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3-7 竜王との面会

 惨劇をなんとか乗り越えた俺は、モリスと二人で竜を借りて出かけることにした。本当なら、中道もついてくる予定だったが、パラレルステーションに用があるということで、一人で竜に乗って出かけていた。


 とりあえず周囲を散策すると嘘をつき、モリスを背にして空へと飛び立つ。飛び立つ爽快感に加え、モリスと二人きりだという気まずさに似た緊張のせいか、手綱を持つ手が自分でも震えているのがわかった。


「本当に竜王に会えるのでしょうか?」


 風に乗ってモリスの緊張した声が聞こえてきた。しがみつくモリスの柔らかい体に落ち着かないでいた俺は、わざとらしく咳払いして大丈夫だと答えた。


 ビアンを助ける為にも、竜騎士たちを救う為にも、いずれにせよ竜王と向かいあう必要がある。竜王の所までは、予見と危機回避とルート探知があればたどり着くのは簡単だ。


 だが、直接対面に関してはカードがないままの話となる。クレームで鍛えた話術が通用するかはわからないが、やるだけのことはやる覚悟はしていた。


 竜王がいる場所は、エストールから離れた海上の孤島だった。海面に漂う霧よりも遥かに濃い霧が島を包んでいる。むやみに近づけば、迷い込んでドラゴンの餌食となるのは間違いないだろう。


「行くよ」


 身を固くしたモリスの緊張が体越しに伝わってきた。竜王に会うとなると安全の保証はない。なのに俺を信用してついてきてくれたことに、嬉しさと責任が一気に肩にのしかかってきた。


 手を伸ばした先が見えない濃霧の中、頭の中のレーダーを頼りに進んでいく。ドラゴンの鳴き声や羽音が増えていくなか、濃霧を抜けてたどり着いた先には、動物たちの楽園のような森が広かっていた。


 一際高くそびえ立つ断崖絶壁の山を目指し、濃霧から闖入してきた俺たちを威嚇するドラゴンをかわしていく。やがて、山の頂上付近にたどり着くと、いくつものドラゴンの巣が俺たちを迎えてくれた。


「ドラゴンの子供でしょうか?」

「みたいだね」


 巣には、小さなドラゴンたちが肌を寄せるようにして鳴き声を上げていた。その姿は、ドラゴンといえども小さくてかわいらしさに溢れていた。


 巣の近くに着陸し、頭上を飛び交うドラゴンたちを見上げていると、それは突如として姿を現した。


 ――! でかい!


 天空に現れた漆黒の塊。その羽が空を埋め尽くすと、辺り一帯が夜になったかのような闇に包まれた。耳を塞ぎたくなるような咆哮の後、漆黒のドラゴンは身震いしそうなほどの華麗さで俺たちの目の前に舞い降りた。


 ――人のくせに、ここまで来るとはなかなかのものだな


 怪しく光る赤い瞳に睨まれた俺の頭の中に、重苦しい声が響いた。


「人の言葉を話せるのですね?」


 ――下等生物と話をする気はないがな


 竜王は、笑うかのように鋭い牙を向きながら俺の前に顔を近づけてきた。


「竜王、貴方にお願いしたいことがあります」


 後退りしたくなる気持ちを堪え、俺は震える体に力を込めて竜王に会いに来た理由を伝えた。


 ――簡単なことだ。我を倒し、我の身体を口にすれば、小娘に巣食う病魔など簡単に消し飛ぶだろう


 竜王の言葉には、俺を嘲笑う空気があった。倒せるものなら倒してみろ、そう言いたげな口調に、俺は覚悟を決めた。


「竜王、貴方ならわかると思います。俺が伝説の探知士であることを。ここまで、全ての危機を回避して来ることができました。この力を使えば、竜王の貴方とて倒すのは無理ではないと思います」


 ――伝説の探知士だと?


 竜王はそう言葉にすると、突然口を開けて笑いだした。


 ――貴様が魔王を倒した人の中にいた、あの探知士だというのか?


 明らかに馬鹿にしたような笑いに、俺は怒りで竜王を睨みつけた。だが、それ以上に見開いた赤い瞳が俺を射抜いてきた。


 ――笑わせるな。貴様は探知士としてはまだ未完成ではないか。魔王を倒した探知士と比べたら、貴様の能力などゴミに等しい


 竜王に指摘され、俺の怒りは一瞬で消えていった。確かに俺の能力はSSRだ。魔王を倒したパーティーにいた探知士はSSS。解放されていないスキルが一つあり、その能力がないだけで、竜王にとっては俺の能力は脅威ではないらしい。


「もし、俺がSSSのスキルを手にしたらどうしますか?」


 ――貴様には無理な話だ


「どうして無理だとわかるんですか?」


 ――何かを極めるとなると、それには覚醒が必要だ。いくら貴様が修行し、幾多の戦場を勝ち抜いたところで、貴様の持つ本質が変わることはない


「本質とは何ですか?」


 ――貴様には、探知士としての覚醒する素質がありながら、覚醒できていない。つまり、貴様がこの先いくらあがいたところで欠陥品には変わりはないということだ


「しかし、それはやってみないとわからないはずです」


 ――もう帰るがいい。力のない貴様には、逃げ帰って小娘が死ぬのを眺めるのがお似合いだ。竜騎士たちとの争いも、互いに朽ち果てるまで終わることはない。それでも竜騎士と共に戦うというのであれば、竜騎士と共に我が一族の餌にしてやろう


 竜王は吐き捨てると、空に向けて咆哮を放った。途端に空を埋め尽くさんばかりのドラゴンが集まり、もはや退く以外に選択肢はなくなった。


 竜にまたがり、帰路につく。竜王に突きつけられた事実に打ちのめされた俺は、手綱を持つ手に力が入らなかった。


「モリス、大丈夫。心配ないから」


 空気を察してか、無言のままのモリスに声をかける。だが、何が心配いらないのか説明できないことに、腹立だしさと無力さで情けなくなっていた。


 ビアンを治す方法は判明した。竜王を倒し、その身を食べれば病は治るという。


 だがそこには、竜騎士たちの全滅という未来しかなかった。



~第三章 完~

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