88.もう王様になるの?
「え、僕はもう王様になるの?」
ディーの結婚式から何年も経った。僕はやっと十六歳になったばかり。魔族の中では「卵の殻を付けたヒナ」程度の年齢だった。ヴラドのおじさんは、今年六百歳になったんだよ。全然違うよね。僕が王様になったら、おじさんは配下になる。
「まだ早いと思う」
お父さんとお母さんが変なことを言い出した。眉尻を下げて、へにょりと尻尾を垂らす。最近は半分人で半分竜になる練習をしていた。全部竜になるより、僕には簡単なんだ。
鱗があるから強いし、尻尾も武器になる。手に武器も持てるからこの形態は理に適ってると、竜族の騎士の間で人気なの。立って歩く蜥蜴みたいな感じだよ。
「でもお兄ちゃんになるのよ、ルン」
「もうナフラとヴィネのお兄ちゃんだよ」
ナフラはシエルの子で、僕の最初の弟。フィルが産んだヴィネはまだ赤ちゃんなんだ。鱗がピンクの可愛い女の子だった。二人のお兄ちゃんをしているのに、まだ増えるの?
「お母さんに赤ちゃんが出来たんだ。しばらく仕事はできない」
「うん」
それはわかる。フィルの時も、どんどんお腹が膨らむし、苦しそうだった。卵を産んでからしばらく動けないだけじゃなくて、卵を温めないといけないんだ。お母さんというお仕事は、途中でお休みできないから大変なの。
「お母さんも卵を温めるの?」
「たぶんな」
僕の時も卵だったと聞いている。そっか、お腹に卵があるとお仕事はできないね。割れたら危ないし。でも、僕が代わりをできるのかな。皆は嫌じゃない?
「お母さんの代わりを、ルンに頼みたいんだ。お父さんもディアボロス達も手伝うと約束する。どうだ? 頼まれてくれるか」
僕が断ったら、お母さんは大きなお腹で仕事をしないといけない。すごく大変だよね。遊ぶ時間が減っちゃうけど、我慢できるよ。僕はお父さんとお母さんの子で、立派な大人になるんだから。
「頑張る」
「よし。言質はとったぞ」
げんち? なぁに、それ。きょとんとする僕の周りで、わっと歓声が上がった。庭に面したお部屋の外に、いっぱい集まってる。いつの間に来たんだろう。お部屋には僕達しかいなかったのにね。
大喜びするドラゴンの中には、庭で暴れて蹴り飛ばされる人も出た。お祝いの雰囲気は、結婚式に似ている。嬉しくなって僕も輪の中に飛び込んだ。担がれて運ばれる。僕を肩に担いでるのはディーだった。後ろからアガリが何かを渡してくる。
受け取って振り回したら、先端からいっぱい星やキラキラが出た。皆が笑顔で、僕でいいと言ってくれる。ちゃんとした王様をやるから手伝ってね、とお願いした。盛り上がるお庭は一晩中騒いでて、途中でご飯が作られて並んだ。
お庭で焼いて食べたり、中で休む人がいたり。お庭もお城も大騒ぎ、猫さんや亀さんも加わった。シエルのお友達の森人族も参加したし、小人さんや魔獣さんもお祝いに駆け付ける。僕が笑顔でいられるのは、皆が僕を嫌わないから。僕も皆を好きでいられる。
「皆、だーいすき!」
僕が叫んだら、いっぱいのキラキラが空から降ってきた。




