第6話「ユリスの記憶」
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目を閉じると、別の誰かの人生が流れ込んでくる。
それは夢とも幻ともつかない、けれども異様に鮮明な“現実”だった。
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空が曇っている。
冷たい雨の中、濡れた木箱の上に腰を下ろす少年――ユリス。
赤い土の地面、崩れかけた家、焼けた柱の匂い。
「お兄ちゃん今日は何してあそぶの?」
と後ろを鴨の子みたいに引っ付いてくる最愛の弟の声はもうどこにもなかった。ただ…ただ、焼け跡にぽつんと座り込んでいた。
誰も来なかった…誰も助けてくれなかった。
あの時、世界から拒絶された気がした。
でも、それでも彼は泣かなかった。泣いたところで、何も変わらないと、知っていたから。
その夜、彼は焚き火の前で震える手で剣を握った。
訓練場では笑われた。動きが鈍いと罵られた。だが彼は黙って耐えた。
「強くなれば、きっと次は守れる」
それが、彼の願いだった。
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次に見えたのは、兵舎の風景。
俺――アシュレイが、初めて野営地に来た日のことだ。
無表情のまま、誰とも目を合わせなかった俺に、ユリスは声をかけてきた。
「お前、何考えてるか全然わかんねえけど、なんか気になるんだよな」
それが、最初の言葉だった。
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ある日の訓練中。
「なんで俺にかまうんだ?」
「なんでって、そうだなぁ…なんかお前、死んだ弟に似てるんだよ、雰囲気がさ!」
剣の重さや、干し肉の味、戦場の空気。
ユリスが感じていたすべてが、皮膚から、骨から、血の奥から、俺の中にしみ込んできた。
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彼はずっと、笑おうとしていた。
不器用で、口下手で、でも誰かを元気づけたくて。
だからこそ、怖くても、悲しくても、冗談を言い続けた。
そんな彼が、最期の最期に言った言葉が、心に焼きついている。
> 「お前が、生きててくれたら、それでいい」
◆
俺は、目を開けた。
そこは、戦場だった。まだ煙がくすぶり、死体の山が積まれていた。
膝の上には、ユリスの剣がある。
握った瞬間、その重さに“想い”が込められているのが分かった。
刃の形も、柄の感触も、以前とは違う。
それは、“彼の剣”が“俺の剣”に変わった瞬間だった。
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俺はまだ、何が起こったのか分かっていなかった。
ただ、彼の想いが、俺の中に確かに残っていること。
それだけは、痛いほど理解できた。
呼吸を整え、立ち上がる。
目の前の世界は、相変わらず泥と血にまみれていた。
だが、その中にひとつだけ、変わったものがある。
俺の足元に、彼の想いが宿っている。
それは、もうただの“死”ではなかった。
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