76.ドラゴンに変身!
「ルン、尻尾が出てないぞ」
「羽も片方忘れているわ」
ディーに注意されて振り返ると、フィルにも指摘された。ゆっくり魔力を動かして、尻尾を先に出す。それから羽だよ。前に千切られた方は、治ってもときどき忘れちゃう。
治療時間が長かったから、そのせいだろうとお医者さんは言ってた。なくても気にならないから、つい忘れちゃうみたい。変身は自分の姿を思い浮かべて行う魔法だから、見えない尻尾とか忘れると出てこないの。
何度もお絵描きして覚えたんだけど、また失敗しちゃった。思い出しながら形を整えて、くるりと回る。
「今度は平気?」
「問題なく全部揃っています」
バラムが確認して頷く。ほっとした僕は、羽を動かした。飛ぶ時はあまり動かさないけど、ちょっと向きを変えて風を受けて使う。空でないことに気づいても間に合わないからね。
他の種族は、魔力を使ってもドラゴンになれない。だからお母さんも無理なんだ。ここにいるのは、猫さん以外は全部竜族だからドラゴン姿で狩りに行くの。
「聖獣殿はどうされる?」
お父さんに訊かれて、猫さんはくるりと魔法で自分を覆った。透明の籠みたいなのだ。丸い魔法で、そのまま海へ歩いて行った。波が来て、猫さんが魔法ごと浮いている。
「潜れるの?」
「問題ない。行こうか」
猫さんが平気ならいいけど、普段走る時みたいに足を動かすと前に進む。びっくりするくらい速かった。慌てて空に舞い上がって追いかけ、お魚を探す。
水に強いフィルが最初のお魚を捕まえた。続いて猫さん、それからバラム。お父さんも頑張るけど、先にディーが捕まえた。僕はフィルが追いかけていたお魚を、反対側で捕まえる係だよ。
お父さんもお魚を捕まえたので、皆で砂浜に戻った。白い砂がぺたぺたと体にくっつく。転がったら白いドラゴンみたいになっちゃった。鱗だと熱いのも関係ないから、全然平気だよ。
「あらあら」
フィルが上から水をかけて、砂を流してくれた。捕まえたお魚は纏めて籠に入れる。その籠を持って、先にバラムが帰ることにした。お料理するのは新鮮な方がいいから、お城に届けるんだ。
僕達はもう少し海で遊んで帰る。バラムにバイバイと手を振って、海の水と追いかけっこした。僕が波の近くに行くと引っ込んで、追いかけてくる前に逃げる。面白くて夢中になって遊び、気づくと夕方だった。
綺麗な貝殻を拾ったフィルは、お土産だと分けてくれる。嬉しくなって抱きついた。ディーとお父さんは取っ組み合いで訓練していて、猫さんは岩の上でお昼寝中。
「そろそろ帰るぞ」
お父さんの号令で、僕は人型に戻った。まだ長い距離を飛べないから、途中で落ちたら危ないの。お父さんの背中に乗ろうとしたら、ディーが邪魔をした。
「俺の背中に乗れ」
「ダメよ、たまには私に譲りなさい」
フィルに負けて、ディーは引き下がる。お父さんがいつもお母さんに譲るのと同じだ。かてぇえんまん? そんな名前だったと思う。幸せな証だって。
僕は促されてフィルの背中に飛び乗る。青い鱗はひんやりして、ディーよりスベスベしていた。今日は楽しかったな、また来ようね。