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5-4 覚醒

 誰かが、俺の名前を叫びながら激しく体を揺さぶっていた。鉛のように重くなった頭に響くその声に、ようやく意識を取り戻した俺は、目を開けた先に鼻水垂らして泣いている中道を見つけた。


「佐山、目覚めたのか?」


 目を開けた俺に気づいた中道が、涙を拭いながら声をかけてくる。俺は体を起こして周囲に目を向けた後、再び中道と向かい合った。


「佐山、気分はどうだ? ここがどこかわかるか?」

「気分は悪くないかな。ここがどこかもわかるし、鎧が恐ろしく似合わない奴がいることもわかっている」


 完全に目が覚めた俺は、問題ないことを伝える為にジョークを口にする。中道が「うるせぇよ」と呟いたのを聞いて、痛む背中をさすりながら笑ってみせた。


 周囲の状況から判断して、俺は竜から落ちたようだ。中道に詳しく話を聞くと、どうやら中道が助けてくれたおかげで地面への激突は避けられたようだった。


「それより中道、戦闘はどうなっている?」

「相変わらずだ。背後を守っている兵団と竜騎士たちも、なんとか持ちこたえている」


 中道が指さした空に、無数のドラゴンと奮闘する竜騎士たちと飛空挺が見えた。


「中道、とりあえず戻ろう」


 ドラゴンに体当たりした時の衝撃で痛む体に鞭を打ちながら、俺はなんとか立ち上がった。


「佐山、ちょっと待て」


 よろよろと歩きだした俺の手を、中道がいきなり掴んできた。何事かと確認しようとした瞬間、俺の左手首につけているコントローラーが光を放っていた。


「佐山、確認してみろよ」


 中道に促され、恐る恐る機械に触れてメニュー画面を開いてみる。ジョブの欄が赤く点滅しており、触れると『ランクアップ』の文字が浮かんできた。


「佐山、これってSSSに覚醒したってことか?」


 興奮気味に語る中道に急かされながらスキルのランクを確認してみると、スキルのランクは確かにSSSとなっていた。


「やったな、佐山。ついに覚醒したってことか。で、SSSのスキルはなんだ?」

「中道、多分これ、ヤバい奴だぞ」


 新たに表示されたスキルを確認して、俺も興奮を抑えきれなかった。表示されたスキルの名前は『絶対無効化』で、効果は文字通りふりかかる危機を全て無効化できるというものだった。


「マジか。これがあれば、竜王の衝撃波も怖くないってことか?」

「多分、そうなるなと思う。となれば、すぐにみんなの所に行こう」


 新たに手にしたスキルに喜びつつ、俺はなんだか胸のモヤモヤが晴れたような気がしていた。長い間鬱積していた感情が、夢の中で自分と対峙したことで晴れたのかもしれない。


 となれば、きっかけを作ってくれたのは中道のおかげだ。あのまま母親に手を引かれていったら、俺は死んでいたかもしれない。それを助けてくれたのは、中道のおかげとしか言えなかった。


「中道、感謝してるよ」

「は? いきなりなんだよ。課金の相談なら後にしてくれ」


 急に改まった俺に、中道が怪訝な顔を向けてくる。相変わらずなノリの中道の肩を叩きながら、再び竜に乗ろうとした時だった。


「これは無理だな」


 俺が乗っていた竜はドラゴンと衝突した際に怪我したようで、今は飛ぶことができないでいた。しかも、中道が乗っていた竜も既に疲労が激しく、二人を乗せて飛ぶのは絶望的だった。


「仕方ない、奥の手を使うか」

「奥の手?」


 今から代わりの竜を見つけることは不可能だろう。そう落胆していた俺に、中道が親指でキャンピングカーを示しながら笑みを浮かべた。


「言っただろ。俺のベースは、短い時間だが空も飛べると。ファイヤーバード仕様を見せてやるよ」


 自信ありげに語る中道と共にキャンピングカーに乗り込むと、俺はすぐに絶対無効化のスキルを発動させた。


「マジかよ! これってマ○オのスター状態じゃないか!」


 勢いよく浮上したキャンピングカーに、当然のようにドラゴンが襲いかかってくる。だが、ドラゴンがキャンピングカーに届くことはなく、まるで見えないバリアに包まれているようだった。


