80.ごめんなさい、お父さん
背中がチクっとして、むっとした僕は飛んできた方角を睨んだ。小さな棘だけど、海に入るのを邪魔する。傷があるのに海へ入ると、すごく痛いんだよ。
僕が睨んだ岩の裏に隠れてると思う。めっ! と叱るつもりだった。人に矢を刺したらいけないと教えようとしたのに。
ゆったりと舞い降りる火竜、これはお父さんだ。ぶわっと炎を吐いて、さっきの岩を炙った。真っ黒に染まった岩が、熱でぱちんと割れる。こんな炎は、僕には無理だ。凄いなぁ。
「ルン、勝手に遠くへ来てはいけない。海は特に危ないと教えたはずだろう」
「ごめんなさい、お父さん。お魚を獲って帰ったら、喜んでくれると思ったの」
「……お母さんへの土産か?」
「うん」
叱られちゃったけど、お父さんは何やら考え込む。それから大きく頷いた。
「わかった。手伝ってやろう。背中の傷を見せなさい」
素直に背中を見せると、鱗の間を確認された。さっきはチクッとしたけど、もう痛くない。お父さんが爪でツンツンと押しても痛くなかった。それを伝えると、上から魔法を掛けてもらう。これで海に入ってもしみないって。
「沖の方へ行くぞ」
「わかった!」
沖は海の奥の方で、大きな魚がいっぱい泳いでいる。僕は先に飛んだお父さんの後を追って、魔力の風を吹かせた。少しすると、上にあがる風を見つける。利用して魔力を使わず、上手に高いところへ上がれた。
お父さんが狙いを定めて海へ突っ込む。僕も後ろから飛び込んだ。広がる海の青い色は、空とは違う色をしていた。目の前を横切った魚をぱくりと口に入れる。それから収納の魔法の口へ、ぺっと吐き出した。
同じ方法で何匹か捕まえて、ぷかっと海に浮かぶ。息が苦しくなっちゃう。海の水はしみなくて、背中は痛くなかった。お父さんはまだ潜っていて、待っていると浮いてくる。
「お父さん、すごいね」
「これはコツがある。こうやって吸い込んでから潜るんだ」
やり方を教えてもらったら、もう少し長く潜れるようになった。お父さんと僕で捕まえた魚は、いっぱい。それをお土産にして、お城へ帰った。
お魚は喜んでくれたけど、一人で海へ行ったのは叱られた。あと、黙っててと頼むのを忘れたから、お父さんが話しちゃったの。人間に矢で襲われて、背中に刺さった話だよ。ディー達にも叱られて、お母さんの胸に飛び込む。
ちゃんと人の形になってから。そうしないとお母さんを踏んじゃう。仕方ないわねと笑いながら、お母さんは僕をぎゅっと抱きしめた。背中をとんとんして貰う。
お魚はお庭で焼いて食べた。お父さんよりディーの方が上手に焼いて、アガリが塩を振ってくれる。皆で何匹も食べて、最後に収納をひっくり返した。
海の中で使ったからかな。まだお魚が残っていて、どうしてか水も出てきた。海の水だからしょぱいの。前に入れたお菓子も残ってたみたいで、濡れちゃった。乾かして食べるつもりでいたら、フィルに捨てられる。
「まだ食べられると思う」
「無理よ。新しいお菓子をあげるから、これは諦めて」
うーんと迷ったけど、ダメなんだよね。これは諦めて、明日新しいお菓子をもらうことになった。