77.魔法も剣も使えるよ
大きなお城の裏側に、平らで広い場所がある。草は抜いてあって、土になっていた。ここはディーのお家にもあった着地のお庭だ。着地に失敗しても危なくないように、広い場所だった。
「じゃあ、見ててね!」
今日はお母さんとお父さんに、魔法を見てもらう。いっぱい練習したし、何度も失敗したよ。二人が起きてきた時、立派に成長した姿を見てもらいましょうね、って皆が練習に付き合ってくれた。
「気をつけるのよ」
「うん!」
最初はバラムと剣で戦う。正面から向き合って一礼して、僕が先に攻撃した。飛びかかる時に、ふわりと浮き上がる。魔法だけど、竜族の戦い方はこれで正しいんだって。ドラゴンが浮く時と同じで、風と魔力を利用するの。
「えいっ!」
「おっと、まだです」
バラムの背中に回って攻撃したけど、当たらなかった。避けたバラムが下から僕に向かって木の剣を突き出す。それを弾いて、もう一度横に振った。素早く引き寄せた剣に防がれる。縦にして体の手前に持ってくる技は、何度か見たことがあった。
やっぱり僕よりバラムが強い。どうしようか考えながら少し後ろに下がって、いいことを思いついた。上に振りかぶって駆け寄ると、バラムの剣は横向きになって弾こうとする。ギリギリの位置で、剣から手を離した。
落ちる剣を反対の手で受け止めて、バラムの足を叩く! うまくいったかも? 鱗をカチンと弾く音がした。つまり、足に当たったんだよね。
「やった!」
「お見事です」
バラムに勝ったよ。飛び上がって喜ぶ僕を、膝をついたバラムが撫でる。ディーとアガリも嬉しそうで、フィルはなぜか泣いちゃった。
「フィル?」
「嬉しくて泣いただけよ。心配しないで」
「うん」
お父さんとお母さんの前まで走って、ぎゅっと抱きつく。お母さんは、優しく抱きしめ返した。ぽんぽんと背中を叩く手が気持ちいい。勝って興奮した僕を、お父さんもいっぱい褒めてくれた。
「さすが俺の息子だ」
「ありがとう」
育てたディー達にもお礼を言う二人から離れて、今度はドラゴンになる。お日様色のドラゴン姿で、くるりと回って確認した。尻尾も羽も全部出てるよね。
こっそりとフィルが頭に触れる仕草をした。あっ、耳が出てないかも! 練習通り、きちんと魔力を巡らせた。ちらっと確認した僕に、今度は頷く。成功したみたい。
「あらあら、あなたより立派じゃないの」
「そりゃ、魔王陛下の息子だからかもな」
お母さんのからかいに、お父さんは苦笑いして答えた。ドラゴンの姿で、魔法を使ってみせる予定なの。飛ぶのは危ないし練習中なので、また今度。今日は炎を吐いて、水で消す。
アガリが空中から取り出した木材を山にして、そこへぶわっと炎を吹きかけた。燃える木をしばらく眺めて、次は上に水を集める。空中から集めるのは、結構大変なんだ。バケツから持ってくるほうが簡単だった。でも難しい方を選んだよ。
うーんと顔をしかめて力を込めて、水を集める。大きなボールになったところで力を抜いた。下で燃える炎を、大量のお水が消していく。しゅーっ、そんな音がして黒い炭の塊ができた。成功だ!
「すごいわ、ルン。複数の属性を使いこなしているのね」
「俺の息子は、最高のドラゴンだ」
二人の褒め言葉が嬉しくて、にこにこしたら人型に戻っちゃった。