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しるすにあたわず ー家帰ったら紫式部おったんやがー  作者: 木枯翔陽


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第1話「ベットの上でBLを読む女SHIKIBU」

初投稿です。

よろしくお願いします。

いずれの現世にか、おっさん、お局、あまたさぶらいたまいけるなかに、いとバリバリ社畜かまして、上司に残業のいけにえにされてしまうウーマン、ありけり。


 私です。


 今は現代。ポップなヒューマンとクールなカルチャーが混在して、カオスという名が良くお似合いの現代社会。今日も締め切りだの納期だのに追われているサラリーマンたちがビルを輝かせ、摩天楼という名の夜景を構築している今日この頃。

 この愛知県名古屋市ど真ん中で、社畜をしているOLが一人。軽快なキーボード捌きで、前衛音楽を鳴らしている。


 その名も刑部葵。名は葵。性は刑部です。

 

 ミディアムショートの髪。高身長と骨格ウェーブの体型のおかげでリクルートスーツが良く似合う。特に男気もないので、ナチュラルメイクで、人様に不快に思われない程度に仕立てている普通の女です。

 ちなみに29歳。今年で30歳。アラサーへのゲームセットのフルカウントが点滅しております。今どきの若い子は30でババアとかいうけど、女の魅力が一番高まるのはこの年齢だから。ここテストに出るからね。

 友達は皆結婚して、年一会えばいい方。私は今生に生まれて誰の運命にも選ばれていません。というかバリバリのキャリアウーマンで、趣味は押し活とオタクとBLともなれば、そりゃあ引かれますって。向こうからしたら変な趣味持ってそうだもんね。

 マッチングアプリもだるくてこの間辞めた。


「まずい。ネガティブスイッチ入ってる。栄養補給」


 机の上にあるエナジードリンクを一杯。口に頬張りながら、待ち受けでクールなすまし顔を見せる我が神、恵君を見つめて、仕事の活力とメンタルを整える。

 少年漫画のキャラで、私の年齢の半分。犯罪なのは、自覚してるのよ。許して。

 これ意外と精神が安定する。滝行と同じくらい効果あるっしょ。


「ふう、定時まであと30分か。頑張りますか」


 今日は花金。楽しいこと考えないとね。今日はラーメン食って帰ろう。

 そんなことを考えている私が背伸びをしていると、ニマニマと不気味なくらい気持ちのいい笑顔を見せる中年男一人ありけり。上司の大郷課長だ。

 相変わらずのモーセに割られたかとも言えるくらいのハ……いや、爽快感がかなり感じられるであろう前衛的なヘアスタイルだ。中年太りとのマリアージュで、折角のブランド物のスーツが台無しだよ。あんた。


「いやぁ、刑部君! 今日もありがと! 君の作ってくれた資料、取引先に好評だったよ。おかげで商談もかなりスムーズに進みそうだよ!」


「あぁ、そうですか。それはよかったですね」


「さすがはこの平安商事のエースだねぇ。刑部君様様だよ……今日は花金だし、これからデートでもするのかな?」


 とんでもなく気持ち悪いことを言いながら、私の肩に手を置いてくる課長。

 うわ、きっしょ。悪い人じゃないんだけど。

 笑顔+最大級の愛想を振りまきながら、私は笑い返す。笑顔と愛想は社会を生きていく女の武器。勘違いされることもあるけど、万人に通じる。困ったらとりあえず笑っとけ。


「ははは、そんなことないですよ。課長のお力添えのおかげです」


「はは、そうかなぁ。そうか。なら刑部君。これ……お願いできる?」


「はい?」


 すると後ろからお姫様みたいなゆるふわストレートの髪をなびかせながら、いかにも男食ってそうな女が現れる。一年年下の後輩・清水なこだ。

 アイシャドー濃いめのたれ目とあどけなさが残る童顔。低身長でありながら見事な骨格ストレートを炸裂させているモデルスタイル。ニットの服から見える大きな二つの山に、この会社の男どもは皆、脳を焼かれている。

