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70/90

70.ぼんやり覚えているだけ

 吸血鬼のヴラドおじさんの捕まえたウサギを、アガリが捌いて、ディーがこんがり焼いた。いい匂いのするお肉が、お皿に載って運ばれる。


「いろいろと世話をかけて、すまな……」


「話は飯を食ってからだ」


 お父さんの話をディーが遮った。後ろでアガリが寝室の荷物を空中にしまっていく。家具は後で片付けようと話していた。お引越しするみたい。


 客間にある長椅子に、僕を挟んで二人が座る。お父さんが左、お母さんは右だよ。お腹が空いてる時の虫の音がして、お父さんが笑った。今の虫はお父さんのお腹に住んでいるみたい。


 くすくす笑うお母さんはお肉の皿を引き寄せて、ゆっくり食べ始めた。お父さんは勢いよくかぶりつくけど、お母さんはちゃんとナイフ使ってる。交互に食べるところを見ていたら、お母さんがお肉を小さく切って、僕の口に運んだ。


「あーんして、ルン」


 僕はお腹空いてない。でも……お母さんがくれるから。向かいに座るディーを見たら、大きく頷いた。隣のアガリも笑顔で首を縦に振る。


 ちょっと恥ずかしいけど、そっと口を開けた。フォークが入って、お肉を齧る。お母さんのあーんは、すごく昔にしてもらっただけ。いつもディーやアガリ、フィルがしてくれたけど。やっぱりお母さんのあーんが嬉しい。


 お肉も普段より美味しい気がした。二人が食べ終わるまで待って、吸血鬼のおじさんが口を開く。


「お二人とも、住居を移していただきます。よろしいですね」


 以前も同じ話をしたのに、お父さんもお母さんも嫌だと言った。その結果が今回の騒動で、おじさんは怒っている。僕が連れ去られたことも知らなくて、ディーが助けた話を聞いて悔しかったんだって。


 助けたディー達が僕を育てるのも、反対できなかった。そう嘆いて、お母さんは困った顔で頷く。お父さんもディーに睨まれていた。どうして皆が怖い顔をするのか分からなくて、僕は皆の顔を順番に眺める。首が疲れちゃう。


「この子は覚えているの?」


 お母さんの手が僕の頭を撫でる。幸せだな、嬉しいなと思いながら、大人しくしていた。もう大きくなったから、じっと話も聞けるよ。


「連れ去られた前後の記憶は、曖昧だ」


 うん、お父さんやお母さんと暮らしていたことは覚えている。誰かがお家に入ってきて、入り口で遊んでいた僕を捕まえた。お父さんとお母さんが怒って……そこから、ぼんやりしているの。


 次に思い出せるのは、羽を傷つけられたこと。今も動かすと少し痛いけど、形は綺麗に治った。ドラゴン姿になったら痛くないんだよ。千切られた羽が痛くて、殴られ蹴られた体が動かなくて。お父さんとお母さんを呼んでも届かない。


 あの時、誰かっ! と叫んだ。その声がディーに届いて、僕を助けてくれたんだ。そこまで説明した僕に、お母さんは頬を擦り寄せた。ほっぺが濡れているよ?


「辛い思いをさせたのね」


「うんとね、痛かったけど今は平気なの。だから大丈夫。僕は平気だよ」


 ディー、アガリ、フィル、バラム、ドラゴンの騎士の皆が優しかった。僕は辛くなんかない。


「強くて立派になった。見守ってやれずにすまない。これからは俺達が守る」


 お父さんも僕に頬を寄せた。両側から触れる温かさに、僕は自然と笑顔になる。ずっとこのまま一緒にいられますように。

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― 新着の感想 ―
[良い点] (´;ω;`)お引っ越しですね。ルンは頑張りました。家族ゆっくり暮らせる新居にGoε=(ノ・∀・)ツ 小人ドラゴンは、猫作者さんの毛並みをシャンプーで優しく洗います。濯いだら洗い流して温…
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