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16.過去からの同居者

 怪訝な顔をしながら僕から目を外して、隣で給仕を行っている金ちゃんに話すことはないのかと目を細める火車さん。結構表情が豊かだよなぁ…うちに住んでいた猫たちってあきれたような表情とかが凄くわかりやすかった思い出があるよ。その表情ばかり向けられていたってのもあるけどね!


「自室で熱烈な歓迎を受けたと言えば分かるかの?」

『ああ、十分だねぇ…』

 そして金ちゃんから理由を聞いた火車さんからもその目線を向けられている……あの金ちゃん?何でもないようにおかゆを口に運んでくるのは勘弁してくれないですかね?というか今日もおかゆですか?


「怪我人が何を言っておるか」

「ぐぅ…」

『どうせ要らないことでも言って、どれだけ心配したかでも体に教え込まれたんだろう?大人しく食べるんだね。あんたが思っているより体は消耗しているもんだよ』

 そう言われてしまっては、この味が薄い物を口に運ばれるのを受け入れるしかないか。それにしても火車さん結構こっちのことを気にしてくれるなぁ。元々ここに住んでいた子だったりするのだろうか?


「ふぅむ。まだ気づいておらんのか?」

「何が?」

「そやつの事じゃ」

 金ちゃんが火車さんに向かっておかゆの匙を向けると同時に立ち上がる…あ、お鍋にまだまだおかゆあるのね……せめて梅干しが欲しい。


『……』

「火車さんの事?」

「おかしいとは思わんのか。火車と言えば死した悪人を攫い弄ぶ妖怪じゃぞ?」

「そうだね」

 妖怪の火車としてはそれが主なやることっていうのが伝わっていた伝承だ。他にも別に悪人じゃなくても運んだり、その正体は鬼神の乗り物だったり雷神があらぶった姿であるとは言われていたけど…何時しか猫の姿が真の正体であるってなったんだよ。それでいて猫又の一種みたいな扱いにもなったりと色々と変還の多い妖怪で結構気になっていたんだけど…本当に猫なんだよねぇ。


「確か仏教の火車とも混合されたりしていたよね?」

「うむ、というよりそちらが元というか生まれた理由じゃの」

『火車にも色々種類がいるのさ。あたしだって別に悪人を引きずり回すだけじゃないよ』

 ほう!まさかの複数存在するパターンですか…これはまた探しがいがありますな。早いところ体を治して昔のようにフィールドワークに出なくては。


「まだまだ先の話じゃな……というよりも、ほれ。何故そんな火車がここにいるか考えんか」

「おおっと、そっちが本題だったね」

 気になることがあるとソッチに考えが移ってしまう。僕の悪い癖♪……紅茶はあんな風に入れられないなぁ。今ならあの鉄瓶の子がやってくれそうだけど。


「ってそうじゃなくて。えーっと、火車さんが居る理由だよね」

『ふんっ、あんたが思いつくかねぇ』

 おおっと、何故か不機嫌になってしまわれたぞ…これは早いところ答えを出さなければ。


「まず火車さんは遺体を運ぶ妖怪…」

「というよりは主に魂を運ぶのが役割じゃな」

 ほうほう。……余計にここにいる理由が分からなくなってしまったぞ?僕は目覚めるのが遅れに遅れてしまったとはいえ生きてはいたわけだし、別に悪いことはしていない…よね?

「うむ」

「なら安心だ」

「ただ昔のギンが関係しておるの」

「僕が?」


 一体何だろうか?思い出そうにも火車さんみたいな赤い模様の三毛猫は出会ったことがないけど――――んん?三毛猫?

「おお、思い出しおったか」

「思い出したって…え、本当にそうなの?」

『……』

 火車さんの方に顔を向けるけど、こちらを見たまま黙っている。でも不機嫌な顔が少し和らいだ気がするし、合ってるのかな?


「でも、あの子は大分歳を取っていたし……」

 確か烏に襲われているのを、3歳の僕が偶然助けてこの家に住むようになったんだっけ。一番思い出されるのは家族の前で賃貸に引っ越すのを伝えた時の暴れようだ。あの時は賃貸の契約書をバリバリにされて焦ったなぁ…老猫とは思えない動きはたまにしていたけど、そのままの勢いで僕にドロップキックを仕掛けてきたのは今でも驚きだ。肉球のスタンプが長いこと取れなかったんだよね


「それでもペット不可だって根気強く伝えたら拗ねちゃったっけ」

 結局引っ越し当日も、その後夏休みに帰ってきた時も顔を見せてくれたのは一瞬だけだったよ。あのダンジョンの中でも、ムッとした顔を思い出すのがやっとだったな。

「最後まで元気だったのかな……コノハは」


 ピクッ


「元気じゃぞ」

「それなら良かった!あの子はゆったりしてマイペースな子だったから大丈夫だとは思ったけど。でも、もう少しちゃんと向き合ってあげればよかったよ…」


 ピクンッ


「あの後お主を運んできた際には、ずーっとそばを離れぬから大変での」

「ええ?あんなに拗ねられていたのに?」

 意外だ…嫌われてしまっていたものばかりだと思っていたのに。


 ピクッピクン!


「…あの」

『なんだい?』

「尻尾があらぶっていらっしゃるんですけど…」

 ポンポン左右に揺れて気になって仕方がない。何か気になることがあったりした時とかにこういう動きするよね猫って。といっても今話していたのはコノハの話なんだけど……本当にそうなのかな?


「火車さん。後ろ向いて座ってくれない?」

『…何でそんなことしなくちゃいけないんだい』

「ちょっと気になることがあるんだ」

 もし思っていることが本当なら、特徴的な柄が有る筈なんだ…それこそ名前をコノハにした理由のソレが。


「ほれほれ、渋らずに見せたらどうじゃ。ここまでマイペースにする必要はないだろう?」

『……はぁ。まぁ、思い出しただけでも良しとしようかね』

 ニヤニヤする金ちゃんをよそに、そう言った火車さんはするんと後ろを向いて背中を見せるように前足を立てたまま座った。よし、早速柄を確認しないと。お猫様は抑えられたりするのが好きじゃないだろうし。


「ええーーっと、もう少し屈めますか?」

『注文が多いね…これでいいかい』

「ありがとうごさいます……あ、あった!」

 背中の首元の近く――――そこに毛の色は赤くなってしまったけど、ハッキリと葉っぱのような柄が存在していた。

同居者(猫)。現実でももっと長い間一緒に居たいものです…


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