表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
安倍晴明物語☆~夢幻の月~  作者: 夢月みつき
第五章「無情と情愛の旅路」
35/74

第三十話「贄の村」

ここは、都から離れて南に存在する村。晴明、道満、篁達は美夕を

さらった犬神を追ってその村まで来ていた。田畑風景が広がる小さな村だ。


「晴明ちゃん、篁……何か、様子が変だよ。ここ、人っこひとりいないし、子供達の声も聞こえない」


道満があたりを、見回しながら、言った。


「ああ、人の気配はするが……不気味なくらい、静まり返っているな」


篁は腕を組んだ。

「かすかに……美夕の精気を感じる。ここを、調べてみる必要が、ありそうだ」

晴明は、気が急くのを抑えて、次の行動をめぐらせた。

これはこの村に何かが、起こっている。


晴明と道満、篁はそう思いながら、美夕の情報を集めようと、

村で一番大きなかやぶき屋根の屋敷に向かった。

晴明達が屋敷に着くとその屋敷の屋根には、矢が刺さっていた。晴明は戸を叩いてみた。


すると、白髪の老人が出てきた。身なりは良いのだが

げっそりと痩せており、顔に覇気はきがない。

「はい……どちら様でしょう」

男性は、ふりしぼるような小さな声で受け答えをした。

晴明はそんな男性を気遣いながら


「突然、失礼いたします。私は、都の陰陽師の安倍晴明と申すものです。つかぬことをお聞きいたしますが、あれに見えるは(白羽の矢)なのではないですか?」

と屋根に刺さっている矢を指さした。


「おお……陰陽師殿! お察しのとおりでございます。ささ!ここでは何ですからどうぞ、中へ!お供の方々もどうぞ」




晴明、道満、篁は男性に屋敷の奥へと通された。

居間で晴明達は情報収集をかねて、話しを聴くことになった。

五年前。突然、のどかなこの村に三匹の鬼が現れ、村人を襲い始めた。


村人は、無差別に殺されないように。鬼の要求を呑むことになった。

それは、化生を自分達に差し出せというものだった。


それから化生がいる家には、白羽の矢が打たれることになり

村人は生け贄になる恐怖におびえながら、ずっと暮らして来たと

この村の村長である男性は語った。


「それで、あなたのお孫さんが、生け贄に選ばれたのですね。さぞかし、お辛かったでしょう」


晴明は話しを聴きながら、うなずいている。


聞けば孫娘は、父が蛇のあやかし、この男性の娘である孫の母は、人間だという。

「おいで。お鶴や……」

ふすまに向かって声をかけると、ふすまを静かに開けて、娘が姿を現した。

外見は美夕よりも、少し幼く感じた。丸顔でなかなか可愛らしい。


瞳は深い緑色をしていた。生け贄にされることを、嘆いていたのだろう。

白目が真っ赤になり、まぶたがはれていた。

お鶴は晴明と目が合うとおずおずと話しかけてきた。


「お初にお目にかかります……陰陽師様。お鶴と申します。その眼の色……恐れながら、あなた様も混血でしょうか」


娘の不安を解くように晴明は、にこりと微笑んだ。

「ああ……私は、天狐てんこの混血だ。そなたは、蛇の混血だったな」

「天狐の混血!?」


お鶴と男性は驚いた。

「お鶴ちゃん、何をそんなに驚いているんだい」

道満がたずねると、お鶴が震える手で、道満達の湯飲みに茶を注ぎながらいった。


「天狐様は……この村を、守護してくださる守り神なのです。昔からこの村には、言い伝えがあって、村に危機が迫った時。天狐様の化身が現れて

村を救ってくださると、言い伝えられております」


「(そこ)に晴明が現れた……ようするに、晴明に身代わりになれってことだろ? けっ、考えが、せこいんだよっ」


篁が突然、ふたもないことを言った。

「そ、そんな! ひどいっ!」

お鶴はわっと泣き出した。

「女の子に酷いこと、いうなよ! 篁! お前は女の子には、優しいはずだろ?どうしたんだよ」


道満はお鶴をかばった。ふんと、そっぽを向く篁。

「うるせえな……オレは、本心をいえない。晴明の言葉を、代弁しただけだ」

泣き続けるお鶴をなだめながら、晴明は話しを進めた。

「私どもは、犬のあやかしを追って旅をしております。

この辺りで、何かを見たという話しは、聞いておりませんか?」


お鶴ははっと、気が付いて涙で濡れた顔を上げた。

「それなら、私が見ました! 黒い影のようなものが、生け贄の洞窟に入っていくのを。もしかして、あの影が鬼の仲間なのではないでしょうか」


お鶴は身震いした。

「そうですな。可能性は、あると思う。

困っている者を救うのもまた、陰陽師のつとめ……調べてみる、必要がある。」

「私が、お鶴殿の代わりに、生け贄となり。その鬼を退治して、参りましょう!」

晴明は、力を込めてお鶴の手を取った。


「本当でございますか! 天狐様」

「おお! ありがたや。さすがは、守り神様じゃ」



お鶴と男性は、喜び。晴明達にごちそうを振る舞った。

晴明は、敵をあざむくためにお鶴に手伝ってもらって、花嫁衣裳を着て、顔にはおしろいを付け、唇には紅がひかれた。

「まあっ! とても、お綺麗ですわ。天弧様」

お鶴が、見惚れながら鏡を見せた。

「ほう……これが、私か?変われば、変わるものだな!」


晴明はお鶴と化粧に感心した。

「晴明ちゃん。入るよ~!」

道満が、ふすまを開けた。篁もその後に続く。

二人の目の前には、宝石のように美しく、着飾った晴明がいた。


思わず道満は、ため息をもらした。

「――晴明ちゃん? 本当に晴明ちゃんなの?」

ぼーっと顔を真っ赤に染めてつぶやく道満。

「ああ、本来なら美夕の方が、似合うと思うのだがな。今回は、私で我慢してくれ」苦笑する晴明。

「晴明! 惚れ直したぞ。オレの女になれ!」

「うわ!?」

何と晴明を押し倒し、組ひいた。口づけを迫る篁。

その篁の顔をぐぐぐと、押し戻そうとする晴明。

「このばか者! 私は、男だぞ! お鶴殿に、妙なものを見せるでない!」


顔を真っ赤に染めて、あわてているお鶴。

「オレは男でも、お前が好きだぞ? さあ! そのくちびるオレによこせ!」

くくくと笑いを浮かべ、晴明の頬を撫でる篁。


晴明は、こめかみに青筋を走らせ、わなわなと震えた。

「いいかげんにしろ! このたわけ!!」

げんこつが、篁の頭に振り下ろされた。篁の頭に、でっかいたんこぶができた。


「ザマーミロ!」


道満が、舌を突き出して小声でいうと、篁はぎろっと睨んだ。


「天弧様! どうかご武運を」


村長とお鶴に見送られ、晴明は村人がかつぐ、

かごに入れられて道満、篁と共に森の生け贄の洞窟に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