「中道、一気に行こう」

「了解っと」


 キャンピングカーを右往左往させながらドラゴンを撃墜し、竜騎士たちにエールを送ると、さらに加速して竜王のいる雲の向こうに突き進んでいった。


 ――トラッド、シェン、カミュール、持ちこたえていてくれよ


 ドラゴンの壁を突き破り、祈るような想いで雲を抜けると、追い込まれながらも奮闘するみんなの姿が見えた。


「トラッド、シェン、待たせてすまない」


 シェンが乗る飛空挺にキャンピングカーをとめ、満身創痍の二人に駆け寄っていく。二人は俺を見るなり、驚きと感嘆の声を上げた。


「しかし探知士様、この状況は一体どうなっているのですか?」


 群れで襲いかかっていたドラゴンたちが、今や飛空挺に近づくだけで墜落している。さらには、使えなくなっていた術が使えるようになったことで、兵士たちも息を吹き返したように応戦を始めていた。


「これが、SSSのスキルの力なんですね」


 ドラゴンの猛攻を退け、竜王の衝撃波さえも弾き返す俺のスキルに、シェンが静かに感嘆の声を上げた。


「さあ、このまま竜王を討伐しよう」


 勢いを取り戻した今なら、竜王を討伐できるかもしれない。そうシェンに伝えたが、シェンの表情は暗いままだった。


「確かに、探知士様のスキルだと竜王の攻撃にも耐えることができるでしょう。しかし、問題は竜王の防御にあります」


 シェンに代わり、トラッドが竜王の防御力の高さを説明する。あらゆる攻撃も、竜王の硬い体の前では傷一つ付けることができないという。


「唯一の狙い目は、竜王の口です。硬い体であっても、体の中は別なはずです。どうにかして、竜王の口から体の中を攻撃できればいいのですが」


 トラッドの考えでは、竜王が口を開いた瞬間に攻撃できれば、竜王にダメージを与えることができるようだ。


「しかし、今の戦力では竜王にダメージを与えるだけの力はありません」


 トラッドに代わり、シェンが力なく呟いた。前回、竜王を討伐寸前まで追い詰めた時には、強力な術を使う術士たちがいた。しかし、その術士たちも今は本隊にいる為、今いる術士たちでは太刀打ちできないらしい。


「何か強力な術か力があればいいのですが、残念ながら竜騎士にもそうした力はありません」


 トラッドの落胆した言葉に、再び暗雲が広がっていく。いくら竜王やドラゴンの猛攻を無効化しても、倒す力がなければ討伐はできない状況に、俺は小さくため息をついた。


 ――いや、待てよ


 落胆しかけた瞬間、俺は自分の胸にある物に気づいた。


「これ、使えませんか?」


 俺は首飾りを胸から取り出し、赤く光る宝石をトラッドに見せた。


「これは?」

「これは、モリスの一族に伝わる宝石です。代々受け継ぎながら術を施してあるそうです」


 威力は街一つが滅びるくらいだと説明すると、トラッドの瞳に再び光が甦り始めた。


「噂で、狩人たちに伝わる強力な武器があると聞きました。それがこの宝石であるならば、是非試してみましょう」


 力強い声に戻ったトラッドが、竜王討伐のシナリオを描き始める。これから、残っている竜騎士と共に竜王と戦い、竜王の口に宝石をねじ込むという。


「この宝石は、ある程度の力を加えなければ発動しない。だから、トラッドさんたちが竜王の口に宝石をねじ込んだら、シェンたちで術の援護を頼む」


 首飾りをトラッドの槍に結びつけながら、シェンに最後の作戦を伝える。モリスによれば、ある程度の刺激を与えれば、宝石の威力は自動的に発動するとのことだった。その為には、トラッドがチャンスを作り、シェンに結果を出してもらう必要があった。


「わかりました。生き残っている全術士たちで総攻撃を仕掛けましょう」


 ようやく見えた希望に、シェンも表情を引き締めた。


「皆の者、よく聞いて欲しい。これが、竜騎士として最後の戦いになるだろう。これまで、共に戦い散った仲間や家族の為にも、最後の戦いに全てをぶつけよう」


 集まってきた竜騎士たちに、トラッドが作戦の内容と激励の言葉を送る。竜騎士たちは、返事の代わりに槍を高々と掲げてみせた。


「最後の戦い、悔いのないようにサポートします」


 トラッドに告げると、トラッドは戦士の顔になって深く頷いた。


「行こう。目指すは、憎き竜王のみ。竜騎士として、最後の力を見せつけてやるぞ!」


 トラッドは、竜騎士たちを鼓舞しながら再び空へと飛び立っていった。


 ――トラッドさん、ご武運を


 次々に空へと飛び立っていく竜騎士たち。その背中に、俺はエールを送りながら、最後の戦いに向けて全スキルを発動させた。

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[良い点] 土壇場で身体の覚醒とともに秘められた力も覚醒する魅力的なテンプレ行使!
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