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【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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55/90

55.日常が壊れる音 ***SIDE人の王

 ごく普通の一日だった。少なくとも日暮れまでは、そう表現できる。空が夜の黒に染まり、見上げて気づく。今日は月が暗いのか。星もあまり見えないため、いつも以上に灯りを増やした。


 街も暗さを払拭する灯りが瞬き、繁栄の色を感じさせる。平和な一夜が過ぎ、何事もなく朝を迎える――ごく当たり前に信じていた。


「襲撃だ!」


「魔族か?!」


「ドラゴンもいるぞ」


「うわぁ」


 あちこちから聞こえる悲鳴と苦痛の声が、街の風景を一変させた。平和で穏やかな夜は、赤く血塗られた地獄へと景色を変える。何が起きたのか、なぜ襲われたのか。慌てる執政者を嘲笑うように、ドラゴンは街を燃やした。


 尻尾で叩かれるたびに壊れる外壁、崩れた塀の隙間から魔獣が飛び込む。ドラゴンと飛来した魔族が、多くの人を襲うのが見えた。我が子を見捨てて逃げる親、諦めて死を待つ老人、醜い光景が広がる。


 恐ろしい景色に、何を指示すればいいか。頭が動かなかった。促されて地下通路へ向かう。王族を逃すための地下通路は、昔の洞窟を利用していた。そのため灯りが乏しい。松明を手に進む騎士の後ろを歩きながら、恐怖に震える妃の手を握った。


「大丈夫だ、隣国に助けを求めよう」


 これは天災のようなもの。降りかかった不幸は、必ず別の形で取り戻せる。言い聞かせる言葉は、王妃より自分に向けられていた。民を見捨てて逃げた王が、何を言っても綺麗事だ。罵る叫びが、頭の中にこびりついた。


 暗い洞窟の出口は、王都を抜けた先にある。森に続く街道からも離れた、小さな砦だ。打ち捨てられた廃墟に偽装した砦で、夜明けを迎えた。青紫の光が満ちる空を、万感の思いで見つめる。逃げてしまったこと、王都の民を見捨てたこと、何より助かってしまった罪悪感。


 王として大事な何かを失った気がした。もし国を建て直す算段がついたら、その時点で王位を譲ろう。そんな決意すら脅かすように、上空を大きな影が通り過ぎた。


 森の木々に隠れた廃墟の上を、ドラゴンが悠々と飛んでいく。その数は驚くほど多かった。低く飛んでいるのだろう、その背に乗る人影が判別できる。人とは明らかに違う外見の異形を乗せ、ドラゴンは海の方角を目指した。


「……隣国へ向かってないか?」


「嘘だろ、それでは」


「言うな」


 上官に言葉を遮られた騎士が、慌てて口を手で押さえる。彼が言わなくても、続きは理解できた。もう手遅れだ。隣国も同じ状況に陥り、人が住める領域は狭まる。


「何が悪かったのか」


 呟く誰かの声に、頭を過ったのは一つの報告だった。季節を一つ遡った頃、魔王討伐の知らせが入った。確認が取れず、有力な魔族を倒したのだろうと判断し、勇敢な男達に褒美を与える。だが、直後に彼らの拠点は崩壊した。


 落雷のようだが、魔族による報復ではないかと騒ぎになる。それを鎮めて、ようやく一段落したところだった。もし、魔族への襲撃が引き金であったなら……本当に魔王を襲撃したのかもしれない。軍を揃え、他種族も巻き込んで、人間を排除しようとしたなら。


 もう逃げ場などない。諦めを浮かべた王の瞳に、砦を囲む魔獣の群れが映った。禁忌に手を出したのだと、王は妃を抱き寄せる。無言で震える妻も覚悟は決まったようだ。頷き、騎士から短剣を受け取った。


 食い散らかされるなら、一思いに。妻の首を切り裂き、その刃を己の胸に納めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王討伐の報告が来ていたなら、その時点で精査して事実確認と本当の状況を騎士団派遣して調査するべきでしたね。無能な国王は行動が牛歩の歩みだったのです。 作者猫さんと、ふかふか猫さんの間に埋も…
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