86.僕に仲良しの弟が出来た
捕まえた魚に串を刺して、表の花が咲くお庭で焼く。近くに噴水もあるし、景色が綺麗だ。お月様が眩しい夜だから、ヴラドのおじさんも一緒に付き合ってくれた。
暗い夜は吸血種の人は忙しいんだ。捕まえた獲物を運んだり、何か儀式をしたりする。今回は獲物がたくさん捕まったから、しばらく忙しくないと聞いた。お腹が空かない数の獲物があると、安心だよね。
騎士の人や侍女の人も、一緒にお魚を焼いた。他の人が捕まえた獲物のお肉も、やっぱり串に刺して焼く。表面を炙って食べる人もいれば、じっくり火を通して食べる人もいた。僕はあちこちで、いろんなお肉やお魚をもらう。
一口ずつ味見して回る僕は、すぐにお腹いっぱいになった。お風呂に入ってほっとして、ご飯を食べて満足すると、次は眠くなる。お母さんの隣に戻り、お膝に頭を置いて横たわった。ぽんぽんと叩くリズムが気持ちいい。
「寝たのか?」
「ええ。疲れたみたいね」
お父さんとお母さんが僕の話をしている。ディーが加わった。
「今回の召喚は肝が冷えた。対策を考えるから、手伝ってくれ」
「もちろんよ。いつもありがとう」
ちゃんとお礼を言うお母さんの手が止まる。もっと……もぞもぞと動く僕に気づいて、また手が動いた。ぽんぽんと叩くの、すごく好き。
「どこまで潰しますか」
「この際絶滅させては?」
アガリとバラム?
「いや、魔族で管理するとしよう。我らの食糧、いや……家畜として個体数も制限して繁殖させる」
「ヴラドが言うなら、任せるわ」
ヴラドのおじさん、楽しそうな声。お母さんの声が最後の記憶で、僕はそのまま眠ってしまった。とにかく眠くて、目を閉じて開けたら、一瞬で朝が来た気がする。
「おはよう」
目が覚めて挨拶する僕は、お庭からすぐの部屋で寝ていた。部屋の中には人がいっぱいで、皆、ここで眠ったみたい。侍女の人が急いで仕事に出かけ、騎士の人は訓練でもういなかった。
お父さんとお母さんの間で抱っこされて目が覚めた僕は、フィルを抱っこするディーを見つける。いつか、お父さんとお母さんみたいに結婚して、僕みたいな子を産むって言ってた。早く産んでくれたら、遊ぶ弟か妹ができるのにな。
とっくに起きてたアガリは、顔を拭く布を渡してくれる。吸血鬼のおじさんがいない。きょろきょろして、天井を見上げた。あ、やっぱり天井にいる。
「久しぶりだ、ルン」
顔を拭くお父さん達から離れて、侍女の人に着替えさせてもらった僕は、懐かしい声に振り返った。シエルだ! 奥さんと……抱っこしてるのは赤ちゃん? もう赤ちゃんじゃなくて、自分で歩けそうな子供になっている。
「シエル!」
「覚えていたか。よかった、この子と遊んでやってくれ。ナフラだ」
ナフラ……緑の髪と金色の目、茶色い肌。小さくなったシエルだった。僕の方がお兄ちゃんだから、自分から近づく。
「僕はルンだよ。ナフラ、一緒に遊ぼう」
「……うん」
ナフラと積み木をしたり、絵本を読んだりした。一日ずっと遊んで、お昼寝もおやつも一緒だよ。僕に可愛い弟が出来た。




