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世界の終わりは三度も来ない  作者: 矢坂楓
4話 波の向こうで

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4-(10)

4話の終わりが見えてきた。

20:45 I市沿岸15km 接敵予定ポイント近辺


「なんで俺が操縦任されてんですかい? 悪魔憑きでもなければ警察関係でもねえってのに!」

「すいません……私含めて一級船舶とか漁船関係者じゃないので、大将しかお願いできなくて……危なくなったら引き返していいので……」

「引き返すったってお客さん達を残してですかい、若女将!?」

 対策課を通して高速ボートを調達したのはいいが、法治国家で無法を働けないのは間違いなく事実だ。それは海も同じことで、沿岸9km以遠に出るとなれば一級船舶が必須となる。

 だが、私は趣味人ではないのでそんな資格があるはずもなし。結果、翌日の仕込みを終えた板長(鱗礁館の沖釣りプランの船長も兼ねる)に運転してもらう他なかったのだ。……本当に行き当たりばったりで自分が嫌になる。

「最悪の場合は、ですけどね。このあたりに岩礁があったり岩場でも出ていればもう少し楽だったんですが」

「馬鹿いっちゃいけねえよ。それじゃこっちが坐礁しちまう」

 当たり前といえば当たり前の指摘にはぐうの音も出ない。船を走り回らせての哨戒、ハフグファと対峙した際の移動、最悪は逃走。一介の板前にやらせていい仕事量ではないのだ。

「この辺に例の人が向かってるんだよね? 本当に出てくるの、ハフグファ?」

「わかってたら苦労しない。けど、出てこなかったら隠れて泳ぎ回るヴォジャノーイをひっ捕まえりゃいい。少なくとも、一の感覚通りならこっちが匂う」

 悪魔を探す、見つけ出すという意味で、一の能力を超えるものを私は知らない。文字通り鼻が利くというヤツだ。だからこそだが、今まさに海の向こうに漂う、鼻が曲がりそうな凶悪な気配は間違うはずがない。速度にして31、否、まだ速い。40ノット程度か。

 到達まであと10分ちょっと。こちらから仕掛けるにしても向かっていくのは自殺行為。

「ここまで匂うとマジで周りの差に気付かねえのな。クソウケる」

 私はそう言うなり、海面に向けてSFP9の銃口を向ける。ぎょっとする3人をよそに引き金を引くと、発射と同時に広がったワイヤーネットが海面に虚しく広がった。同時に、ネットに撒いてあった発光素材が淡く光を帯びると、ネットから逃れようとする影がみえた。板長が素早く投光器をそちらに向ける。私はネットを引上げ船内に投げ捨てると、海から飛び出した腕を蹴りつける。

「何故気付いた」

「『黒石』の野郎の手引きなんだろうが、匂わなさすぎるんだよお前。どうせ悪魔憑きとして見つからない努力をシコシコ細かく仕込んでたんだろうが、逆にぽっかりと空白が空いてちゃあな。普通の悪魔憑きなら不意打ちできてたモンを。お前、相馬一富そうまか ずとみだろ? この街で失踪した社員なことくらい調べがついてんだよ」

「そうか」

 ヴォジャノーイ、もとい相馬は正体を言い当てられても眉一つ動かさなかった。バレてることを知っていたのだろう。再び潜り、機をうかがう。狙いは水中から突進し、戦場のこちらを貫くことか。

 位置はバレバレだが、厄介だ。安心できる点としては、船を直接狙わない時点で、奴の強度は知れていること。背後に回った気配の空白も、こちらには見えている。

「芸が無ぇなあ、お前――」

「危ないっ!」

 振り向きざまに銃口を向けた私の体が、横合いから吹っ飛ばされた。麗の体当たりだ。互いにもつれて倒れた視界の端で、矢のように先鋭化した魚の影が飛んでいく。今撃てば、或いは網を抜けて左目を貫かれていたかもしれない……と、彼女は考えたのだろう。以前なら間違いなくそうなっていた。

『芸が無い? それはお前のその銃だろう。不可殺の捕縛弾頭、しかもお前の危険性を加味して銃の性能を限定した二連装拳銃。船上で右往左往するだけのザマで、俺が後れを取る訳がない』

「だってさ。今、実際に危ないところだったけど対策はあるの? 無い?」

「言ってくれちゃって、まァ……」

 黒石ヤツの入れ知恵なんだろうが、まあよく回る口である。半年も死体と仲良しこよしで河童ごっこしてたから人恋しいのか? 可愛い奴め。

『今のは脅しだ。船は沈められないが、お前達を仕留めるぐらいの魚ならいる。ここで死ぬか、逃げた先で丸呑みにされるかの違いだ……そら、もうおでましだぞ』

 言いたい放題、言ってくれるものだと思う。対処のしようはあるが、それ以上にハフグファの魚影が夜闇にあってはっきり見えた。相馬の高笑いがうざったい。板長と鱗音さんの身を顧みるなら逃げを打つか、二の手を打つか。ケルベロス達の抗議の声が聞こえるが構うものか。

「おじさん!」

「聞こえてるよ。とっとと片づける。祓魔三重解除『三位モード』――」

 思考の中に鍵束をイメージ。ケルベロスの個々の首にかかった鍵穴をこじ開ける……その思考の手が、一の鍵穴を前に止まった。

「グーーッド、イィーブニィーング、真琴ぉ!」

 なぜなら。

『ギギャッ』

 視界の端から割り込んできたのは夜の海に不釣り合いなプレジャーボート。聞き覚えのある、出来れば二度と聞きたくなかった声。そしてプレジャーボートのひき逃げを喰らった相馬の断末魔。……十中八九人の肉体には戻れなさそうだったので、死ぬのも本望だろうか。それはそれで最悪だ。

「ベッ、かっ、河浜さん!?」

「『なんでここに』は言わない約束だぜブラザー!「ブラザーじゃねえって」この俺が来たからにはもう安心だ! ヴォジャノーイとかいう不届き者はどこかな?」

「今! アンタが! ひき逃げしたよ! どうすんだよ相馬あのバカが操って動きが鈍い間に仕留めようと思ってたのに当の本人が意識失ったらハフグファが好き勝手暴れるじゃねえか!」

「……おっと? 俺、またやらかしたかい?」

「盛大にな!」

 だから彼には来てほしくなかった。

「おっとそこの別嬪さん達は新しいステディかい真琴?」

「アンタと一緒にすんなよ! 依頼人と親族に色目使われても困るんだよ!!」

 河浜駒四郎かわはま くしろう。大悪魔ベルフェゴールの悪魔憑きにして、生来のナンパ男。そしてナベリウスとも、ケルベロスとも性格的な相性が最悪なのが、ベルフェゴールなのである。

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