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第7話「帝国闘技大会・出場」

 控室を出る。




 練兵場に足を踏み出す。ものすごい歓声が沸き起こった。闘技場は歓声と熱気のるつぼと化しているのだった。しかし、それらはケネスに送られる声援ではない。




 ケネスの対戦相手――なんという巡り合い! 相手は、ついさきほど帝都の外で言葉を交わした相手、ベルモンド・ゴーランであった。




「よぉ。コゾウ、また会ったな。まさか闘技大会にエントリーしてるとはな」




 帝国12騎士の1人。

 双剣のゴーラン。




 この人物と対峙しているだけでも、自分の卑小さを思い知らされる。観衆とは別に熱気のようなものを当てられる。それは、ゴーランから発せられている闘志に違いなかった。場違いな感におそわれて、逃げ出したくなった。




「ま、トーナメントのマッチ相手はランダムだからな。恨みっこなしだ。しかし、闘技大会に参加した熱意だけは認めてやるよ」




「はい」

 もはや、はい、としか言えない。




 対戦相手は強大だし、こんな大衆の前に出るのもはじめてだった。緊張が唇すら動かせない。




 審判をしていた騎士が、ピー、と開戦の笛を鳴らした。




 ゴーランは、さっそく得意の双剣を取りだした。両方ともグラディウスと言われる比較的に小さい剣だ。




 小さいといっても60センチほどはある。デラル帝国にとどまらず、ベルジュラック全体に広く流通しているものだ。しかし、問題なのはそれが刺突武器だということだ。鎧の隙間なんかを狙って刺しこむのに特化している。




 つまり、確実にどこか深いケガをする。




「ゆくぞ。コゾウ!」

 ゴーランは疾駆した。




 ゴーランは布の鎧(クロスアーマー)を身にまとっていた。重装備でないのは機動性を重視しているためだろう。その分、速い。それこそまさに刺突する一本の剣のように駆けてくる。




 刺突と速度。




 その2つこそが、ゴーランを帝国12騎士の地位まで押し上げた要素だった。どれだけ重装備でも、鎧には必ず隙間がある。



 

 ゴーランは俊足で近づき、その間隙を確実に突く。騎士というよりも、あるいはその剣技は暗殺者とも言えた。少なくとも1対1の接近戦では、ゴーランの右に出るものは数少ないだろう。



 ケネスは、唖然とそれを見つめていた。

 あまりの速度に、見惚れていたのだ。




「こらッ。ボーッとするな。貴様は受けることが出来んであろうがッ」

 ヴィルザの声を受けて、ケネスはハッと我にかえった。




 そうだ。




 ケネスに受けはない。

 魔神に任せていれば何とかなるだろうと思っていた。なので、これといった装備はしていない。魔術師は魔法によって皮膚を硬化させたりするが、そういった魔法武装もしていない。




 オマケの武器は、雑草を摘み取ったりするために使っていた、ナイフ一本だ。じゃっかん錆びている。




「ど、どうすれば……」

「魔法陣だ!」




「わかった」

 すぐさま魔法陣を展開した。




「クソッ。攻撃魔法は間に合わん。防御魔法を展開するぞ」




 ゴーランはすでに、ケネスの眼前にまで迫っていた。おそるべき殺気をふくんだ目を、ケネスに投げかけてくる。それだけで失禁しそうになった。




 そして――。

 ガッ。

 グラディウスによる刺突が、ケネスの右肩に刺しこまれた。




「うわぁぁッ」

 ケネスは弾き飛ばされた。




 10メートルは吹っ飛んだ。お尻からみっともなく着地する。着地の衝撃が尻から、脳天にしびれあがってくる。




「くぅぅ。痛ててて」

「ふぅ。間に合った」

 と、ヴィルザは安堵の息を落とした。




「何をしたんだ?」

「土系上位魔法である、《鉄の皮膚(アイアン・スキン)》を使った」




 魔法というのは基礎魔法が「火、土、水、風」の4種だ。その上位魔法が「酸、鉄、氷、葉」となる。さらにその最上位魔法が「熱、硬、凍、斬」の4種になる。




 上位魔法までは自然界に存在する物質を召喚する魔法となる。たとえば、火球の魔法であれば、炎の球を出現させる。相手を溺れさせようとするなら水を出現させる。




 最上位魔法となると様子が変わる。魔法というチカラによって直接その現象を起こすのだ。物を熱しようと思えば、炎を出現させなければならない。しかし、最上位魔法は物を熱しようとすれば、火を起こすことなく直接、沸騰させることが出来る。




 簡単に言えば、最上位魔法ともなると何でもあり――ということだ。組み合わせ次第でも、自在に魔法を発現できる。魔神が最初に見せたように、大地をめくり、マグマを吹きださせるようなことも可能となる。もちろん、それは個人の魔力の量にもよる。しかしながら、だいたいの魔術師は基礎魔法の習得までだ。




 で――。

 今使用されたのは、土系上位魔法だ。

 鉄魔法ということになる。




鉄の皮膚(アイアン・スキン)




 おそらくゴーランが刺突したケネスの皮膚を、鉄にしたのだろう。その結果、刺されることはなく、吹き飛ばされることになったのだ。

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