貴族たちの饗宴
今回は、異種たちの夜会でのワンシーンの短い御話です☆
ショートストーリーですが、異種の立場などが伝わったら幸いです☆
赤の兄妹が全ての同族と顔合わせをしたのは、秋口のサロンだった。
年を追う毎に数を増す貴族たちの催しに、異種たちはそれぞれ分散して出る様にしていた。
異種のゲストとして赴くのは、基本的に南部の貴婦人たちの役目であった。
其の他では、白銀の貴公子と白の貴公子が主に出席していたのだが、
今回のサロンは遊戯と云っても白銀の貴公子の叔母系列のシャルロットの主催で在り、異種は皆、
出席する事になっていた。
白銀の貴公子の叔母と云えば、世に異種の名を広げる為の発信を遣ってのけた人物で在り、
もう他界したものの、今は其の叔母の孫系列の娘が生前の叔母と変わらぬ性格の持ち主で在り、
亡き叔母同様、異種による大陸改革を進めていた。
其の為、異種たちは昔からシャルロットのする事には黙認していた。
孫系列の娘と云っても、既に六十歳を回る大層大柄な伯爵夫人で在るのだが。
サロンには遠方から遊びに来た貴族、又、其の親戚たちが集まっていた。
伯爵夫人が会場の舞台へ出て来ると挨拶を始める。
貴族の男たちは主催者には目もくれず、異種たちを傍観していた。
「あれが新しく入った異種か。でかいな」
燃える様な赤い髪の異種を見遣る。
当然、赤の貴公子である。
「此の目で異種を見るのは初めてたが・・・・凄い色だな」
遠方から来たハプスブルク家の三男は、異種の紳士たちを見て鼻で笑った。
「あの小柄の・・・・緑の奴、凄い目立つな」
黒い軍服を着た翡翠の貴公子は、金髪や白髪の異種より、
ずっと目を引く翡翠の髪だった。
いや、目立つのは其の髪のせいだけだろうか・・・・??
「男のくせに、やたら綺麗な顔だ・・・・」
三男が呟くと、従兄弟の大柄な少年が言った。
「異種ってのは、どいつも綺麗なんだとさ。見ろよ。異種の女は美女揃いだ」
既に何度も異種を見た事が在るのだろう、従兄弟の少年は顎で異種の女たちを示す。
だが三男は何処か抑揚の無い声で答える。
「まぁ・・・・其処らの女よりは、イイ女だな」
皆それぞれタイプは違うが、己々の美しさを秘めている。
まぁ、見ていて、なかなかに面白い。
「あの赤毛の女が新しく入った異種だ」
三男は赤の貴婦人を見ると、詰まらなそうな顔をした。
「好みじゃないな・・・・と云うか、あれ、子供だろ」
あんなガキっぽい女よりは、まだ蒼花の貴婦人の方がマシだと、三男は思う。
すると。
「いや・・・・小耳に挟んだ話では、あれで大人だそうだぜ」
「はは、まさか。御前、本当に異種が年をとらないとでも思っているのか??」
三男は笑ったが、従兄弟の少年は真面目に言った。
「いや・・・・信じ難いが、どうやら本当らしいぞ。
親父の話だと、奴等、本当に外見が変わらないらしい」
「・・・・・」
遠方から来た三男は信じられないと云う表情を浮かべる。
徐々に異種の存在が広まる昨今、風変わりな存在が居る事は知っていたが、
まさか本当に自分たち人間と違う生き物だとは、どうにも信じ難い事実であった。
「へぇ・・・・面白いな」
三男は異種たちを珍獣でも見る様な眼差しで見ると、
「何とかして異種を娶りたいと思ってる奴が、此の会場にも一杯居るんだろうな」
可笑しそうに咽喉を鳴らす。
すると三男の友人の眼鏡を掛けた少年が横から口を出してきた。
「異種の女と云うのは子供が産めないんだよ。だから結婚と云う概念も異種たちには無いんだって」
うんちくする友人に、大柄な少年は軽く口笛を吹く。
「それは是非、愛人に欲しいな」
「だよね」
大柄な少年と眼鏡の少年は意気投合した様に異種の女たちを眺め乍ら物色する。
三男も一緒に会話はしていたものの、何処か上の空だったが、友人たちは気付かない。
主催者の挨拶が終わると、会場が麻の様に蠢き始めた。
すると。
三人の直ぐ横を、翡翠の髪の異種が通り過ぎて行く。
其の後を若い娘たちが追い駆けて行く。
其れを三男は呆然と見た。
初めて、こんなに近くで異種を見た。
なんて人間離れした・・・・美しさだ。
いや・・・・違う・・・・そうではなく・・・・。
だが其処で、三男の思考は遮られた。
「おい、何処が小柄なんだよ?? 背、高いじゃないか」
従兄弟の少年が意外な声を上げる。
我に返る三男。
発言の主が自分で在った事など忘れて、三男は翡翠の貴公子を振り返った。
通り過ぎた翡翠の貴公子は、自分と、さして変わらぬ背丈で在った。
おそらく180センチは在るだろう。
小柄に見えたのは細いからか??
