才能ホスピタル
靴を作り続けて三十年、靴職人のルドルフは最近めっきり靴のデザインが思い浮かばなくなってきた。
少し前までは色んなデザインの靴が閃いていたが、年齢のせいなのか閃きが消滅しているのかどうかは答えが見えない。
ルドルフの年は五十過ぎで手先は器用に使えるので職人としては充分働けるが、デザインの閃きがこないとの事で現職を退けようかという話を妻のルピアに持ちかけた。
「靴のデザインが思い浮かばなくなったんだ。
アイディア力が衰えてきたらしい……。
靴職人から、販売専門の店に切り替えていこうと思うが、どうだろう?」
ルドルフの考えに、ルピアは待ったをかけた。
「貴方のアイディア、才能はまだ衰えてないわ。
ほんの少し、才能が体調を悪くしてるだけの事」
「体調を悪くしてるって……才能にそんな概念あるんだろうか?」
ルドルフは驚くが、ルピアの顔つきには落ち着いた感情が満ちていた。
「第一わたしに才能なんてモノ……無いよ」
「あるのよ、貴方には無限の才能……!
『才能ホスピタル』に行きましょう」
「『才能ホスピタル』……そんな所が在るのかい?」
ルピアは笑顔をルドルフに向け、そして何もかも知っているように云った。
「在るの。
若い頃一度お料理の才能が体調を悪くして、『才能ホスピタル』を知人に紹介して貰ったのよ」
ルピアが真面目な顔で話すのを聞いていると、本当に『才能ホスピタル』が在るのだと信じる事が出来る。
何より証拠になるのは、ルピアの背後に青い翼が見える事。
(あれは、才能の翼……!
何故かは分からないが、あの翼が才能の証だと確信出来る)
「貴方の靴のデザインの才能だって、『才能ホスピタル』に行けば、僅か数分の間に回復するわよ」
「そうなのか……それなら今から行くとするか」
「道案内するわね」
「ありがとう。
なんだか胸の奥で小さな羽根が揺れてる感じがしてくるよ」
ルドルフの胸の空間から、才能の翼が生まれ始めていた。