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世界の終わりは三度も来ない  作者: 矢坂楓
4話 波の向こうで

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32/57

4-(4)

「軟弱ねえ」

「強かになったのか軟弱になったのか、どちらとして評価したいんですか」

 アタシは流石にあれこれ漏らす訳にはいかないので言葉を濁したが、コルラード氏については本当だ。割と真面目に、あの一件について愚痴ってる姿を何度も見ている。

「でも、どちらでもないF市内を中心とした真琴さんの行動範囲内で、ご自身が出張るということは対憑魔機動班レギオンでは対処不能か処理上限より多い相手ですわね! それが『増えてる』って断言できる数を処理している時点で普通の執行官ならキャパシティ超えてますわ!」

「睡眠時間はケルベロスの思念体に持ち回りで体貸せば何とかなるだろうけど、そういう話じゃなさそうね。中級かそこらが相手になるとは思ってないけど、かと言ってサシで倒して回るのと多勢に無勢をひっくり返すのとじゃ別問題。……でもまあ、貴女も居るんだから探偵業をある程度割り振ってるなら負担も少ないのかしら」

 佳乃ちゃんの理解力と思考は、14歳の割に早い気がする。確かにレギオンは各県下に配備されており、大抵の下級悪魔は対処可能だが移動時間と件数がネックだ。一人一祓くらいならまだしも、下級であれ1対5での確保が基本なのだから人手が常に足りていない。

 それを補助するのがおじさんのような外部執行官なり、警察内部に抱えている執行官なワケだ。

「そうですね。悠さんが優秀なので、その辺りの負担も軽くなってます。アタシも探偵は慣れました。特にF市で不倫だの浮気だのスキャンダル起こそうとするのは、おじさんのことを知らない外様なんでザルなんですよ」

「言うわね貴女も。で、その悠って事務員は今回一緒じゃないの? 社員旅行みたいなものだと踏んでいたのだけど」

「それを言ったら、ジェルトルデさんと佳乃さんだけで旅行というのは……旦那様は心配じゃないのですか?」

「あの人は忙しいのよ、聖徒の協力者として自分の会社も支援の根回しもあるから」

「それを言ったら、悠さんも邦彦さんがいるから駄目だっておじさんが強く止めたんですよ。なまじ一度、大事件一歩手前の話の当事者になりましたから余計に」

「…………」

「…………」

 アタシとジェルトルデさんは、真っすぐ視線を交わした。

 F市の隣県とはいえ、こんなところで『偶然』行先がバッティングするなど考えられない。どころか、彼女達は本来、都内の人間なのだ。新幹線と在来線の乗り継ぎで来られるとはいえ、旦那を置いて長旅に出てまで居合わせるわけがない。

 つまりはこちらの動きがどこかから(多分カトリック周りから)筒抜けなのだろうと分かるが、こうしてカマをかけてくるのだから半信半疑で現れたのだと分かる。佳乃ちゃん、よくそんな出たとこ勝負についてきたな……。

「え……ええと! お母様は私が社会勉強がしたいということで、無理強いした結果付いてきてもらったんですわ! 一人旅はまだ危ないからと!」

「『社会勉強』?」

「ええ、ええ! 悪魔憑きであっても人ではなく、あるいはこの国の文化圏に染まった憑依体、いわゆる妖怪がここ二十年ちょっとで市民権を得たのでしょう? この街にも、『河童』が何体か生息していて、観光資源になっていると聞きますわ!」

 ジェルトルデさんが何も言わず頷いたあたり、そういう筋書きらしい。

 しかし、河童か。そういえば何回かテレビで特集されていたし、関連商品も売っていると聞く。彼らは憑依され、変質した蛙が知性を持ったものだそうだ。生殖能力と性欲を喪失した代わりに、河童特有の生態に変わった、という。

 だが、最近は諸事情により関連施設が休館だとか、売り上げが落ちただとか聞いている。おじさんがそんな地方の観光事情に口出しするか? と言われると疑問符がつくので理由は違いそうだ。

「嬢ちゃん、河童見に来たのかァ……あいつら、最近あちこちで悪さしてるってんでよ、街ン中も市議のセンセも対応であっちこっち駆けずり回っててなァ。対策課の連中が聞き込みしてたのも見たけど、あいつら河童を駆除すんのかーって聞いたらすげぇ渋い顔して『情報が少なすぎる』って言ってたからな」

 と、話が聞こえていたのか、海の家の主人が風船アイスを二つもってこちらにやってきた。頼んでないのだが、と目くばせすると「おごりだ」という。思うところがあるのだろうか。

「悪さ、ですの? 河童さん、どうやって会えますの?!」

「本当に悪さしてるってんなら、会ったら危ないかもな。どうしてもってんならホラ、それよ」

 「それ?」とアタシ達三人が視線を向けた先には、持ってこられた風船アイス……の、ラベルにはでかでかと「尻子玉アイス」と書かれていた。

「尻子玉を渡せ……ってコト?」

「『そういうフリ』が鉄板ネタだって知ってるんだよあいつらは。後ろ指差されてるなら飯にありつくのも一苦労だろうなあ……」

 アタシが聞き返すと、店主は頷きつつしみじみと語った。

 なるほど、と理解し、まさかな、と顔をしかめた。

 対策課、対策課って言ったか……?

 そう気付いた時には、すでに二人は代金を置いて立ち上がったところだった。

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