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世界の終わりは三度も来ない  作者: 矢坂楓
2話 慿魔症候群と偽薬効果のこと

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13/57

2-(2)

「そっか、『エクソシスト』の部分は偽薬(プラシーボ)なんだ。おじさん、ケルベロス飼ってる割に結構理性的だからそういう系の薬でもキメてるのかと」

「悪魔憑きの男全体に関わりそうなヘイトスピーチやめろ。成分表が公開されてたから調べたけど鎮静作用とかそっち系は揃えてたから厳密には偽薬と言い切れないけど、それでも『新しい』憑魔症候群にしか効かんから意味がない。もともとの意味のごく少数なんて、放って置いても犯罪者になってただろうから刑期が普通の悪魔憑きより長いんだよ」

「……じゃあ、()()()()()()()()()()一般的な悪魔憑きの男の人って色々大丈夫なの?」

 いきなり食いついてくるな、今日の麗は。10年も世話してれば色々あるだろうが、変なものでも食ったか? それともあの薬の関係者でもいるのか?

「他の執行官殿がどうかは知らないが、特憑魔体でもない限り、というかそうであっても、憑依先の行動をいちいち覚えてたり茶化せる知能がある悪魔の方が少ないんだよ。悪魔は人間を誑かす以上はその営みに詳しいだろうけど、不便さが勝るなら手間と時間はかかるが『解呪』は無料だしそっちの方が行政は楽だからな。お前がご両親に送り出される前、地元で説明はあっただろ」

「下級なら祓魔銃弾とかの措置、中級以上はおじさんとかの執行官? がやるっていうアレ? アタシには関係ないけど」

「いや、関係大アリだろうが。誰が監督責任者で手近な執行官だと思ってんだ」

「それで話を戻すけどさ」

「戻すなよ」

 多分この娘のことだ、忘れていたということは無いだろう。大学の専攻を考えても。麗がいるのは助かるし、待遇はだいぶ優遇できるが彼女自身の将来の為にはならないだろう。ご両親とも関係は良好なら、本当は一刻でも早くグリマルキンを送還したほうが幸せな生活を送れるのだから。強く言えないのは、お互いに負い目があるからだ。

『相棒がアレのこと隠してるから疑ってんじゃねえかな』

『……一番気にしてること突くんじゃねえよ』

 こういう時、(ヒト)は鋭いから頭が痛い。主人格がお前でさえなければアウトオブエデンに出入りする必要は……私とは関係ないところであるんだけど……。

「『飲むエクソシスト』を飲んで救われる人がいるのは分かった。表現が薬機法スレスレなのも分かった。じゃあ、『悪魔症候群で不安なアナタへ!』ネット広告ってどうなの? アレは呼びかけてるだけで薬効示してないからセーフ? なんか、袴田さんがそれ絡みで厄介なことになってるから出頭しろって」

 ちょっと待て。

 何であの薬の話からそっちに飛んだ? 寧ろ対策課で話に挙がるような面倒事があったのか? それ以前に。

「いつ連絡が来た?」

「昨日開所時間すぐに」

「何で言わなかった?」

「おじさん、遅くまで仕事した日は決まって()()して次の日午後まで外回りっていって事務所に来ないからって説明したら『思い出し次第、日が昇ってるうちに来い』って伝言が」

「なんでそんなに詳しいんだよ、俺のスケジュールに」

「袴田さんから直接聞いた」

 そっかー、袴田さんってば麗にそれ伝えちゃったのかー。

 いやそういうこともあるって話を通さなかった私の落ち度かー。それ以前に今『深酒』に凄い含みがあった気がするけどなんだろうなあ、どういう意図があるんだろうなあ。

『情報共有しない相棒が悪いよ相棒が』

『腹立つなお前!』

 表情が表に出ていたら、福笑いになりそうなくらい今の私の情緒はグチャグチャだった。そういえば、感情の起伏だけは22年経っても昔と変わっていない気はしていたが……。


 5/2 午前9:00 F県警中央警察署 祓魔対策課


「袴田課長ォ!」

「凄い形相だな織絵君。そんなに感情豊かな姿は高2の時に受験勉強を早々に始めてA判定貰った直後に進学がパアになった時を思い出すね。()()()()ではなさそうだ」

「その時は、大変、お世話になりました」

 時間きっかりに受付をスルーして猛然とカチ込んだ私の姿に、袴田課長は心から愉快だと言いたげな顔で手を振った。DPⅠ終結からかなり経つが耳元まででそろえた髪は白いものが増えたが乱れはなく、皺は増えても人の好さと善人としての仮面は垂れ下がらなかったらしく、癇癪を起こした子を見るような視線は変わらない。

 というか言われてみればそんなこともあったと思い出す。そのせいで数年後に探偵事務所の立て直しが迫られ、経理担当は先代失踪にあわせて辞め、いきなり麗が転がってきてワンオペで保護者と探偵事務所の経営を迫られたのだった。そりゃキレて当然だし、今日だってそうだ。

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