幕間 中道和正
佐山たちと別れた俺は、竜に乗ってラジアル城下町を目指した。表向きの目的はパラレルステーションでの物資補給だったが、本当の目的は佐山のスキルに関する調査だった。
佐山の探知士としてのスキルは、SSRという二番目にランクが高いレアスキルだ。そのままでも十分戦場で役に立つのだが、パラレルステーションで聞いた話がどうしても頭に引っ掛かっていた。
佐山には話していないが、佐山のスキルの適性としては、SSSとなってもおかしくはないらしい。つまり、今の佐山は何らかの理由でSSRに留まっている状態だった。
そうなっている原因に、佐山のトラウマが関係していると思われる。佐山は孤児というコンプレックスにより、自我を捨てて生きている。生きる為の欲望を一切捨て、生き延びる為に必要なことだけしかやっていないのだ。
そんな佐山を、俺は不憫に思っている。できれば、コンプレックスを克服して佐山らしい人生を送ってもらいたい。それが、命の恩人とも言える佐山への俺なりの素直な気持ちだった。
ラジアル城下町に着き、パラレルステーションで必要物資を補給する。同時に仕入れた情報によると、占術をしているラジアル人の中に、スキルに詳しい者がいるとわかった。
手土産を用意し、町外れの一角でひっそりと営んでいる初老の占術士を訪ねた。この辺りでは、戦闘前に必ず訪れる者が多いと評判の占術士だった。
朽ちかけた木製の小屋の中には、独特の飾りや怪しげな薬草が所狭しと置かれていた。獣人姿でなければ、立派な占い師に見えるほど、占術士には独特のオーラがあった。
「スキルについて聞きたいのか?」
「そうです。親友がSSRの探知士になっていますが、どうやったらSSSランクの探知士になれるか知りたいのです」
硬い木の椅子に座ると、白い髭を長く蓄えた占術士に用件を伝えた。
「まず、スキルとは何か知っておるか?」
「詳しくはわかりません」
「スキルとは、この世界に生きる者が生まれながらに身につけた運命のようなものだ。もともと、みな最高位とされるSSSのスキルを身につけて産まれてくる。ただ、産まれた時にはスキルは封印されており、人生を通じて開花させていくのがスキルというものだ」
占術士によれば、スキルというのは才能に近いものらしい。自らの才能に気づいた者は順当にスキルを開花させ、やがてSSSへと覚醒していくという。才能に気づかない者や、違うスキルを身につけてしまった者は、Sランクにさえなれないという。
「お主は剣豪としてAランクのようだが、それは才能として身につけたわけではないようだな」
ずばりと言い当てられた俺は、仕方なくレアアイテムのことを伝えた。
「近頃、異国の者による技術によって多様なスキルが生み出されている。お主もそのスキルを身につけた一人というわけか」
「そうなりますね」
「だとしたら、なぜ違うスキルを選んだ? 望めばお主の本来のスキルを占じてやろうか? 真のスキルに目覚めれば、お主もこの世界で英雄になれるだろう」
「それには及びません。俺はこのままで結構です」
占術士の申し出をやんわり断ると、占術士が目を細めて口を閉ざした。
俺には、英雄になるつもり気など全くなかった。このゲームに誘ったのも、スキルがAランクで頭打ちになる剣豪を選んだのも、全ては佐山の為だった。
孤独で惨めでしかなかった俺を救ってくれた佐山に、いつか恩返しがしたかった。佐山には欲というのが基本的に欠けているから、なかなか恩返しをする機会はなかった。
だが、それは現実世界での話だ。異世界という全く違う世界なら、ひょっとしたら佐山を英雄にすることができるかもしれないと考えた。異世界で英雄となれば、佐山も自信がつくだろうし、何よりもコンプレックスを克服することができるかもしれないと考えたからだ。
その点でいえば、パラレルアイランドは最高のゲームだった。ドッペルゲンガーを使うことで、もう一人の自分を通じて本物の体験ができることは、佐山にとって非常に都合がいいと思えた。
これは、あくまで佐山の為の冒険だ。だから、俺が英雄になる必要はない。佐山をサポートし、佐山が英雄になってくれたら、それだけで十分だった。
「友の為に自らを犠牲にする。その心意気、素晴らしいものだな。よろしい、その男のことを占ってやろう」
青い宝石をつなげた首のネックレスを手にすると、占術士が呪文のようなものを唱え始めた。
「お主の友は、過去の傷に捕らわれておる。その傷と向き合うことができれば、SSSに覚醒することができるだろう」
「つまり、佐山がSSSに覚醒できないでいるのは、過去の傷が原因ということですね?」
俺の問いに、占術士が大きく頷いた。目論見通り、佐山はトラウマによって自らを押さえつけているのが原因だった。
「SSSに覚醒するには、己と向き合うことが一番だ。己と向き合い、過去の自分を乗り越えた時に、SSSとして覚醒できるだろう」
占術士の言葉を受け取り、俺は改めて誓った。
佐山を覚醒させて英雄に導く。
それが俺の使命だと、力強く拳を握り締めた。