 これで美容系のインフルエンサーやってるってのが、なおさらむかつく。

 清水なこは両手に携えた大量のファイルを私のデスクに置いた。ドンとファイルから出たとは思えぬ鈍い音に、私の顔は絶望を受け入れた。


「せんぱーい? これーお願いしてもいいですかぁ? 私、今日、これから彼氏と約束があってー、どうしても帰らないといけなくてー」


 すごいね。文章の先から後までむかつく言葉並べられるあなたの文才が怖い。

 あと、彼氏持ちか。こいつ、自分の価値を理解している女だな。

 清水なこのこれ見よがしな侮蔑の笑顔に、私も精いっぱいの虚勢の笑顔を見せる。


「へー、そうなんだ? 別に彼氏に待ってもらえばよくない?」


「そんなわけにいかないじゃないですかー。それにー、彼氏がー、私が遅れるっていうと『いつ来れるの?』とかしつこいんですよー。困らせたくないじゃないですかー?」


 私が困るんだよ。

 すると課長は、私の両肩をもんで、清水なこの肩を持つ。


「まぁまぁ、ここは後輩のためにひと肌脱いでもらえないかなぁ? 君にしか頼めないんだよぉ」


 でたよ。それ。

 めんどくさくなってきた。私は渋々ひきうけることに。一蘭が24時間やってることに感謝しな。


「はぁ……まぁ、いいですけど……」


「やったぁ♡ 先輩、ありがとうございます」


 清水なこはしめたと言わんばかりの蟲惑魔的な笑顔を見せつける。どうにもこいつは他人を見下したいらしい。いつか泣かせてやりたい。

 だが課長。あなたをまだ許したわけじゃない。


「ところで課長は? どうなさるんですか?」


「ごめん! 僕もこれから専務と飲み会なんだよぉ! だから刑部君、ちょっと一人で大変だけど、頑張って! ちなみに月曜日までにはほしいからよろしく!」


 私の中のイマジナリーカエサルが、『お前もか』と嘆いている。

 そんな私はカエサルをなだめながら、山積みになったファイルを手に取った。



 並みいる業務と言う業務を、個人経営の飲食店の店主が昼時のオーダーをさばいていくかのようになぎ倒した頃には、終電間近となっていた。

 結局一蘭は私を24時間受け入れる体制が整っていたとしても、私の運命がそれを許さなかった。

 とりあえず電車に乗って、終電ロスという休日の貴重な時間を奪うことだけは回避。晩御飯は近くのマックスバリューで適当に買って、済ますことにした。

 こういう時に家に誰かいればな。いや、その思考は不幸への第一歩。人は自分の思った通りには動かない。家に帰ったら彼氏がご飯作ってくれてるなんて甘えた思考は、妄想の世界だけにしとけ。死ぬぞ。

 マックスバリューの軽快な入店音と共に、外へ出た私は、ふと夜空を見上げる。


「あぁ、オリオン座。夜空見て、そっと嘆く、世の無常、輝く星夜に、沸き立つ孤独」


 なんで一句呼んだ、私。

 解釈としては、『夜の空を見上げたらこの世はクソだなと思っちゃった。星はこんなにきれいだと、ふと一人だなぁと感じちまうだろ』ですね。

 

 するとこんな日付をまたぎそうな時に、携帯の着信音が鳴る。着信あり、じゃないよな。

 私は器用に片手でショルダーバックからスマホを取り出すと、着信に応答する。


「はいよー、もしもし、刑部でーす」


『何? あんた、ウーバーでも始めたわけ?』


「うん? なんだ、夕子か」


『あはは、相変わらず悲哀を感じるねぇ、葵。ごめん、今大丈夫?』


 電話の主は中学以来からの友人。片桐夕子だ。まぁ、私も今はバリキャリだけども、中学時代は日陰者として生きていた。三つ編みおさげと黒縁丸眼鏡がベストフレンドの内向的な生徒。そんな中学時代という苦行をともに乗り越えたマイベストフレンドが夕子だ。

 夕子はどちらかと言えば主張が強いタイプで、自分の意見を曲げずに、小競り合いウェルカムタイプだ。

 でも、そんな彼女と争いをしたがる人もいなかったためか、意外といじめとかには無縁な学生生活を送れた。高校卒業と共に別々の大学へ。ただ夕子は大学先で運命の人との出会いを果たし、無事アラサー前に結婚。今じゃ二児の母だ。

