2-2 探知士というジョブ
「これを見てください」
慌てたような手つきで、女の子がパソコンのモニターを俺に向けてきた。食い入るように覗き込む中道を押し退け、画面に映し出された内容を目で追いかけた。
「貴方の能力値をランク付けした一覧です」
画面には、俺に関するあらゆる能力値が一覧表として映し出されていた。どれも、EかDでしかなかったが、危機回避能力だけがSSRとなっていた。
「ランクはAが一番高くてEが一番低くなります。さらに、特殊能力と言えるまで極めたら、S、SS、SSR、SSSとなっていくんです。これを見る限り、貴方の危機回避能力はかなりレアな能力ということになります」
興奮気味に語る女の子とは裏腹に、俺には危機回避能力のレア度合いがいまいち実感できなかった。
「貴方には、超絶ハイパーウルトラレアジョブである探知士になる適性がありますよ」
「探知士?」
超絶なんとかは置いておいて、聞きなれないジョブに首を傾げてみせた。
「昔、この世界が一度魔物の支配下になりかけたことがあったそうです。多くの勇者パーティーが何度も魔王討伐に向かっても駄目だったそうで、そんな危機的状況を救ったのが、探知士といわれているんです」
「え? そんなにすごいの?」
「SSでも滅多にいないのに、SSRなんてまず見ることはありません。魔王討伐以降は適性者が現れなくて、もはや伝説となっているジョブなんですよ!」
女の子の興奮がヒートアップしたところで、ようやく凄いジョブだという実感が沸いてきた。
確かに、危機回避については自信があった。孤児になり、養護施設では毎日がいじめと暴力を回避する日々だった。働き始めてからも、常にクレームとパワハラに耐える日々の中で、いかに被害を最小限にするかばかりを考えていた。
いじめや暴力を避けたり、あらゆる被害を最小限にするたった一つの方法は、予見することだ。物事を見極め、どうふるまえば難を逃れられるかを予見することが大切だった。
「確かに佐山は勘が鋭いからな。危険予知に関しては、ズバ抜けていたもんな」
中道が、俺の顔をまじまじと見つめながらしみじみと呟いた。どうやら無意味に生きてきた俺の人生にも、一つくらいは意味があったようだ。
「こいつが探知士になったら、派遣部隊の一員になれる?」
「適性は問題ないですから、後は実績があれば間違いなくスカウトがくると思いますよ」
「やったな、佐山」
中道が嬉しそうに俺の肩を叩いてきた。派遣部隊は美味しい仕事であるうえに、未知の冒険度も高い。ゲームはやり込む派の中道にしたら、願ってもない話だろう。
「お前の借金も返せそうだな」
中道に笑いながら答えつつ、ジョブチェンジの手続きにはいる。ジョブチェンジは、ドッペルゲンガーの能力を解放し、ランクに見合ったスキルを付与することで完了だった。
手を置いていた球体物が熱くなり、全身を得体のしれない熱エネルギーが巡っていく感じがした。
やがて、球体物の発光が消えると同時に、コントローラーから電子音が鳴り響いた。
「ジョブチェンジ完了です。スキルを確認してください」
言われるままメニュー画面を開くと、新たにスキルの項目が追加されていた。
「SSRのスキルは、予見可能な事象だけでなく、予見不可能な事象も探知して危機回避できるとなってます。さらに、トラップの探知だけでなくその危機を回避する方法の探知もできますから、冒険でも戦闘でも役に立つこと間違いなしです」
説明を聞きながら、スキルの項目をチェックする。SSRのスキル名は『予見』となっている。他にも『探知』や『回避発見』等があり、危機回避に関しては万能といって問題なさそうだ。
「このはてなマークは何?」
スキル項目の一ヶ所だけがはてなマークとなっていて、いくら触れても反応がなかった。
「それはSSSランクのスキルです。中身は私も見たことがないのでわかりませんが、魔王討伐のキーとなったスキルってだけは聞いてます」
今のスキルでも十分なのに、さらに上をいくスキルにちょっと興味が沸きつつも、とりあえず派遣部隊に入る為のクエストを選ぶことにした。
「探知士クラスになると様々なクエストがありますが、派遣部隊に入るとなると相応のクエストをこなした方がいいでしょう」
女の子がプリントアウトした紙をカウンターに置き、クエストの内容を説明し始めた。
「冒険系では、魔族の森の制圧、ドラゴン退治の後方支援、深海の王の討伐なんかがレベルが高いと思います。生産系では、不死鳥の育成、万能野菜の栽培なんかは成功すれば確実に派遣部隊入りできると思います」
「野菜の栽培に探知士が必要なの?」
「はい、この世界の気候変動はまだよくわかっていません。害虫の発生についても、気づいたら作物が全滅していたなんてざらなんです。そうした栽培に関する危機に対応する能力は、とても重宝されているんですよ」
探知士のスキルは、いわば未来予知に近い能力だ。ランクが上がるほど、未知の脅威を回避する能力が上がっていく。こうした能力は、必ずしも戦闘だけに需要があるわけではなさそうだ。
「とりあえず、今日は資料だけ持って帰るよ。決まったら、また来るから」
クエスト選びは、中道と話し合って決めたほうがよさそうだった。とりあえず今日は資料を持ち帰り、今後の方針を中道と決めることにしてパラレルステーションを後にした。




