90.ずっと幸せが続きますように(最終話)
「エキドナ、待って」
「お兄ちゃん、早く!」
海ではしゃぐ妹を追いかけて、僕も海に飛び込んだ。広がる青い海はどこまでも遠くて、色鮮やかなお魚が泳ぐ楽園だ。昔と違って、海辺に住んでいた危険な人間は駆除された。すごく数を減らして、今はヴラドのおじさん達が管理している。
勝手にそこらに現れて、チクチクする矢を刺される心配はなくなった。魚をたくさん捕まえて、エキドナの望む貝殻を拾う。ヴィネも貝殻拾いを手伝ってくれた。
「ほら、気に入ったのを見つけろよ」
ぶっきらぼうな口調だけど、ナフラが大量に貝殻を持ってくる。どさりと積んだ貝殻を、エキドナとヴィネは嬉しそうに分け始めた。二人の楽しそうな姿を見守りながら、僕とナフラは日陰に座る。いいお天気だな、とか思いながら。
各種族が仲良く暮らすために、子供がいる家族はお城の近くに住むことが決まった。数年したら、親だけ戻る家もあるみたい。成人するまで一緒に遊んでお勉強して、それから各種族が暮らす家に帰る。伝統の継承がどうとか言われたけど、僕達はすごく長生きばかり。
数十年、外で暮らしても問題ない。遊べるときに遊ぶべき、僕はそう思うよ。ある程度成長したら、自分の種族であれこれと慣習やルールを学ぶ。その頃はもう自分で出掛けられるから、仲のいい友人と会うのも自由だった。
何人かはもうお城から自分達の生まれ故郷に帰った。でもよく遊びに来てくれるし、仲良くしている。森は平和で豊かだし、どの種族も子供がたくさん生まれていた。森の恵みが溢れているみたい。
「お兄ちゃんと知り合ってから、どの種族も子供が増えたって覚えたよ?」
「え、誰がそんなこと言ったの」
ナフラがこてりと首をかしげて呟くから、驚いた僕は目を丸くする。魔獣はもちろん、今まで子供が少なかった吸血種も、ここ数年で出産数が増えた。その話は聞いたけど、僕と知り合ってから? 時期が重なっただけだと思う。
「ヴラドのおじちゃん!」
にっこり笑うナフラが嘘を吐くわけない。じゃあ、おじさんに聞いてみよう。夕方になる前に、貝殻はすべて回収して収納へ入れた。三人を背中に乗せて、僕は空を舞う。昔、憧れたディーみたいに優雅に、魔王城へ向かって。
お城に戻ってこっそり聞いたら、僕と出会った後、可愛い我が子が欲しくなったとおじさんが教えてくれた。他の種族も子供はいいなと思ったみたいで、出産ラッシュになったんだって。僕のお陰なのは嬉しいな。妹のエキドナ達と遊んでくれる子が増えますように。
ナフラはあと五年で大樹さんのところへ帰る。ヴィネはこのお城の子だから、ずっとエキドナの友達だ。僕の周りの世界は、いつだって優しかった。時々ちくりと意地悪する人もいたけど、今になれば優しくて強い人と出会うための切っ掛けだったんだ。
「魔王様、こっちへ」
「え? 何言ってるの。俺達と訓練ですよね」
「お風呂に入ろう、お兄ちゃん」
小人さんに呼ばれて、約束優先だと騎士さんが騒いで、妹に誘われる。僕がたくさんいないと無理っぽい。困った僕がへにゃりと尻尾を垂らすと、なぜか譲ってくれた。妹エキドナと手を繋いで、反対側でヴィネが指を絡める。
「わたち、お兄ちゃんのお嫁ちゃんになる」
「ダメ、あたしのお兄ちゃんなんだからね」
ヴィネのお嫁さん宣言に、エキドナが怒鳴って二人同時に泣きだした。僕はまとめて抱っこして、お風呂へ二人を送り出す。この幸せがずっと、ずーっと続きますように。中から呼ぶ二人の声に「今行くよ」と返しながら、僕は空の向こうへ祈った。
終わり
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完結です。最後までお付き合いありがとうございました。綾雅にしては、ほのぼの系でした_( _*´ ꒳ `*)_あまり危機もなかったし、最初だけ痛かったけど。あとはお子様成長ものです。また次の作品でお会いできたら幸いです。昨日から新作書いております。
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