婚約破棄された私から、お幸せに(笑)
ずっとずっと大好きだった婚約者に私の幸運を捧げたのに婚約破棄されてしまいました。
前世ではお目にかかった事のないような、それはそれは素敵な領主様で、婚約してからは夢のような日々でした。
領主様は素敵なだけじゃなく私の幸運で、雇った方がとんでもない有能人材に化けたり、開発した土地から貴重な鉱物が取れたり、どんどん富んでいきました。
婚約者の私は、幸運がなくなった時にどうなるのか考えたら少し怖いけど、ずっと愛されるはずと思っていました。
まさか、妹も彼を好きになっていて、隠れて会っていたなんて……。
「君のようなつまらない女より、妹の方が何倍も素敵だ。君とは婚約破棄して、妹と結婚する!」
この世界でも、そういう裏工作が有効だと知らなかったのは私の落ち度でしょう。
前世でもそうでした。
真っ直ぐに生きていたら、出し抜かれる。
私もズルくならなきゃいけない。
領主様の腕に抱きついて妹が勝ち誇ったような目で私を一瞥した時に、そう思いました。
「領主様は運が良いんだもの。婚約者だって良い方を手に入れるのよ」
あなたがアタリで、私がハズレだと妹が言う。
でも——、
もう、そういうのは疲れました。
真っ直ぐにしか生きられない私は、人里離れた所で静かに暮らしたい。
自給自足のスローライフを満喫します。
結婚して幸せそうな妹と領主様は、どうか、いつまでもお幸せに!
ちょっとだけ悲劇のヒロイン気分で、新生活をはじめます。
「こんな所に、何で君のような若い女性がいるんだ!?」
畑仕事をしていると、見知らぬ男が通りかかります。
鋭い目つきで、普通の村人ではない事はすぐに分かりました。
「危ないから、街に戻った方がいい」
「見かけによらずご親切にどうも。貴方以外にここを通る人なんていませんから、ご心配なく」
「ふ……それもそうだな」
と、男は何度か振り返って、そのまま去って行きました。
人と話したのは三ヶ月ぶりです。
あっという間の三ヶ月で、生活の基盤を整えるためにとても充実した日々でした。
すっかり忘れていましたが、妹と領主様はお幸せにやっているのでしょうか?
心配です。
私は領主様と妹には、本当に本当に幸せになって欲しいと思っているんです。
だって、私が領主様を好きでなくなってしまったから、領主様の幸運が無くなってしまいました。
転生者に神様からプレゼントされた能力は『好きになった人に自分の幸運を分け与える』というもの。
まさか、領主様がずっと幸運だったのは、私の幸運のせい“だけ”じゃありませんよね?
畑の中で、私の大好きなジャガイモが幸運な陽の光に照らされてスクスクと育っているのを見ながら、かつて好きだったあの人の事を思い出します。
ある日、またあの男が通りかかります。
「まだ、いたのか!」
私を見て驚きます。
「会えるとは思っていたけどね」
ニヤッと笑う男に、何ヶ月ぶりかに心が動きます。
定住するのでずっといますが、この人こそ定期的にこんな所を通る、何者なの?
「君のことは、気になってはいたんだ。元気で良かった。それより君にとっては、面白い話がある」
私を調べたと言うことは、ただ山奥に住んでるだけのおかしな女と思っているわけじゃないのね。
男は領主様の話をしてくれました。
有能な人材が揃っていたと思ったら、資産を持ち逃げされて、貴重な鉱物が取れていた炭鉱から汚染された水が溢れ出し、領地は壊滅状態…。
さすがに、そこまでの制裁があるとは思っていませんでした。
ただ好きになっただけなのに。
「一時の幸運に胡座をかいて、領地の運営を疎かにした罰だな」
男が言いますけど、
「それは……、領主様を買い被りすぎです。幸運で延命できていたに過ぎません」
私が、また領主様を好きになれば幸運が戻って延命できるの?
今更、ジャガイモより好きになれる気はしないけど……。
「行ってどうするんだ?」
領主様の所に行こうと準備を言えて小屋を出た私に男が笑いながら言います。
「もちろん、妹に水を届けの行くんです」
私の幸せを奪ったつもりで、こんなはずなかったと嘆いてるはず……。
無能領主を一時的とは言え、いい男のように見せてしまったのは私です。
今となっては、消したい……、妹ごと消えていい汚点。
私の持っていく山の“特別”綺麗な水は飲んでくれるかしら?
男は水の正体を察したらしい。
「そこまでして領民を助けたいなら俺と来てくれ」
男は相変わらず笑っている。
「? 何故、あなたと行くことが領民を助ける事になるんですか?」
あの二人が消せるならいいけど。
男は隣国の騎士団長で、領地を攻める計画を立てていたと言う。
「君は街では行方知れずって事になっていたが、こんな所に隠れ住んでいたとはね」
堂々と住んでますが?
たまたま会った男が領地を攻める騎士団長?
偶然にしては出来すぎている。
領主様に預けていた幸運が私に戻ってきていたのね。
幸運は願いを叶えてくれる……。
「汚染された水は、この川を堰き止めれば領地には入って来ない。一時凌ぎだが、すぐにでもやらなければ」
話を聞くたびに無能領主より、この人に任せた方が領民は安泰だと思えた。
それは私の汚点を消すことなるから、教えてあげない理由がない。
領主様の元婚約者だから知っていた、領主館の隠し通路を……。
隠し通路の先では、落ちぶれた領主様と妹が、それでも虚勢を張って座っていた。
私の顔を見て見せた絶望の表情にゾクっとする。
せっかくの“特別”なお水を飲んではくれない。
領主様と妹はこの地を追われることになった。
「なんて奴だ! 僕が温情で山で暮らす事を許してやったのに!」
「姉様! 領主様にこっ酷くフラれたからって、こんな仕打ちするなんてあんまりよ!」
「隣国の騎士団と通じるなど、お前のように女を選ばなくて良かった」
ゾッとするほどに自分たちに都合のいいことばかり。
山奥で、私は本当にあなた達の幸せを願っていたのよ。
でも、その言葉が聞けて、追放される二人に最後に会えて良かったわ。
ジャガイモほどの興味も持てないと思っていたけど、やっぱりあなたは私の永遠の汚点。
追放くらいじゃまだ足りない。
私はまだ、大好きなのよ。
仲のいい二人の後ろ姿を見送る。
どうか、お幸せに(笑)
いつか、私に好きな人が出来るまでは、幸運を。
騎士様と食べるジャガイモが美味しい。
静かに涙が溢れた。
騎士様が私を見て何か取り出す。
「これは俺が、……さっき山道で拾った指輪だ。良ければ君が貰ってくれ」
まさか、貴方にもう幸運が……?
傷ひとつない新しい指輪。
私は微笑む。
私への指輪を買わなければいけないなんて、運のない人。
あなたはまだ私の二番目みたい。
私が好きなのは、あの人。




