9 ボス討伐
二人が来るまでの間、ヒーナとホーマが雑談していると、やがて二人がギルド前に姿を現す。一、二時間前に駅前で別れたばかりだが、ゲーム内で再びこうして再会を果たしていることにヒナはうれしくなる。
ホーマが片手を上げながら元気よく言った。
『そんじゃ冒険の出発だー。クエストにする? ダンジョン探索にする? それともボ・ス・討・伐?』
『新婚の新妻みたいに言うな、気持ち悪りい』
うんざりしたような声で答えたのはカーンだ。続けて彼が言う。
『時間も遅いし、酒も入ってるし疲れてるからな。簡単に済ませられるやつにしようぜ。ヒーナとニーユは何がしたい?』
『ちょっと、僕にも聞いてよ!』
『お前は黙っとけ』
現実と変わらないカーンとホーマの掛け合いに苦笑を浮かべながら、ヒーナとニーユが答えていく。
『わたしはなんでもいいですよ。明日も休みですし』
『俺も同じく。二人はなにがしたいですか?』
カーンが腕を組んで、うーんと唸った。
『俺も特にいまやりたいことはないんだがな。てか、二人が羨ましいぜ、明日も休みなんてな』
『はいはーい! 僕はボス討伐がしたいでーっす! 今日こそレアドロップしたいでーっす!』
『うっせーなぁ。やっぱり酔ってんのか? まあいいや、ヒーナとニーユはそれでいいか?』
『あ、大丈夫です』『俺も構いません』
ホーマがうれしそうな声を出した。
『きっまりー! そんじゃあ、いつもの狩り場に向かうとしますかー!』
『だからうっせーって。んじゃ転移の羽根を使うぜ』
カーンがメニュー画面を開いて、『転移の羽根』というアイテムを使用する。その名の通り転移アイテムの一種であり、四人の身体が淡い光に包まれ、その周囲にいくつもの羽根が現れるエフェクトとともに上空へと飛び出していった。
一、二秒程度のロード画面を挟んで、四人の身体がとある火山のふもとへと到着する。火山型のダンジョンであり、この最深部にいつも討伐しているボスモンスターが出現するのだった。
ニーユが言う。
『最後に討伐したのは一昨日でしたっけ。他の人に討伐されてなければいいですけど』
『大丈夫だろ。いまんところ、このサーバーであいつをコンスタントに倒せるパーティーは俺らくらいだから。ま、俺らもヒーナにだいぶ助けられてるけど』
ニーユに答えたカーンが、今度はヒーナに言う。
『ヒーナ、いつも通り、前半は力を抑えて俺達の経験値稼ぎを手伝ってくれ。後半になって俺達の体力や魔力や技力が少なくなってきたら、一気にトドメを刺してくれて構わないから』
『分かりました』
『ユートピア』では戦闘での行動によって、得られる経験値の種類や量が変化する。魔法を多用すれば魔法系の経験値が、スキルを使えばスキル系の経験値を多く獲得できるのだった。
ゲーム内最強の剣士として名を馳せているヒーナは、現状、ほとんど全ての敵を瞬殺できる力を持っていた。瞬殺できない敵がいるとすれば、システム敵に倒すための特定条件を設定されている敵くらいだった。
ヒーナのその実力を存分に頼って、ニーユ達は時間があるときは経験値稼ぎをしていた。ニーユ達が体力などのぎりぎりまで前線で戦い、トドメをヒーナが刺す。
この方法によってニーユ達三人には大量の経験値が入り、ヒーナにはトドメを刺したことによるラストキル報酬が手に入る。それぞれのレベルが低かった当初は苦労したが、すぐに軌道に乗って、四人は『ユートピア』内でも屈指の強パーティーになっていた。




