靴磨き
靴磨きのもとには日々様々な客が訪れる。老若男女、態度も様々。仲間が仕事を切り上げ最後の一人になった頃、その幼子はやってきた。
「もう、おしまい?」
靴磨きは首を振る。
台に乗った靴は一目で難敵と知れた。ゴミを巻き込んでこびりつき、小さな足が五倍にも大きく見える。
塊をやすりで削り、ふやかし、丁寧に汚れを落とした。現れた足は華奢で、掌ですっぽりと包んでしまえそうなほど。
「靴が重いなら脱ぎ捨ててしまえばいい。次はどうか、よい旅を」
きっと羽のように軽くなった足で立ち、飛び跳ね、少女は可憐な花のように笑った。
「ありがとう。お兄さんも、きっと」
汚れた頬にキスをして、幼子は足音もなく駆け去っていく。
次の生涯へ。
第4回 毎月300字小説企画、お題は「靴」でした。