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第4話「なぜ、見える?」

少女は頬に笑みをたたえて戻ってきた。



「な。言ったであろうが、私は8大神によって存在を消されたのだ。本来であれば、誰も私の存在を感知できるはずはないのだ」




「じゃあ、なんでオレには見えるんだ?」




 目をコスるが、可憐な少女は間違いなく目の前に存在している。




「貴様が、私を関知する特殊なスキルでも持っているのではないか?」




「あぁ!」

 思い当った。




《可視化》




「やはりそういうスキルを持っているのだな」

「でも、今は発動してないんだけど」




 発動していたら、服が透けて見えるはずだ。




「スキルは体質のようなもの。微弱にも発動しておるものだ」




 見えている、ということは少女の言う通りなのだろう。




「おかげで助かった。数千年も誰とも話していなかったら、寂しくて死んでしまうかと思ったぞ」




「じゃあ、ホントウに魔神ヴィルザハードなのか?」




 それなら大変なことだ。




 神話の中では、世界を恐怖に陥れた存在なのだ。世の中にはときおり、魔王、と言われる人物が登場する。武術なり魔術なりをきわめて、悪事をなす者に冠される。しかし、魔王はあくまで人である。魔神となると、その上ということだ。




 神であるなら、数千年という時がカラダを老化させていないもの納得がいく。




「ホントウだと言っておるであろうが。ヴィルザと呼んでくれれば良い。貴様はゆいいつ私を認識できる、特別な人間であるからな。呼び捨てにすることを許す」




 魔神というのが、不穏な存在であることはケネスにもわかる。

 しかし、恐怖の実感はなかった。




 神話の魔神と同一人物だと言われても、その魔神の悪事を見たわけではない。あくまで文献の中で知っているだけだ。なにより、見た目がこんなにも可憐な少女であるなら、怖れる必要はなかった。ただ、何か大変なことをしているような感覚だけはあった。




「オレはケネス・カートルドだ。よろしく」



「ケネスか。この私を、数千年の孤独から救った男の名前だ。しかとこの胸に刻んでおこう」




「魔神って名乗るからには、ヤッパリ強いのか?」




「強かったと言うべきだな。8大神が手を組んでようやく、この私を封じ込めたぐらいだからな。しかし今は、強いと言えるかはわからん」




「弱くなったとか?」




 見た目がか弱い美少女だからといって、侮ることはない。魔術師なら、筋力をきたえていない者も多い。




「いやいや。チカラは健在であるが、私は存在を認識されていないからな。どんなチカラを行使しても、この世界に干渉することが出来んのだ」




 ヴィルザはそう言うと、指をパチンと鳴らす。




 ヴィルザの足元に、魔法陣が描かれる。魔法の発動には必ず、魔法陣を使う必要があった。これはどれだけ優秀な魔術師であっても同じことだ。魔法陣はどんどん広がっていった。




「お、おい。何をするつもりだ」

「まぁ、見ておくと良い」




 ヴィルザがふたたび指をパチンと鳴らす。すると、大地がめくれあがった。まるで大地が生き物となって上体を起こしたかのようだった。そして、めくれあがった大地からはマグマが噴出した。




「……ッ」

 絶句である。




 ケネスは悲鳴すら出なかった。あまりにトッピョウシもない惨劇に、腰をヌかしていた。しかし、しばらくすると、噴出していたはずのマグマは収まっていた。めくれあがった大地ももとに戻っている。




 街道の行列も、何事もなく歓談にふけっている。




「え……幻覚?」




 魔術師のなかには、幻覚系の魔法を使う者もいると聞いたことがある。




「幻覚ではない。私は実際に今、魔法を行使した。しかし、見てわかる通り、私の魔法はこの世界にイッサイ関与できない」




「なるほど……」




 ヴィルザが街道に跳びだしても誰も気づかない。実際に、接触しようにも実体がないかのように透き通ってしまう。存在していないのと同義なのだ。魔法を使った場合も、それは誰にも効果をなさないのだろう。




「これも8大神の、呪いのせいだ。マッタク忌々しい神々どもである」




 今のチカラを見せつけられると、さすがに魔神だと信用できた。こんなに怖ろしい存在は封印されてしかるべきだろう。




「そうか。すごいんだな」

「魔神であるからな」




「じゃあオレは、ポポコを摘み終ったし、帝都に戻るよ。じゃあな」




 怖ろしい存在だったが、誰にもチカラを行使できないのであれば、放置しておいても問題はないだろう。関わり合いにならないほうが良さそうだし、見なかったことにしようと思った。

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