7 ぼんっ
およそ二時間後。楽しかったオフ会が終わり、ヒナ達は最寄り駅の前へと来ていた。
「んじゃ私はこっちの路線だからぁ。さいならー。また『ユートピア』でねぇ」
「お前酔ってんのか」
「酔ってないれすよぅ」
「ホントかよ」
溜め息を吐きながら、ラディンもヒナとジュウゴに言う。
「俺はこっちだから。じゃあな二人とも。ま、どうせ帰ったらログインするだろうけど」
「ちょっとぉ、私にもさよならしなさいよぇ」
「酔っ払いは黙っとけ!」
そう答えてから、ラディンは自分が乗る路線のほうへと肩を怒らせながら歩いていく。ツカサはやれやれという身ぶりをすると、改めてヒナとジュウゴに言った。
「二人はどの路線?」
「俺はこっちです」
ジュウゴが指で示す。慌てたようにヒナも答える。
「あ、わたしもそっちです……」
「そ。二人とも同じ方向なんだ。じゃあ、また後でねー」
ばいばいと手を振りながら、ツカサが自分の路線へと向かっていく。
ジュウゴと二人きりで取り残されたヒナは、心臓がどきどきと脈打っていた。無論、周囲には仕事帰りや飲み会帰りの人々がいてざわめいてはいるのだが、それでもジュウゴと二人きりで同じ帰路に就くということが、緊張してしまうのだ。
「じゃあ行こうか、ヒナさん」
「へぁっ⁉」
「……?」
「あ、いえ、いきなり名前で呼ばれたので……」
「ああ……『ユートピア』のパーティーメンバーだから。せっかくこうして会ったんだから、名前で呼んだほうがいいと思って。ツカサさんとラディンさんもそうしてたし」
「で、ですよね……」
「俺のこともジュウゴでいいよ」
「……はぃ……」
語尾が小さくなってしまう。
「じゃあ行こうか。あ、もしかして切符? 俺はmelonなんだけど」
『メロン』とは電子決済カードの一つであり、事前にカード内にチャージした金額を利用して駅の利用ができるものだ。最近では駅利用以外にも、様々な飲食店や小売店、ネットショッピングなどにも利用できるようになっている。
「あ、わたしも『メロン』です」
「そう。じゃ、行こうか。あと五分くらいで次の電車が来るみたいだから」
改札のほうにある電光掲示板を見ながらジュウゴが言い、改札へと足を向ける。歩き始める彼についていくようにして、ヒナも慌てて歩き始める。
「それにしてもびっくりしたよ。ヒナさんが最強の剣士のヒーナさんだったなんて」
改札を通りながらジュウゴが言った。ヒナのことを以前から認知していたような口ぶりだった。
「え、あ、もしかして、わたしが学校のクラスメイトだってこと……」
「うん、気づいてたよ。ラディンさんとツカサさんには言うタイミングがなかったけど。あとで言っておかないとね」
「オフ会の前の電車のときは……?」
「あのときはスマホのカメラが回ってたし、万が一あのチンピラに知り合いだってバレたら面倒になるかもって思ったから」
「あ……」
ヒナの身の安全を考えてのことだったらしい。
二人は階段を降りてホームに着く。電車が来るまであと少しだけ猶予があった。
他の客が並んでいる列の後ろにジュウゴとヒナも並び、ジュウゴがヒナに向いて言う。
「あのチンピラが言ってたことなら、気にしなくてもいいよ」
「へ……?」
「ヒナさんは可愛いから。勇気もあってカッコいいと思ったし」
「~~っ⁉」
笑顔で言う彼に、ぼんっとヒナの顔が真っ赤になってしまう。思わず顔を見られないようにうつむいてしまった。
「……ぁ、ぁりがとぅござぃます……」
小さな声でそう答えることしかできなかった。
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