命の寄付制度
ここは近未来の日本。『命の寄付』という制度がある。医療が発展し、検査をすれば残りの寿命をはっきりと調べることもできる。そして正式な手続きをすれば、自分の寿命を他人に渡すことができる。つまり、生きたい人は生きて、人生に幕を下ろしたい人は降ろせる。そんな時代なのだ。
私のSNS上の名前は『おまめ』。適当につけたけど、響きが可愛いと思った。いつものように、なんとなくSNSを開いてみる。私はもう誰かに寿命を渡して、人生を終わらせたいと思っている。この社会で生きることに疲れた。
「生きたいなんて思ってる人いるのかな」
無意識のうちにSNSの検索画面で『生きたい』という文字を検索していた。次々と出てくるネガティブな言葉。
『生きたいと思いたい』
『どうやったら生きたいと思えるんだろう』
私は画面をスクロールしていく。ひとつの言葉が目に留まる。
『もっと生きたいなー』
生きたい?どういうこと?私はその発言をする人が気になり、アカウントを見てみることにした。アカウントの持ち主は、丸太郎ちゃんという女の子。末期の癌の女の子だ。全身に転移していて、手術はできない。完治することもない。20代後半くらいだろうか。私とさほど変わらない。絵がとても上手で、何枚か自分で描いた絵を載せている。どうしてこんなに若くて才能ある子が連れて行かれようとしているのだろう。
「この子に私の寿命を渡したい」
私は心の底からそう思った。
次の日、私は丸太郎ちゃんにメッセージを送ってみることにした。
『初めまして。素敵なイラストですね!』
丸太郎ちゃんからすぐに返信があった。
『はじめまして!ありがとうございます!』
すぐに返信がきて嬉しくなった。
それから数日後、丸太郎ちゃんの投稿があった。
『SNSでトークLIVEするので、よかったら見に来てください!』
私は見てみることにした。SNSのトークLIVEに参加するなんて初めてだから、わくわくしながら『参加』を押した。丸太郎ちゃんはどんな顔なんだろう?丸太郎ちゃんの姿がスマホの画面に映った。素敵な金髪坊主ヘア。抗がん剤治療をしているからか、少し髪が抜けているところがある。マスクをしていて口元はわからないが、凛とした一重で綺麗な顔立ちをしている。私はコメントを入力した。
『初めまして。おまめです』
「あっ、おまめさん!はじめまして、こんにちは!」明るい声の丸太郎ちゃんに私は驚いた。ちっとも末期がん患者に見えないや…
素敵な笑顔の丸太郎ちゃん。
その笑顔の裏には、苦しい治療や痛みに耐える日々があるのだろう。その日のトークLIVEでは、好きなアニメの話やお菓子の話で盛り上がった。
1週間後、思い切って丸太郎ちゃんにメッセージを送ってみた。
『丸太郎ちゃん、いきなりで驚くかもしれないけれど、私の命をあなたに寄付したいです』
すぐに返事はなかった。私は気長に返事を待つことにした。
数日後、丸太郎ちゃんからの返事がきた。
『実は私も命の寄付をしようと考えています』
「えっ...」
丸太郎ちゃんからの返事に言葉が出なかった。
丸太郎ちゃんの返事には続きがあった。丸太郎ちゃんの姪っ子は持病があり、余命わずかだということ。丸太郎ちゃんは自分の命で、少しでも姪っ子が生きられるなら喜んで寄付するとのこと。私は丸太郎ちゃんの話を最後まで聞いた。
それから何日か経って、私は丸太郎ちゃんに連絡をした。
『丸太郎ちゃん。私は丸太郎ちゃんの姪っ子さんに命の寄付をします』
それから1週間後、私と丸太郎ちゃんの命は無事、丸太郎ちゃんの姪っ子に寄付された。
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これは私と丸太郎ちゃんが、命の寄付をしてから始まる物語。
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