表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/90

69.嬉しいのに涙が出る

 人の形に戻るディーが「先に行け!」と叫んだ。ありがとうを大声で返し、僕は走り出す。このお家を出た日に比べたら、ずっと速くなった。体も大きくなって、強くなったんだよ。


 客間に駆け込んだ僕の目に映るのは、きらきらするお母さんとお父さんだった。まだ僕に気づいていない。お母さんは何かを呟いて、お父さんは優しく微笑んだ。


「お母さん、お父さん」


 夢にみた再会だけど、現実では大きな声が出なかった。夢の中では大声で叫んで、全力で飛びついたけど。今は足が重くなって、止まってしまう。


 だって、お母さんが僕を覚えていなかったら? お父さんも同じだ。僕なんて知らないと言われたら、どうしよう。怖くて足が竦む。


 ぱっとこちらを見た二人の表情が変わった。お母さんは泣きそうで、驚いた顔のお父さん。両手を広げて、お母さんが近づいてきた。ぎゅっと抱きしめられる。


「ルン、ごめんなさいね」


 謝るお母さんの腕が震えていて、僕と一緒で怖いのかも……と気づいた。ぼふんとお胸に顔を埋めて、お母さんの匂いを確かめる。間違いない、僕のお母さんだ。ずっと会いたかったし、抱っこしてほしかったし、声を聞きたかった。


「悪かった、ルン。愛してるぞ。お前は自慢の息子だ」


 お父さんの声が聞こえて、お母さんごと腕にすっぽり収まる。僕ね、頑張ったの。優しくて綺麗なお母さんみたいに、怖くて誰より優しいお父さんのように。お勉強も魔法も剣術も、いっぱい覚えたんだ。


 言葉にしようとするけど、涙が出るだけ。声は出なくて喉に詰まってしまった。しゃくりあげて腕をお母さんの背中に回す。お父さんの涙が髪に落ちて、ちょっとだけ上を向いた。お父さんとお母さん、温かい。


 大好き、また一緒に暮らせるのかな。僕、忘れられていなかったね。すごく嬉しい。伝えたいことも話したいことも、山ほどあるんだ。だけど、今は動きたくない。少し苦しい腕の中で、じっとしていたかった。


「やれやれ、我が君……そろそろ食事にしませんか」


 ほら、獲物です。吸血鬼のおじさんが口を挟み、ようやく僕達は腕の力を緩めた。いっぱい泣いたから、目が痒い。お母さんもお父さんも泣いてて、その顔のまま笑った。


「まずは料理か……火加減なら任せろ!」


 ディーはわざと大きな声で話し、吸血鬼のおじさんと騒がしく出ていく。血を抜いたお肉をアガリが捌き、すぐにいい匂いがしてきた。お父さんとお母さんが消えちゃいそうな気がして、僕は繋いだ手を離せない。


 忙しなく両側をみて、手に力を入れる。これは絶対に離さない。きゅっと唇を噛んだ僕だけど、お父さんがいきなり抱っこした。お母さんと手を繋いだまま、お父さんの腕にお座りする。


「え?」


「安心しろ、ずっと一緒だ」


「ほんと?」


「ええ、ルンの希望通りにするわ。もう安心していいのよ」


「……うん」


 ずずっと鼻を啜る。二人とも一緒にいてくれる。これは約束だよ。だから、破ったらダメなんだからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 良かった(;つД`)ずっと一緒が大事(´;ω;`) 猫作者さんの毛皮を小人ドラゴンは、エステティシャンのようにマッサージ。アロマオイルは、小人王国御用達の特性アロマオイルきゅ。千年桜の成分…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