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小野寺雛は県内の公立高等学校に通う女子学生である。出席番号は女子列五番、男子も含めた通算では二十五番目に該当し、自他ともに認める地味な見た目の女子だった。
ヒナ自身はいわゆる陰キャだと自覚しており、その理由としてゲームが好きなことを友達に言っていた。ここでいう友達とはリアルでの友人ではなく、オンラインゲーム上の相手である。
そのヒナがいま一番ハマっているゲームというのが、『ユートピア』という略称でユーザーから呼ばれているゲームだった。正式名称は長く、『Universe.25.Online:Personal.Interface.Administrator』であり、国内最大手のゲーム会社ユニバース社が創立25周年を記念してリリースしたオンラインゲームである。
ゲームの頭文字を取って、『U.T.O:P.I.A』。25は英語読みとして表記している。ユニバース社が自社のこれまでの集大成として開発し、その謳い文句の通り数多くの要素を盛り込んで非常な人気を博していた。
(今日はオフ会……どきどきするなぁ)
休日。自宅の最寄り駅から電車に乗り、都心へと向かう車内でヒナは緊張で心臓がバクバクしていた。
ヒナは『ユートピア』のなかで最強の剣士として活躍していた。今日はそのゲームでよくパーティーを組んでいるメンバーでのオフ会があるのだった。
ヒナは確かに暇な時間があれば『ユートピア』をプレイしていたし、課金も微課金程度ではあるがしていた。しかし課金額はせいぜい一ヶ月で千円程度であり、それ以上の額は小遣いに響いてしまうためできなかった。
高額課金をしていなく、プレイ時間も学校生活があるため普通くらいのヒナが最強の剣士としてゲーム内で有名になったのは、ただ運が良かっただけだった。ただし、天文学的とも思えるような奇跡的確率を引き当てたのであるが。
(みんなから聞かれるんだろうなぁ……どうやったら25兆分の1を引き当てられるのかって……わたしが聞きたいくらいなんだけど……)
『ユートピア』では、会員登録後の初回プレイ時に、ランダムでいくつかのスキルや才能が付与される。大半は一般的なスキルや才能であり、ときたまレアリティの高いものが付与されるくらいの割り当てだった。
レア度の高いものを引き当てたプレイヤーは『ギフテッド』と呼ばれ、それだけでゲームプレイが多少有利になる。そのため高額課金者やガチ勢の者はレア度の高いスキルや才能を手に入れるために、何度もリセットマラソン……通称リセマラを繰り返すほどだった。
ヒナはその初回プレイ時に、25兆分の1という確率を引き当てたのである。より正確にいうのであれば、個々のスキルや才能そのものは、他のプレイヤーでも運が多少良かったりリセマラを繰り返すことで入手することは可能である。
しかしヒナの場合は、その個数が違っていた。非常な低確率で入手できるスキルや才能を、合計で25個、その初回プレイ時に獲得したのである。
当初のヒナはそれがほとんどありえないようなことだとは思いもせずに、なんかめっちゃ運が良いなぁ……くらいにしか思っていなかった。そして実際にゲーム内でクエストやダンジョンへの挑戦、他のプレイヤーとの協力プレイをしていくうちに、自分がとてつもない存在であることに気づかされていったのである。
(サインとか頼まれたらどーしよぉ。練習してないよぅ)
にへへ……思わずそんな笑いを浮かべてしまう。電車内であり、周囲には乗客がいて、傍目に見たヒナの顔は不審者といわざるをえなかった。