第七話
ログインしたのは、まだ昼にもなってない時間だった。
暁月との約束は午後。
時間が余っているので、新しいスキルと装備を試す所である。
「……まあ、先に軽く動いとくか」
昨日の草原に戻るつもりで、街を出た。
装備も試したいし、動きも確認しておきたい。
あのガーターリングも、思ったより悪くなかったし。
「……へー、結構動きやすいな」
軽く足を動かしながら、森の手前まで来る。
その時だった。
たくさんの人の気配。
「……なんかのイベント?」
足を止める。
少しだけ様子を見ることにする。
草の隙間から、そっと覗く。
そこにはかなり強そうな装備を着込んだパーティーがいた。
「……レベル高そうだなぁ。」
装備は明らかに上位。
自然と息を潜める。
その中の一人――
前に立っている男が、足を止めた。
「ここから先は、もう一度確認しておこうか」
落ち着いた声。
周りの空気が、それだけで整う。
「条件は覚えてる?」
初心者っぽいプレイヤーに向けた言葉。
「は、はい……!」
少し震えた声。
「うん、大丈夫。落ち着いていこうか」
軽くフォローを入れる。
その一言で、空気が少し和らぐ。
――あの人がリーダーだな。
なんとなく、そう思う。
その時だった。
――ガサッ。
「……あ」
やばい。
足元の草を踏んでしまった。
全員の視線が、一斉にこっちを向く。
「……えーと」
気まずい。
めちゃくちゃ気まずい。
咄嗟に盗み聞きしてしまった事を謝罪しようとして、空気が変わる。
風が止み、周囲が暗くなる。
ぞわっとした感覚が背筋をなぞる。
「あー、1人野良プレイヤーを巻き込んじまったか」
リーダー――アイゼンの声。
草原の中央。
――現れた。
風化した銀の鎧。
裂けた外套。
背後に浮かぶ武器。
「……なんだ、あれ」
思わず漏れる。
圧が違う。
「あれは少〜し厄介な相手でね」
アイゼンが言う。
その隣で、エルが静かに続ける。
「ユニークモンスター、【放浪騎士】アルバート」
ユニークモンスター?
「みんな、少しだけ予定を変えよう」
アイゼンの声。
「追加で“条件が一人”増えた」
「レベルは?」
「……低いな。20もいってない」
エルの視線が、こっちに向く。
「それは……少し厳しいか」
でもすぐに、アイゼンが言葉を重ねる。
「大丈夫。こっちでフォローする」
自然に言い切る。
迷いがない。
「君」
「あっ僕ですか?」
「今すぐ下がれそうかな? ここは少し危ない」
「わかりまし――」
言いかけた瞬間。
騎士が、消えた。
「……は?」
「っ、来る!」
同時に。
アイゼンとエル、ほぼ同時に反応する。
直後、槍。
一直線。
「――っ」
間に合わない。
そう思った瞬間。
「危ない!」
衝撃によって体が弾かれる。
僕が転がる視界の端で――
アイゼンが受け流す。
「……間に合った」
その横で、エルが一言。
「レベル30以下のプレイヤーは優先的に狙われるようになってるから、気をつけて」
気をつけてと言われましても
「大丈夫?」
「あー……まあ、なんとか」
この二人――
めちゃくちゃ強い。
「大丈夫、こっちでフォローする」
アイゼン。
「とにかくアイゼンから離れないで」
エルが続ける。
「わかりました」
戦杖を握る。
「やれるだけやってやるさ」
少しだけ笑う。
怖い。
でも、それ以上に――
ちょっと楽しい。
「全員、戦闘開始」
アイゼンの声。
その直後。
「右、来るぞ!」
――この二人、すごく噛み合ってる。
空気が張り詰める。
戦いが、始まった。




