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世界の終わりは三度も来ない  作者: 矢坂楓
5話 来た道往く道(2022/8/1~)

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7話-(1)

 2022/12/24 17:40 F市某雑居ビル屋上 市中央シティビルを臨む


「アタシ、アンタが嫌いだったの。わかる? 10年間ずっとよ、ずっと。友達だと思ってたのにコレだもん」

 空を、プロペラとモーターに切り裂かれた空気の悲鳴が木霊する。きっと、思ってるよりずっと遠くで響いているのだろう。足元では鮮やかなライトが躍り、年に一度の祝祭を喜び合っている……なーんでこんな日に、コイツの相手をしなきゃいけなくなったんだろう、アタシは。

「そう? 私はとても気にしていたし、心配していたのだけど。落ち着いた身なりになったと思ったのに、変わらないのねそういう所」

「よく言うわよ。アタシの預け先を突き止めて如何わしい連中を送り込んだの、アンタでしょ? あの後、どうやって逃げたのか知らないけど」

 眼の前に居る女とは、かれこれ10年ほどの因縁がある。何しろ、アタシを悪魔憑きにした張本人だ。今でこそグリマルキンとよろしくやれているが、当初はそれどころじゃなかったのを覚えている。違法憑魔者イリーガルとして悪魔憑きを故意に増やし、場合によっては憑依に絶えきれず心が死ぬか、肉体が死ぬかした幼気な子供達を量産したあの事件。詳細を話した覚えはないが、おじさんは知っているに決まってる。

 そして、今この(クソアマ)がアタシの前に姿を見せ、あろうことか部下まで連れていることをおじさんは多分知らない。今頃、クリスマスだからこそ尾行したり悪魔憑きを祓いに駆り出されたりしているはずだ。

 もしくはそれら全てが、この女の手引きであっても驚かない――。

「居るのよ、私達にもパトロンが。有るのよ、今の貴女の、その腰に差したおもちゃなんかで対抗できない切り札が」

「お嬢、これ以上の戯言は計画に障ります。あなたを知るこの女を、ここで消したほうがいい」

「さんせー。面倒臭いヤツはいないんだし、今潰すに限るよねー」

 自慢げに語る女と、その両脇を固める護衛。何れも、中級以上……或いは上級悪魔が憑いている可能性が高かった。『ハセガワ七式改弐』がおもちゃ扱いとは、この3人の底知れなさが際立つ。

『数も質もあっちが上じゃない? 逃げ……て逃げ切れる感じしないけどワンチャンいっとく?』

『必要ないよグリマルキン。今、上に「来てる」から』

 状況の不利を十分に理解したグリマルキンの焦りを含んだ声が脳裏に響いたが、構いやしない。

 彼女(グリマルキン)は下級悪魔、吹けば飛ぶような強度だと言われても文句はいえない。

 けれどアタシと彼女は『特憑依体』としての繋がりがあり、10年のキャリアがあり――今この時、覚悟を決める時が来たのだと思う。

「……アタシさ。アンタにこんな体にされるまで、おじさんに会ったことなかったんだよね」

「ふうん?」

「でも、おじさんは会ったその日から『いろいろ』あったのに何も言わずに匿ってくれて、アタシにアンタ達の手が伸びないように根回しして、まだ自分の身の回りだってバタバタしてたのに『いい兄貴分』みたいな顔してたんだよね」

 今でも覚えている。グリマルキンと相性最悪のケルベロスを宿しながら、そして「やんちゃ」だったアタシを前にして、おじさんは呆れこそすれ嫌味も言わず、半壊した事務所でPMCの構成員を拘束して、口に溜った血を吐き出しながら言ったんだっけ。「よかったな、ここが家じゃなくて」って。馬鹿らしい、って思っちゃったんだよね。でも多分、この女には響かないだろう。

「その間、私達が雇った連中や在野の悪魔憑きが次々と蹴散らされたのは正直言って勘弁してほしかったわよ。こっちが被った損害は――」

「覚えてる? 10年前の今日」

「全く? 私は生きる事と両親の言いつけ、より多くの仲間を集めることに必死だったの。貴女とちがって」

 相手の言葉の鼻先を折って、自分の立場の優位性を確かめるようなことをした。口角が自然に持ち上がるのを止められない。固い口調だった男が、ぴくりと身構えるのが見えた。

「アタシはね、クリスマスパーティーをしたわ」

「……揺さぶりにしては下衆だな。価値もない」

 うっさいなあ。アンタには話してないわよ。

「頭に包帯巻いて、手足にも治療跡があるような格好で、おじさんがケーキを用意してくれた。次の日の朝にはいなくなってたけど。

 次の年も、その次……は流石に友達とだったかな? けど、ケーキを用意してくれた」

 毎年、毎年。必要ないだろうにクリスマスを祝ってた。悪魔憑きがクリスマスだなんて、悪趣味な黒ミサみたいだとアタシが言ったのは何年目だったっけ?

「だから、今年も『そう』だった。アンタ達がぶちこわした」

 プロペラ音がひと際高く響いた。

G-Trigate(ジー・トリゲイト)、アクティベート」

 上空に飛来したドローンは、頭上から箱を投下する。掲げた手に光が走り、掌紋スキャンと声紋認証を完了。落下中に四散した箱はしかし、その破片で屋上を壊すことは無い――箱そのものが、中身だから。

 全身に吸い付くように装着されるその感触は正直慣れない。

 けれど、この女を正面切ってぶん殴る為なら使い熟して見せる。

 だから一緒に、下手くそなクリスマス・キャロルを――。


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