第五話
草原の奥へ進むにつれて、地面の色が少しずつ変わっていく。
足元の草は減り、代わりに低い木々が増えてきた。
その先に、森の入口が見える。
――次の街は、この先だったはずだ。
「……ここか」
たしかこの森の中にはパーティー推奨のエリアボスがいたはず。
そのとき。
視界の端で、草がわずかに揺れた。
「……ん?」
目を細める。
次の瞬間、地面を滑るように何かが飛び出してきた。
「っ――!」
反射で体を横に流す。
すぐ横を、黒ずんだ影が走り抜けた。
地面に擦れるような音。
長い躯体に硬そうな鱗。
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【ヴェノムサーペント】
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「……蛇か」
視線を向ける。
草の中に、長い体をくねらせる存在。
暗い緑の鱗。
細く光る目。
口元からは、わずかに紫色の液体が垂れている。
「もうお出ましかよ」
自然と距離を取る。
相手も止まらない。
すぐに体勢を低くして――
再び、踏み込んできた。
かなり速い。
けど、見えないほどじゃない。
横へ回避。
すぐに方向転換してくる。
「……へぇ」
思ったよりしつこい。
次の噛みつき。
わずかに遅れて避ける。
かすった。
「っ……」
HPが削れる。
同時に、じわりとした違和感、体の内側から削られるような感覚。
「……これが毒か」
視界の端で、HPがゆっくり減っていく。
「――リジェネ」
淡い光が体を包む。
減少が緩やかになる。
HPの減りを相殺する。
「……これなら問題ないな」
次の突進。
横へ避ける。
突進の勢いのまま噛みつき。
半歩下がって回避。
動きは速いが、単調だ。
「……見てからいけるな」
そのまま、間合いを詰める。
戦杖を振るう。
ダメージはそこまでじゃない。
だが――
蛇が体をくねらせる。
次の瞬間、足元に潜り込まれる。
「――」
絡みつく。
一気に締め上げられる。
「……っ」
体が固定される。
回避不可。
HPが削られる。
それもかなりの勢いで。
毒も乗っている。
「……結構、きついな」
ヒール。
HPを戻す。
だが削りは止まらない。
締め付けに毒。
ものすごい勢いでHPを削ってくる。
ヒール。
少しでもヒールを疎かにしたらHPが0になってゲームオーバーだ。
「……でも」
視線を下げる。
密着している。
逃げられない距離。
――つまり。
「……当て放題だわなー!!」
戦杖を握る。
そのまま、至近距離で叩き込む。
確実に当たる。
外れない。
数発殴る。
蛇の締め付けが一瞬強くなる。
HPが削れる。
ヒール。
「まだっまだぁっ」
攻撃。
ヒール。
攻撃。
削り合い。
だが、確実に削っているのはこっちだ。
やがて、力が緩み、締め付けが解けた。
すぐに距離を取る。
蛇がわずかに後退する。
動きが鈍い。
「……あと少し」
踏み込む。
突進。
今度は読みやすい。
横へ回避、そのまま、振り抜く。
最後の一撃。
ヴェノムサーペントの体がびくりと震え、そのまま崩れ落ちた。
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風の音だけが残る。
「……はぁ……」
息を吐く。
体の力を抜く。
少しだけ、その場に立ち尽くした。
視線を上げる。
走り回っているうちに森の出口の方まで来ていたようだ。
その向こうに、街がある。
「……こんなとこに出るか、普通」
まだ森の入り口も入り口だそ。
小さく笑う。
あれは、どう見ても。
ソロでやる相手じゃない。
でも――
口元が緩む。
一歩、軽く踏み込んで。
「んよっしゃぁ〜〜!」
エリアボスソロ攻略!!
「……一人でいけるじゃん、これ〜」
普通に嬉しい。
軽く息を整える。
そのとき。
視界の端に、光が走った。
ウィンドウが開く。
【スキルを習得しました】
「……ん?」
表示に目を向ける。
【ペネトレイト】
戦杖による突き攻撃。
命中時、防御力を一部無視してダメージを与える。
【キュア】
状態異常を解除する。
「……もう少し前に、欲しかったな」
少しだけ笑う。
「取り敢えず次の街の宿でリスポーン地点更新しないと」
戦杖を軽く持ち直す。
なゆたは森の奥へ、足を踏み出した。




