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深き森の魔女は、ただ静かに暮らしたい  作者: 篠原皐月


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6/11

(6)厄介事解決担当?

「さて……、ちょっとお茶でも飲んで休憩しましょうか」

 朝から、裏手の畑で収穫した薬草の処理をしていたソニアは、区切りの良いところで作業場から台所に向かった。その途中で聞き慣れた音が耳に届き、その音源に向かって歩き出す。


「誰かしら。今日は特に約束はなかったけど」

 独り言を呟きながら、彼女は壁に掛けてある鏡に近付いた。それに軽く手をかざして魔力を注入すると、鏡面に馬を引いた二人の男が映し出される。


「あれから一ヶ月近く経過しているけど、まさか本当に来るとはね……」

 二人と顔を合わせてからの日数を思い返し、ソニアは思わず溜め息を吐いた。その間も二人は馬を引きながら狭い道を進んでおり、彼女は諦めて戸棚に向かった。




「失礼する。ソニア殿、ご在宅か?」

「お邪魔します」

 出入り口のドアを開けながら二人が中に向かって呼びかけると、ソニアはテーブルに無地のカップを三つ運んでいるところだった。


「はい、おりますよ。どうぞお入りください。今お茶を淹れますから」

「それはありがたいが、その前に前回の謝礼を持参したので、どこに置けば良いだろうか?」

「何を持っていらしたのですか?」

「予めこの近辺の集落で、普段魔女殿とどんな物を物々交換しているのか調べてみたのだ。それで塩、油、針、糸、布地などを揃えてきた」

「よろしかったらお納めください。ここまでそれを馬の背に積んで来たので、二頭を表の木に繋いでありますが大丈夫でしょうか?」

 渡されても困る大金や宝飾品などであれば突っ返したところだが、自分が受け取りやすい物を厳選した姿勢を認めたソニアは、ありがたくその好意を受けることにする。


「それはどうもご丁寧に。馬は、そこに繋いでもらって構いません。そうしますと、例の件は上手くいったようですね」

「ああ。それに関しては、土産話としてお伝えしようと思う」

「それではアレクシス様、塩と油はこちらの台所に運んで頂けますか? 大公様は、他の物をそこの壁際の棚に置いてください」

「分かった」

「台所はこちらですね?」

 そこで男二人は、馬から荷物を下ろして指示された場所に運び、その間ソニアはお茶を淹れてテーブルに運んだ。そしてポットから、用意しておいた三つのカップに中身を均等に注ぐ。


「どうぞ。一応、毒味をした方がよろしいですか?」

 彼女が向かい側にカップを差し出しながらお伺いを立てると、エリアスは苦笑しながらそれを手に取った。


「結構だ。いただこう」

 そこで一口味わったエリアスは、怪訝な顔になった。


「変わった味だな」

「通常のお茶ではございませんから。お二方とも、少々お疲れのご様子。疲労回復に効果のある薬草茶がよろしいかと思いまして」

「それはありがたい」

 エリアスは微笑んでそのまま飲み進めた。ソニアは、そんな彼からアレクシスに視線を移す。


「アレクシス様は顔色が良くありませんし、胃の調子も良くないのでは? 睡眠不足も重なっておられるようですし」

 そう声をかけると、アレクシスは僅かに驚いたような顔つきになる。


「お分かりですか? 流石です、魔女殿」

「気休め程度にしかならないかも知れませんが、眠りやすくして胃の調子も整える薬草茶を、お帰りの際にお分けしましょう」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」

「いえ、これくらい大したことではありませんので」

 そこでソニアが一口お茶を飲んだところで、エリアスが報告を始めた。


「それではソニア殿。前回あなたに出していただいた策だが、実に上手く事が運んだ。ディアーナ嬢は一昨日、母と兄と共にアルテリア国に向けて出立したぞ」

 この二人が再訪したことで、ソニアは結果を予想していた。しかし幾ら何でもあっさり引っかかりすぎではないかと、自分が唆したのを棚に上げて呆れながら言葉を返す。


「それはそれは……。その方達が迂闊すぎるというか、殿下達の水面下での工作活動が功を奏したのか。どちらでしょうね?」

「それは勿論、両方だろう」

「さすがに通常業務に加えての工作活動で謀殺されていましたが、あの連中を陥れる為だと思えば、どんな労力も惜しまず働けました」

「……どういうコメントをすれば良いのか迷いますね」

 楽しげに語る主従を見て、ソニアは微妙な顔つきで溜め息を吐いた。


「向こうに到着して詳細が明らかになったら即行戻ってくる可能性もあるが、縁談を反故にするのは難しいのではないか?」

「そうですね。ラルグ子爵家にかなりの大金や宝飾品などが贈られた直後、一家揃って散財した裏が取れています。その半分くらいは、これまでの遊興費のツケ払いに消えたそうですが」

「その分を改めて調達などできようはずもないし、そうなると諦めて輿入れするか、その散財した分を立て替えてくれる羽振りの良い商人とでも結婚するしか道はなさそうだな」

「その前に、殿下のせいだともう一騒ぎありそうですが、どうとでもねじ伏せてやりますよ。来るなら来てみろ」

(本当に大金を手にした途端、気が大きくなって散財したとはね。しかもかなりの額が、これまでの借金返済に消えたとか……。これは完全に詰んだわね。自業自得としか言えないわ)

 上機嫌に語る二人を眺めながら、ソニアは思わず遠い目をしてしまった。するとここでエリアスが、急に顔つきを改めて呼びかけてくる。


「ついてはソニア殿に、折り入って相談があるのだが。聞いていただけるだろうか?」

 その真剣極まりない表情に、ソニアは厄介事の気配しか感じなかった。


「あの……、どうして私のような一介の老婆に、相談を持ちかけられるのか理解に苦しみます。殿下にはアレクシス様を筆頭に、優秀な臣下が数多おられるでしょうに」

「その数多く存在する臣下が知恵を寄せ合っても、解決できない困った事例があるのだ。先程の縁談の件も我々には思いつかなかったので、是非とも第三者の見解を仰ぎたい」

「魔女殿、よろしくお願いします」

(この人達は、人のことを何だと思っているのよ……。問題を持ち込めば答えが出てくる、何でも屋じゃないんだけど! 持参したのが前回の謝礼に加えて今回の依頼料だとしたら、倍は貰わないと気が済まないわね!)

 内心で腹を立てつつも、真摯に頭を下げるエリアスをなんとなく突っぱねる気になれなかったソニアは、取りあえず話を聞いてみることにした。






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