良いのかも知れない。
まだあまっていた缶コーヒーに口をつけると、少し生ぬるく感じながらも夜空を見上げ、また星が流れるのを見た。
おかしい部分があれば教えて下さい。