街灯
毎夜毎夜ただ、光を垂れ流す。
夜空は美しいのだろうか。
人間からすれば、私は主に夜に住んでいるという認識がほとんどだろう。
私からすれば別にそうというわけでもなく、また、そうと言っても、昼に住んでいるわけでもなく、
ただ夜になると自動的に光るだけである。
そこには意志も無く使命も感じない。
だがその光が存在感を演出するが故に、私は夜に居る物だと、時々私にすら思わせてしまう。
実際は、私自身は昼にも夜にも、また世界にもその五感的に住んでいるわけでは無く、
らしくはないだろうが、世界の肺または血管の中の表層流または深層流を揺蕩うようにそぞろ歩いているのだ。
まあ人間にもそんな者は少なからずいる。
そう思うと救われたような、気が楽になる感じがする。
近頃の私はセンチメンタルというか、自分が今まで辿ってきた跡を振り返って悲哀することが美徳となってきたようで、
簡単に言い換えるならば日々に飽きてしまったようである。
人間は物事に飽きたとき、環境を変えたり新しい環境を作ったり、また今までとは違う環境に引越したりすると思うが、私はそうもいかない。
そもそもこんなスピリチュアルな思考をするために創られた物ではないため、人間と違い、誕生から崩壊までの役割が明確に定められているのである。
その役割には以上も以下も無く、故に環境は変わりようが無いのだ。
そうとなれば私はどうなるか。
人間の真似をして、人間のように、外界の新しい刺激を求めたいばかりである。
毎日、
毎日。
『街灯』
夜になる。私が光る。その光のもとを人が通る。
別に私が私でなかったとしてもこの役目は全うできるだろうに。
運命は残酷だ。
毎夜毎夜、夜になる。私が光る。その光のもとを人が通る。
昼の時間はもはや私は存在しているという自覚すらないので逆に楽だ。
夜になる。私が光る。その光のもとを人が通る。
若い男女が通る。私が発する光の前で、片方が立ち止まる。そして、空を見上げる。
「見て、なんか今日、すごい星が見える。」
「ほんとだね。きれい。」
そう言って、男女は去っていった。
遠い星空を見上げるくらいなら私を見たって構わないじゃないか。
私は朝を待った。
夜になる。私が光る。その光のもとを人が通る。
二人、親子が通る。左を歩く少女になぜか、他の人間よりも命を感じた。
人が蟻を見ても、組まれたプログラムをただ全うするために動いているだけの物体としか思わないように、
これまで私は人間に対し、生命の温かさに似たそれを感じたことが無かった。
人間からしても同じだろう。なぜなら私は街灯なのだから。
しかし少女は私の何かを感じ取ったのか。
はたまた彼女がその運命を持って誕生し、やっと今ここへ来たのか。
少女は、私を見た。
瞬間、感じたことの無い、悲鳴のような高揚が、彼女との存在の繋がりをなぞって私に衝突した。
この世に存在するというのは、こういうことかと直感した。
そのひどい高揚の直後、私は、それが一体本心なのか自分の思考なのかすらも分からないまま、
「助けて」と呟いていた。
無論、口は無いので世界のどこにもこの声は響かない。
しかし、少女にはその声の、微かな電波のような、シンパシーが届いた。そんな気がした。
少女が口を開いた。
「お母さん、あのライトさん、なんか寂しそう。」
「あのライトさんが?ほんとに?」
母親がそう言って、親子は去っていった。
私は今も、「助けて」と呟き続けている。




