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第2話「魔神ヴィルザハード」

 街道から距離を取る。丘陵をしばらく歩く。




 冒険者組合への帰路……。




 白い花を咲かせた植物が、群生している場所がある。ポポコという花だ。これが薬草になる。どこにでも生えているものだから、安価で流通している。そのポポコの花畑の中に、たたずむ少女がいた。




 紅色のロングヘアだった。その目に宿る虹彩もまた紅色だ。鼻はそれほど高くなく、唇は桜色だった。あどけなさが目立つ。しかし、その稚拙な面のなかには、不思議な色気もあった。大人の女性のような憂いが感じられた。黒く縁取られた目元のせいで、そう見えるのかもしれない。




 白いポポコの群生は、紅色の少女の存在をよりいっそう際立たせていた。目立つ。しかし何よりも目立つのは、二つの角だった。少女の紅色の髪からは、獰猛そうな角が生えているのだった。




(モンスターか?)




 それにしては、あまりにも美しい。




 髪や目が紅色だからか、みずからの存在を美しく誇示しようとするような、チカラヅヨイ魅力を感じた。頭の角も可憐な少女には不釣り合いだが、その少女を引き立たせるための道具にも感ぜられた。




 頭の角を除けば、風体は人間の少女だ。着ているものも、人間の愛用しているブリオーと言われる衣装だった。




 しばし、見惚れた。



 心地よい風が吹いて少女の紅色の髪が、舞い上がった。まるで吹き荒れる炎のようだった。




「あ、あの――」

 迷子の少女かもしれない。

 警戒心を保ちつつ、そう声をかけてみた。




 声をかけられても、少女はしばらく呆然をたたずんでいた。




「もしもーし」

 もう一度そう声をかける。




 少女の紅の双眸(ひとみ)がしばらく、ケネスをとらえていた。そしてハッとしたように、目が大きく見開かれた。




「わ、私が見えている?」

「え?」




 少女は立ち上がる。




 立ち上がったことで、少女の身長がわかった。ケネスの胸元あたりまでしかない。よろよろと操られたかのように、近寄ってくる。




「おい。貴様。私の姿が見えているのかッ」

 声音は、うららかな風に乗る花弁のようだ。それに反して言葉づかいは、苛烈だった。




「見えてるって、何が」




「見えているだけじゃないな。私の存在を認識しているのだな」




「う、うん」

 見ているか否かと言えば、見えている。




「やった。やったぞッ。私のことを認識できる存在がいるとは、なんという幸運か!」




 抱きついてきた。

 少女のカラダ。

 小さくて、温かくて、やわらかい。




 日だまりを抱いている気分だ。女性のカラダがこんなにもやわらかいなんて、はじめて知った。




 ケネスは、少女に押し倒されるカッコウになった。




「なんだ? いったい何なんだ?」




「はじめまして。私の名前はヴィルザハード。かつてこの世界を支配していた魔神である」




「は、はぁッ?」

 ケネスの心に落ちてきた感情は、驚嘆である。

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