第四十六話「道満の勇気」
道満が目を開けると、目の前に亡くなった養父、風獄鬼と母、さきが現れる。
「でかくなったな! 息子よ」
「元気そうだね。風太」
二人を前にして、感情があふれる。
「親父! おふくろ、俺、俺っ!二人を守れなかった。みすみす死なせてごめん!」
「さぞ、苦しかっただろ。さぞ、無念だっただろ……そんな言葉じゃ、言い表せないくらいだ。弱くてごめんな! ずっと、謝りたかったんだ!」
声を震わせ泣き始める道満。
「風太……今は、道満という法師になったんだね。あんたのせいじゃないよ。苦労したよね…ごめんね」
さきは子供の時のように、道満を抱きしめた。
「あんたは、本当に優しい子だ……変わってないよ」
道満の茶色いくせっ毛を、優しくなでる。
「母ちゃん!」
道満は、暖かく柔らかい母の胸で子供のように泣いた。
父も優しく見守っている。
◇ ◇ ◇
抱擁がすむと道満は父に言った。
「俺が今に秘術で親父と、おふくろを蘇らせるよ!待っててくれな」
しかし、風獄とさきは首を横に振り言った。
「俺達は、生き返らせなくていい」
「なんでだよ!? 親父、殺されて悔しくないのかよ!」
「秘術というのは、あの泰山府君様の秘術。(泰山府君の祭)の事だろう。あれは、人の命と引き換えにして、他人を蘇らせる術だ。」
「あたし達はね。ずっと、見ていたんだよ。お前が、もがき苦しんでいたのを、あたし達のためにもう、苦しむのはおやめ」
「俺達は、他人の命を引き換えにして、生き返りたいなど思わない……それにもしも、生き返ったとして、引き換えにされた人間や、残された家族の人生はどうなる?また、それを苦にして生きるお前を見たくないぞ…」
風獄鬼は、道満の頭に大きな手をやんわりと乗せた。
「でも!」
「でも、じゃないだろう?」
「それじゃ、俺が身代わりに!」
道満はずっと、思っていたことを吐き出した。
「この大馬鹿者! 命を粗末にするな!」
風獄は眉をつりあげ、頭を小突いた。
風獄のこぶしが小刻みに震えている。
「ほら! 気張りな。男だろ!」
さきは道満の背中をバシッと叩いた。
こんなに大人になっても叱ってくれる。
厳しくも、どこまでも優しい、父と母に道満は涙を流しうなずいた。
「ああ……わかったよ。親父、おふくろ。俺、ふたりの息子で良かった……」
道満は真剣なまなざしで顔をあげた。
「親父、俺は、炎獄鬼を倒さなくちゃならない。力を貸してくれ」
「実の父を倒すのだな……辛くはないか?」
「俺に悔いはないよ、守りたいんだ。大事な家族を。今度こそ」
道満は、硬い表情でうなずいた。
「息子よ、強くなったな」
「風太、父ちゃんと母ちゃんはいつも、お前の中にいる。お前の信じる家族を守れよ!」
「ああ!」
風獄は道満に自身の持つ、地獄の風の霊力を渡し、さきと共に夢幻の月に消えていった。
道満は、風をまとった鬼神に覚醒した。