78.こっそり海へ来ちゃった
空中に物をしまう魔法は、まだ上手に出来ない。入れられるんだけど、どこかに消えちゃうことがあった。五つ入れると、二つくらい行方不明なの。
アガリも首を傾げていたけど、危ないから大事な物を入れるのはやめた。ご飯とか、木の剣とか。消えてもまた貰える物だけ入れる。そのお話をしたら、お母さんが直し方を知っていた。
「それはね、魔力にムラがあるからよ」
ムラ? 空間は魔力でぐるりと覆った場所を作る。その袋の魔力が平らじゃないと起きるんだって。重い物が袋の穴から落ちちゃう。僕の袋はポンコツみたい。小さくていいから、穴のない収納を作る練習を始めた。
風を飛ばして遠くに攻撃する方法も、お母さんが教えてくれた。魔法は得意みたい。炎の使い方はお父さんとディー。戦い方と飛び方はバラムが、アガリも収納の魔法の練習を見てくれる。水や氷を使う魔法は、フィルが担当だよ。
ヴラドのおじさんは、魅了の授業をしに通ってくる。皆が僕を好きになる方法で、魔法とは違うんだ。不思議だよね。でも皆と仲良くしたいから、ちゃんと授業の内容を覚えた。
使っていい場所と使ったらいけない場所。どうしても勝手に魅了しちゃう時は、目を閉じちゃうの。目から何か出てるのかな? この辺は説明がよくわからなかった。
魔族の歴史とか、人間がした悪いこととか。勉強もいっぱいしたよ。文字も読んだり書いたりできるから、自分で本も選んだ。たくさん読むと賢くなれる。でも絵の描かれた本が好きで、文字だけだと疲れちゃう。
いっぱいお勉強して、立派な王様になるのが僕の夢なんだ。お母さんが魔族の王様で、お父さんは前のドラゴンの王様。ディーは今の竜王様だよ。王様ばっかりだけど、一番偉い王様を決める。その時に僕が大変じゃないように、今からお勉強をたくさんしておくんだ。
でも、僕より偉い人はいっぱいいると思う。猫さんや亀さんも偉いんじゃないかな。僕でいいのか尋ねたら、僕がいいんだと返ってきた。なんだか嬉しい。
僕、立派な王様になれるように頑張るね。
飛べるようになって、嬉しくて森の上をぐるぐる回る。最近はたくさん飛んでも疲れなくなった。もしかしたら、遠かった海へもいけるかも? そう思ったら、そわそわしてしまう。
海のお魚を捕まえてお土産にしたら、皆が喜ぶはず。ちらりと地上を見て、大丈夫と判断した。今なら出かけてもバレない。
ちょっとした冒険のつもりで、僕は海へと頭を向けた。風を操って、ぐんぐん高くのぼる。雲に触れる高さで、海を目指した。ぐるっと大きく回り道をしたのは、方角を間違えたから。ようやく海が見えてほっとした。
白い砂浜に着地した僕は、飛んできた何かを払った。先が尖ったこれは、矢だと思う。森人族のシエルが使ってるのを見たことがあった。人に向かって打つなんて、いけないんだぞ。獲物を捕えるための武器なのに。
むっとした僕の背中に、ちくりと痛みが走る。さっきの矢が刺さっていた。ぶるりと身震いしたら落ちたけど、傷になった? これから海に入るのに、しみるじゃん。矢が飛んできた方角を睨んだ。