67.十歳になった日の贈り物
バラムと鍛錬して、アガリにドラゴンになる方法を教わる。読み書きのお勉強はディーと頑張って、魔法をフィルと覚えた。
毎日が忙しくて夢中になって、こなす。気づいたら、片手より多くの時間を過ごしていた。僕のお洋服も小さくなって、新しい服を作ってもらう。靴も全部履けなくなっちゃった。
「ルンも大きくなったな」
「もう十歳だよ」
両手を広げて、ほら、こんなに大きくなったと示す。にっこり笑うと、いつも皆が喜んだ。だから笑顔でいる時間が多い。
「今日の予定は?」
尋ねるディーに、フィルの魔法の授業を伝えた。時間が余れば、鍛錬でバラムに打ち合いをお願いする予定なの。がんばれと頭を撫でられて、大きく頷いた。
「ルンはこっちですか?」
飛び込んだアガリに驚く。普段はノックして開けるのに、今はいきなり扉を開いた。そのまま駆け込み、僕を見つけて表情を崩す。まるで泣き出しそう。
「どうしたの? アガリ」
「急いでください。あなたのご両親が目覚めそうです」
「……お父さんと、お母さん?」
驚き過ぎて動けない僕を、ディーがさっと担いだ。昔みたいな抱っこじゃなくて、お腹を肩に乗せて運ばれる。急いでる時は、この運び方が増えた。理由を聞いたら、僕が大きくなったからだって。
ゆっくりの時は肩に座らせてくれたり、おんぶだったりする。きょとんとする僕を運んだディーは、着地用のお庭で下ろした。靴を履いてないのに。そんなことが気になる。
足の裏についた土を気にする僕は、さっきのアガリの言葉を思い出していた。お父さんとお母さんが、起きる……じゃあ、話しかけたら返事をしてくれる? 今までみたいに僕が一人で話すんじゃなくて、いっぱい話してくれるかな。
もう声も忘れちゃった。きゅっと口を結んだ僕の前に、真っ赤なドラゴンが現れる。後ろから走ってくるアガリが、ディーの背中に僕を押し上げた。荷物を持ってきたアガリも一緒に跨る。
「急ぎましょう」
「おう!」
声を伝えるディーが浮き上がり、珍しく羽をばさばさと動かした。あっという間に高い位置まで上がり、一気に前に進む。アガリが後ろに座って支えてなかったら、転がって落ちちゃったかも。
僕は前のめりになり、しっかり鱗を掴んだ。今日は急いでいたから椅子も手綱もない。フィルに教えてもらった魔法で、風を避けた。ちゃんと使えるのは、教えるフィルが上手だからだ。
ぐんぐん景色が後ろへ流れて、見覚えのある山が近づく。何度も通った道なのに、別の風景みたい。どきどきし過ぎて、なんだか苦しくなってきた。
お父さんとお母さん、僕のこと覚えているかな。知らない子って言われたらどうしよう。もしかしたら、僕が分からないかも。大きくなった僕が、ルンだってわからなかったら。
不安がいっぱいになる。怖くて、帰りたくなった。どうしよう。振り返ると、アガリが真剣な顔をしている。言い出せなくて呑み込んだ。
ディーが下降を始める。覚悟を決めて、僕はしがみついた。怖いけど、お父さんとお母さんに抱きついてみよう。大丈夫、僕にはディーやアガリが付いているから。頑張れるよ。




