3-4 圧倒的初勝利
上空にいる竜騎士たちに危険ポイントを指示してもらった俺は、トラッドに続いて弓を手に正面のドラゴンと対峙した。
――佐山、その弓は全自動のレアアイテムだ。矢は属性を意識するだけで変化するから、上手く使ってくれ
矢をつがえた俺は、中道の説明に従って氷の属性を意識した。すると、さっきまではただの矢じりだった部分に、冷たい冷気が集まり始めた。
物は試しとばかりに、近くのドラゴンに矢を放ってみた。勢いよく放った矢は、しかし、ドラゴンにあっさりとかわされた。と思いきや、ホーミング機能がついてるかのごとく、放った矢はドラゴンを追尾していき、最終的にはドラゴンを氷漬けにしていった。
――モリスもやってみて
予想以上の威力と便利さに興奮した俺は、モリスに魔導書を使うように促した。モリスは僅かに緊張しながらも、独特のイントネーションで魔導書を唱え始めた。
モリスの発する言葉に重なるように、大気が震えだした。やがて大気はかまいたちのような渦となり、ドラゴンめがけて襲いかかっていった。
――凄いです! こんな術見たことありません!
自分が仕掛けた術の威力に、モリスも声を弾ませた。こちらも中道の特別課金仕様らしく、この二つだけで家が買えると中道は笑っていた。
戦況は、圧倒的に有利だった。予見と危機回避のスキルのおかげでドラゴンの動きがわかる竜騎士たちは、リスクを背負うことなくドラゴンを駆逐していく。その状況で、俺とモリスのレアアイテムによる攻撃が加わることで、もはや一方的に叩きのめしている状況となっていた。
カミュールと二人で戦っていた中道が、カミュールと共に戻ってきた。どうやら囮のドラゴンは片付けたらしく、本体への攻撃に参加し始めた。
戦闘は一方的に終わりとなった。戦況が不利だと悟ったドラゴンたちは、散り散りになって雲の中へと逃げていく。そのドラゴンたちを、連携して竜騎士たちが駆逐したところで、トラッドが勝利を示すかのように槍を掲げた。
終わってみれば、竜騎士に被害はなく完全勝利だった。地上に戻ると、エストール人や竜騎士の家族たちに歓声で迎えられた。
「お前、太ってる割にはやるじゃないか」
地上に下りたところで、兜を脱いだカミュールが中道に話かけてきた。
「カミュールちゃんに比べたら、それほどでもないよ」
まだ幼き少女に上から目線で誉められた中道は、興奮冷めやらぬ表情で頭をかき始めた。
「探知士様、お見事でした」
カミュールと中道のやりとりを興奮したまま眺めていた俺に、トラッドが話かけてきた。
と同時に、一斉に竜騎士たちが詰め寄ってきたことで、俺とモリスは竜騎士たちに囲まれることになった。
そこからは、信じられないような称賛がしばらく続いた。孤児で社畜でしかなかった俺を、竜騎士たちが誉め称えながら感謝の言葉を口にしていく。これまでの人生で感謝されることのなかった俺は、尊敬の念を滲ませたような瞳で握手してくる竜騎士たちに、照れながら応えるしかできなかった。
だが――。
最後にトラッドから改めて感謝の握手をされた時、俺のスキルが一部発動したことで気分は一瞬で冷めていった。
「どうかしました?」
俺の異変に気づいたのか、モリスが心配そうに声をかけてきた。俺はなんでもないと答えると、竜騎士たちを鼓舞するように語りだしたトラッドの話に耳を傾けた。
「伝説の探知士様が仲間になってくれたこと、皆で感謝しよう。探知士様のおかげで完全勝利をすることができた。これなら、竜王を駆逐することもできるだろう」
トラッドが俺を称えながら槍を大きく掲げる。トラッドに続いて、竜騎士たちも俺を称えながら槍を掲げた。
そんな竜騎士たちの想いに無理矢理笑顔を作りながら、俺はざわつく心を必死で抑えていた。
今宵は宴となったところで一時解散となり、バラバラに散っていく竜騎士たちを見送りながら、カミュール相手に鼻の下を伸ばしている中道を捕まえた。
「ちょっといいか?」
最高に気分の良さそうな笑顔を浮かべていた中道だったが、俺のたった一言で真顔に戻っていった。さすがは長い付き合いがあるだけに、俺の心境を感じ取ったようだ。
「何かあったのか?」
モリスをキャンピングカーに残し、離れた場所に向かったところで、中道が神妙な顔つきで尋ねてきた。
「中道、竜騎士と竜王の戦いなんだけど、結果はどうなると思う?」
「今日の戦闘を見る限り、竜王が相手でも上手くいくような気がするが、違うのか?」
中道の問いに、俺は静かに頷いた。
「さっき、竜騎士たちと握手した時に予見のスキルが発動したんだ。その結果、竜王を相手にして全滅する竜騎士たちの姿が見えた」
「マジかよ」
先ほど竜騎士たちと握手を交わした時に見えた光景。それは、竜王とドラゴンを相手にして成す術もなく散っていく竜騎士たちの姿だった。
「だったら、これからどうするんだ? まさか、逃げるなんて言わないよな?」
「お前はカミュールが死ぬとわかって逃げるか?」
「それはないな」
「俺も同じだ。ビアンの病を治す方法にドラゴンが絡んでいる以上、逃げるということはしたくない」
危機回避のスキルを使った時に見えた漆黒のドラゴンは、竜騎士を全滅させることになる竜王の姿と同じだった。
「予見に対する危機回避をしたところ、竜王と話をする姿が見えた」
「ということは?」
「とりあえず、竜騎士たちには内緒で一度竜王と話をしようと思う」
俺の考えに、中道が低い唸り声を上げた。いきなり敵の本体に乗り込むような真似をしようというのだから、中道が抵抗を感じるのも無理がなかった。
「この戦い、ひょっとしたら面倒くさいことになるかもしれないな」
「面倒くさいこと?」
「予感なんだけどよ、全滅するとわかっている竜騎士たちをどうするか、その選択をいつかは迫られることになるかもしれないと思っただけだ」
中道の言葉に、俺も小さく唸り声を上げた。このままいけば、竜騎士たちの全滅は避けられないだろう。だが、竜騎士たちも、そうだとして簡単に引き下がる連中とは思えなかった。
「ま、異世界らしいクエストだな。とりあえず、やってみようぜ」
中道に肩を叩かれ、俺も頷いて返した。
異世界初のクエストは、思った以上に厄介事になりそうだった。