 でも、彼女は何かと私に会いに来てくれる。たぶんこういう友達生きていると一人くらいしかいない。

 なんだかんだ彼女との会話はこのクソみたいな人生においてはオアシスのようなもんだ。


「うん、いいよ。無事に社畜を終えて、今引き上げの帰還船の中にいるかな。自分で漕がないとこの船動かないのが難点だけど」


『あはは! 遠征お疲れ様です。というか自分の体を船みたいに例えんな。お前の船のオール、他の誰も漕いでくれないからね。がんばって!』


「辛辣ぅ~。相変わらず元気そうでよかった」


「そっちも、ね。生きてくれるならよかった。葵のその感性がないと、人生彩なくなっちゃうからさ」


 たぶんこういう掛け合いできる友達ってそんなにいないんだろうな。

 私は夕子に切り出す。


「ところでどうしたの?」


『あー、えっとね。今度さ、実家に帰るの。1週間くらい……いるのかな? 子供もつれて、折角だし、久々に葵の顔、見たくって』


「なるほど。つまり旦那の愚痴会がしたいと。オッケー、いつでもいいよ」


『言い方! あはは、まぁ、もしかしたらこれもそう何回も出来ないかもだし……ね。ありがとう、葵。たっくんとかっちゃんは母さん、父さんが見てくれるっていうし』


 たっくん。かっちゃん。夕子の子供だ。たっくんは今年で6歳。かっちゃんは4歳だ。


「たっくん。小学生だってね。おめでとう。もうそんな経ったか」


『ありがと。年を取るのは早いで。これからなんて特に。そういえば葵は? いい男できた?』


「男はいない。業務にはたくさん出会えるんだけどね。あとストレスか」


『うわぁ、灰色―。悲しいな。まだ職場変えてないの? もう何回も辞めよって言ってなかった?』


「まあ、思っているけど。今年で30。おまけにやりたいことがあるわけでもないしね」


 アラサーの独身女。もう今更何かを変えようなんて気は起きない。日本ってそういう国なんよね。

 すると夕子はとあることを口にした。それは私が意図的にくさいと蓋をしていたことだ。


『葵、イラストは?』


「え」


『昔さ、葵、漫画家なりたいって言ってたじゃん。どうなったの? あんたならプロになれるんじゃないの?』


「それ、か……」


 そいつはご法度だよ。親友。

 私は確かに漫画を描いていた。25くらいまではよく有給取って持ち込みしたり、漫画賞応募したっけな。でもある日、まぁ結構なこと言われてね。


 ―――君……イラストうまいけどねー。お話がさぁ、微妙じゃない? 中身がないというか。お利口さん過ぎるんだよねぇ。そこのセンスなさすぎだよね―――


 夢があればなんでもできるなんて、テニス選手みたいなこと思ってた時もありました。

 けど、『夢』なんて大層な題名つけた月刊誌出してる編集部にいわれちゃあ、ね。

 捨てざるをえんやん、夢。

 ネガティブバイアス、ぶん回し。私はふとため息を吐いて答えた。


「それはまぁ、横に置いといて」


『まあ、葵の決めたことだしね。また飲みに行こう。来週の土曜日でどう?』


「おーけー。また時間はラインして」


『りょー。夜遅くありがとね。じゃあお休みナイト!』


「なっつ、お休みナイト」


 夕子はいいやつなんだ。なんだかんだこうやって心配してくれる。

 けどまぁ、特別な才能がない人間は、社畜して、ご機嫌取って、飯食って、寝て、適当に遊んで生きているのが一番なんすよ。

 そうやって社会の歯車演じてりゃあ、路頭に迷うことはないんすから。

 

 しばらくして、私の城。という名の一人暮らし用のワンルームマンションへと帰ってきた。

 ただいま、夢はないけど、夢のマイホーム。家があるだけありがたいことよ。

 入口はちゃんとオートロック。一人暮らしの女にとってこれがあるとないとじゃ安心が違う。

 私の部屋は一階の隅っこ。二階建てなので住人とすれ違うことはほとんどない。相対的に住んでいる人間が少ないからだ。

 部屋の鍵もなんだかんだダブルロック。おまけに特殊な構造をしているスペシャルっす。

 

 

 

 スペシャルな鍵。―――たぶん、そう思うのは今日まで、とは思わんよ、普通。


 家の扉を開けて、だるそうにパンプスを脱ぐ私。すると、何か物音が聞こえる。

 何かを、めくる音。


「え……」


 さすがの私も何かを感じた。いや、感じたくなかったけど、そう思うしかないわ。

 誰かいる。

 人って不思議。予想だにしないことが起こると、色々考えだす。

 どうやって入ったの? いや、警察に言うべき? これ、玄関の電気つけていいの? いや、ここはいったん外出て? いや、外の方が危険か?

 買い物した物の中に、2リットルのペットボトルのお茶を買っていた。ここは全力で殴って撃退。よし、それでいこう。

 電気を付けず、そのままキッチンダイニングを抜けて、リビングへ。不幸中の幸い、月明りのおかげで夜目は冴えている。

 私はリビングへとSWATの如く、飛び込んだ。


「誰じゃい!」


 勢いのままに突撃。すると、びっくり。


「へ?」


 そこにはなんと……十二単? でいいのか。それをきた、黒髪がめちゃくちゃ長い姫君一人ありけり、よ。


 ―――あれ、ここ平安?


 ベットの上で十二単着た女が、私のBL本を読んでいる。意味わからんて。


 赤を基調とした極彩色の着物。時価で言ったら数百万レベルの大仰なもので、あまりの大きさにベットからオーバーしている。黒い髪も今の時代ではありえないレベルの超ロング。それも一つのカーディガンかよってレベル。

 顔はまるで高級な食器とも言えるような白さで、気品ある顔立ちはいわゆる大和なでしこって表現がベスト。大きな黒色お目目に、薄紅色の唇。あぁ、羨ましい。

 体は小柄だけど、主張せず、なおかつゆがみも無いあまりにもパーフェクトなスタイル。多分いわゆる特殊性癖が好みそうな体つき。スク水が良く似合う。


 こんなもんか。私の貧相な語彙力で表現できるのはここまで。お願い、許して。


 私は構えたペットボトルのお茶を思わず落とした。すると、その十二単の女は全てを察したのか、私に聞いてきた。


「ねぇ」


「何でしょう……」


「これ! 7巻どこにあんの!? めちゃくちゃおもろいんやけど!」


「……開口一番、それかいな!」


 いや、本当にあんた、誰。

 でもまぁ、これがまさか私の運命を変える出会いに……いや、そんな生ぬるいもんじゃないな。私の生活めちゃくちゃになる出会いとは思わんやん、普通。


 それが、変わっちゃうんだよなぁ、これが。


第2話に続く

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