無表情な倉敷さんと笑わせたい雛時君
可愛いの定義とは何だろう。容姿、性格、仕草、声、色々意見はあると思う。
だが、俺は圧倒的に「ギャップ萌え」を推している。
詳しく話そう。
先ず、俺は元々ギャップ萌えが大好きなわけではなく(好きじゃないとは行ってない)、可愛さとは顔が全てだとおもっていた。そ
れは、恐らく小さい頃から漫画やアニメ等の二次元の産物に多く触れてきたことが大半の原因だろう。
しかし、ある日、俺のそんな信念を覆すような衝撃的な体験に遭遇した。
それは、今から2年前。
俺が中学二年生のときのことだ。
当時根っからのお調子者だった俺は、クラスの皆の前でおどけて笑いをとるようなヤツだった。
当時の流行に乗っかり、人気の芸人のネタを真似たりしていたが、結構ウケは良かったと自負している。
そんな俺にも、唯一笑わせられない相手がいた。それが、倉敷天城だ。
彼女は、俺が何を言っても「そう」とか、「うん」とかしか返してくれなかったのだが、あるとき、何の時だったかは忘れてしまったのだが、俺の言ったことに対して、「・・・フフッ」と、控えめに笑ってくれたことがあった。
今でも覚えている。あの、いつも無表情な彼女が笑ったときの仕草、目の形、笑ったときに髪と一緒にかすかに揺れた茜色の綺麗な髪留め。その他の一切の印象を限りなく薄いものにする、強烈な、神々しささえ感じさせる可愛らしさに、俺は恋をした。
それからというもの、俺はあの手この手を使ってどうにか再び笑わせようとしたが、結局全て空振りに終わった。
「・・・はあ、やっぱりそう上手く行かないか」
「・・・何の話?」
「いや、中々上手く笑わせられないなーと思って・・・。頑張ってるつもりなんだけどなーって、!?!?」
この日もまた笑わせることに失敗し、意気消沈のまま靴箱で反省していた。ので、背後に近づいていた倉敷さんの気配に気付くことができず、独り言を聞かれてしまった。
「ふーん、いつも、私にちょっかい掛けてくるなーと思ってたけど、そんな理由だったんだ」
「い、いや、違くて!今のはついうっかり口にしただけというか、聞かせるつもりはなかったと言うか。・・・・・・聞かなかったことにしてくれない?」
「・・・?。・・・・・・フフッ」
とっさに出たその場しのぎの言葉。しかし案外それがツボに入ったようで、一瞬キョトンとしたあとにクスクスと声を漏らして笑ってくれた。思いがけない出来事に俺の頭は混乱して、つい
「・・・やっぱり、可愛いな」
と、思ったことをそのまま口に出してしまった。当然、真正面にいる倉敷さんには聞こえてしまっているわけで。
ヤバ、と思ったのもつかの間、倉敷さんは割と長い時間フリーズした後、ものすごい速度で顔を朱に染めて帰ってしまった。
「・・・何あれ、可愛い」
これが、雛時朝日が笑わせるよりも簡単にギャップ萌えを体感できる手段を知った瞬間だ。
これ以降、朝日のアプローチが一層大胆になったのは言うまでもない。