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08.どこから攫ったのか ***SIDEアガリ

 膨大な魔力量を誇り、竜族の頂点に立つ兄ディアボロスが傷だらけで戻った。その一報に驚く。


 つい先ほど、気になることが……と出かけて行ったばかりだ。駆けつけた先で、兄はズタボロだった。圧倒的強さの竜族の王となれば、戦って勝てるのは魔王ぐらいだろう。まさか、魔王と事を構えたのか。


 心配になる私に、困ったような顔で腕の中を見せる。抱えているのは、上着に包んだ幼子だった。どこで攫ってきたのか。両親が全力で抵抗した証がこの傷なら、私が叱って返してこなければ……。そう考えたのを見透かしたように、兄は顔を歪めた。


「アガリアプレト、悪いが治療を頼む」


 差し出された幼子にも傷があった。背中の羽を千切った跡は、今日の傷ではないのか。膿んでいるように見えた。


「構いませんが、説明してもらいます」


 頷いた兄を連れて、集まった王宮スズメを追い払う。侍女や侍従を含め、騒がしくて仕方ない。きっと今夜の夕食の話題に上るのだろう。渋い顔で見回すと、バツが悪そうな顔で逃げ出した。


 兄の執務室へ促すと、なぜか私室がいいと言う。どうやら複雑な話らしい。そう判断して、治療に使う薬や包帯を山ほど運んだ。お茶も運ばせ、廊下で受け取る。きっちり扉を閉めて、魔力で覆った。これで盗み聞きの心配もない。


「何があったんですか」


「この子、ルンと言うんだが……呼ばれたんだ」


「親族でもないのに?」


「ああ。あまりに必死なので覗きに行って、捕まった」


 ほわりと頬を緩めて笑う兄の顔に、溜め息を吐いた。これは重症だ。そこから幼子の両親が殺された話、母親が魔王だったことを聞かされた。


 竜王は挑戦者が現れると戦い、勝った方が王となる。そんな通例を破り、自ら退位した王がいた。兄に王位を譲った先代だ。異種族との間に愛を育み、共に暮らすために一族を離れた。


 母に魔王、父に元竜王を持つ子供? 奇跡のような存在だった。だが魔力はあまり強くないのか。そう尋ねると、大きく首を横に振った。


「逆だ。両親の死を見て暴走した。その結果が、これだ」


 血だらけの手足を自慢する兄の頭をぺちんと叩く。取り出した薬を塗ろうとすれば、先にルンを見ろと指示された。言われなくても、そうする。兄ディアボロスは、殺しても死なないタイプだろう。


 顔に大きな傷がある強面の兄だが、実は子供が大好きだ。いつも泣かれて、抱っこなど出来た試しがない。だからか、ぎこちなく腕に抱くルンに優しい目を向けていた。起きたら泣かれると思うが……その予想を裏切り、ルンは平然としていた。


 両親がいないことに不安を覗かせたが、兄と一緒に暮らすことに目を輝かせる。まさか、この兄に懐く子がいるなんて。治療を終えた二人を見比べ、白い包帯がお揃いと喜ぶ姿に驚いた。


 でれでれと顔を笑み崩す兄は、弟から見ても怖い顔だが……ルンは「綺麗」と笑っている。そういえば、先代の竜王陛下も顔に酷い傷があったような? 腑に落ちる要因を見つけ、納得した。


 不幸な目に遭った幼子に、いつか本当のことを話す日が来る。それまで真綿に包むようにして愛を注ぐ兄を想像し、溜め息を吐いた。将来、嫌な説明を丸投げされる気がする。その杞憂が現実になっても、私は引き受けるのだろう。不器用な兄のために。

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