ならば翡翠の貴公子より更に背の高い、あの異種の男たちの背丈は何センチなのだ??
少年たちは、もう一度、他の異種の男たちを見回した。
「周りの奴等が・・・・高過ぎたのか」
異種の男たちが並んでいる中では、翡翠の貴公子が一番小柄であった。
だが・・・・通り過ぎた翡翠の貴公子は、自分たちが想像してした身長ではなかった。
「異種ってのは・・・・背が高いものなのか?? 狡いな」
「御前だって十分高いだろ」
「まぁな。俺は異種を追い抜いてみせる」
「其れは無理なんじゃないかな」
一方、サロンが深まると、若い娘たちもそれぞれ会話を楽しんでいた。
異種の紳士には若い娘から中高年の婦人までもが常に群がっている為、当然、
近付くに及ばない娘たちも沢山居るのである。
しかもサロン中盤に差し掛かると、
漆黒の貴公子や翡翠の貴公子は直ぐ会場を出てしまう為、
はみ出した女たちの数は一層増えると云うものであった。
若い娘たちはそれぞれ集まると、ヒソヒソと異種の話を始める。
「あれが新しく入った女ですって。ほら、あの赤毛の女」
「ま!! 小娘じゃない」
美しい異種の紳士たちはともかく、気位の高い貴族の娘たちにとって、
美しい異種の女は目障りな存在であった。
「私、知ってるわ。あれも何処から来たか判らない様な流れ者なのよ」
「まぁ・・・・嫌だわ」
「さぞ卑しい生活をしてきたに違いないわね。
なのに異種だからって・・・・のこのことこんな処にまで出て来て、ずうずうしい」
酒が入っている為か、若い娘たちは更に大声で話し始める。
「でも大陸の半分以上の人々は、貧しい生活をしていると云うわ。
そう云う人たち程、憐れむべきよ」
「そうね。そう云った子供は物乞いだけじゃなくて・・・・ほら。
ああ云った身売りの様な事もしてるんだって聞いたわ」
「憐れむべきよね。
わたくしが伯爵夫人になったら、まず、そう云った子たちの支援を考えるべきだと思うの」
「ええ。そうよね」
可哀相・・・・。
可哀相・・・・。
若い貴婦人たちの其の言葉を、赤の貴婦人は聞いていた。
赤の貴婦人は赤い瞳を燃え上がらせると、群がる娘たちの下へ行こうとした。
だが。
其の肩を誰かに掴まれた。
赤の貴婦人が振り返ると、自分を引き止めたのは夏風の貴婦人だった。
「怒りたい気持ちは判る」
でも堪えなさい。
夏風の貴婦人の真っ直ぐな瞳に見下ろされて、赤の貴婦人は歯軋りする。
そんな赤の貴婦人を宥める様に夏風の貴婦人は言う。
「ああ云う人種なの。其の場の言葉だけじゃ通じない。
それでも私たちは、彼等と上手く遣ってかなきゃならないの」
私もムカつくけどね。
優しく笑う橙の瞳は、だが「サロンで揉め事を起こすな」と厳しく言っていた。
赤の貴婦人は小さく頷いた。
此れが・・・・異種たちの選んだ「共存」なのだ。
堪えなくては・・・・此れしきの事。
異種を含めた夜の饗宴は、こうして暮れていくのだった。
ここまで読んで下さり、有り難うございます☆
これで少し、異種の立ち位置などが伝わったのならいいのですが。
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