表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/33

3-2 歓迎

 凛々しさと勇猛な姿とのギャップに言葉を失っていた俺は、なんとか気持ちを切り替えてキャンピングカーをおりた。


「そうだ。これを」


 パラレルステーションから渡された契約書を差し出すと、カミュールは無表情のまま受け取って中身を確認し始めた。


「確かに。ならば、私についてこい。仲間のもとへ案内してやる」


 カミュールはそう言い残すと、白い竜にまたがり空へ飛び去った。


「なんだって?」

「ついてこいだとよ」


 キャンピングカーに戻り、白い点になったカミュールを指差して説明する。が、すぐにカミュールは空に溶け込んでしまい、姿が見えなくなってしまった。


「どうやら試されているみたいだな」


 探知士の俺の能力が本物か試しているのだろう。少女のくせに大人を試すあたりに生意気さを感じたが、隣の中道は別の何かを感じているようだった。


「カミュールちゃん、かっこよくてかわいかったよな」


 しみじみと語る中道に嫌な予感がしたが、とりあえず無視してスキルの探査と危機回避を発動させる。


「この島は森が深いみたいだから、魔物もいるだろう。試されているなら、無傷で竜騎士たちのところへ行ってやろうぜ」


 中道の肩を叩き、レーダー内に浮かぶ安全なルートを指し示す。中道は浮かれた返事をすると、キャンピングカーを森の中へ進めていった。


 エストール領は、周囲を海に囲まれ、ジャングルで出来た島が点在する秘境に近い地域性になっている。事前に渡されたパラレルステーションからの情報によれば、エストール人は農耕民族であり、エストール城を守る以外には戦闘を極力嫌う民族でもある。エストール領域で栽培される各種の農産物は、食料だけでなく呪術の材料としても重宝され、過去にも侵略を受けたことはあるという。


 だが、その度に複雑な地形と不安定な天候を味方にし、森に住む魔物と共にこの地を守ってきた。そうした歴史あるエストール人たちも、ドラゴンが相手ではなす術がなく窮地に追い込まれたようだ。


 道なき道を進み、巨大なワニの集団と並走しながら秘境の川を渡っていく。今にも恐竜が出てきそうな雰囲気が、冒険の気分を高めてくれていた。


「モリスの住んでいた所はどんな感じだった?」


 運転をオートに切り替え、モリスが作ってくれたサンドイッチを平らげた俺は、独特の甘味がくせになるハーブティを口にしながら、モリスのことを尋ねてみた。


「私の住んでいた場所は、砂漠に近いところでした。作物はあまり採れませんけど、ハーブティは有名だったと思います」


 ネアン民族は、ハーブティの栽培と狩猟の時期を交互に繰り返しながら生活していた。戦闘民族ではないが、国の要請で兵役に就くこともあったらしい。


「女性は、十六才になると成人になって結婚の儀を始めます。家を守る為の本格的な術の習得や、料理といった家事を一年かけて母親から受け継ぐんです」


 そうした修行が終わると、一年かけて花婿を探すことになる。花婿探しは自分で決めるのが基本だが、決まらない場合は他の民族とも協力して強制的に結婚することになるという。血を絶やさない伝統文化であり、離婚も認められないなど、独特の文化がネアン民族にはあったようだ。


「だとしたら、モリスちゃんは結婚していたの?」

「いえ、私はまだです。修行は終わりましたけど、相手はまだ決まっていませんでした」

「よかったな、佐山」

「なぜそこで俺にふる」


 いきなり肩を叩かれて、ハーブティを吹き出しそうになった俺は、中道をきつく睨みながらはね上がった心臓が落ちつくのを待った、


 その間、照れたように笑うモリスを横目で眺めてみた。モリスは、金髪にアクアブルーの瞳という西洋系の顔立ちで、何度見ても美形の顔は見飽きることはない。すらりとした体躯には十分過ぎるほどの女性の魅力に溢れ、花婿になるかもしれなかった奴に、つい嫉妬してしまいそうになった。


「お、どうやら目的地に着いたみたいだな」


 逃げるように運転席に戻った中道が、こっちにこいと手招きする。助手席に戻ると、フロントガラスの向こうには、ジャングルが終わって開けた大地が姿を現していた。


「ここもひどい有り様だな」


 広大な大地には、何かを栽培していた痕跡がかろうじて残されているだけで、大半が焼け野はらと化していた。落城寸前まで崩壊した城に続く道には、民家のような崩壊した建物が並んでいた。


 城壁の体をなしていない瓦礫の山に近づくと、赤褐色の肌にチリチリした髪が特徴的な兵士が行く手を阻んできた。手にした大型の斧をキャンピングカーに向けると、緊張した面持ちで近づいてきた。


「何者だ!」

「俺たちは竜騎士の要請を受けた探知士の一団だ。竜騎士のリーダーに会いたい」


 中道が答えると、男は警戒の目を車内に向けてきた。


「竜を使わずしてどうやって来た?」

「森を抜け、川を渡ってきた」


 中道の言葉に、男は驚きの声を上げて一歩下がった。斧を下ろし、深く頭を下げたのを見る限り、俺たちのことを認めてくれたようだ。


「さすがは探知士様の一団ですね。あの魔の森を無傷で抜けた方々は初めてです」


 さあどうぞと言わんばかりに、男が道を空けて城へと続く道を示した。


「やっぱり試されたんだな」


 男の話ぶりからして、俺たちが抜けてきた森は普通の森ではなかった。カミュールは、探知士かどうか試す為に森を抜けさせたようだ。


 城下町に入ると、野営のテントがずらりと並ぶ光景が目に入ってきた。既に町としての機能は失われているが、その代わりに埋め尽くしているのが、多数のドラゴンだった。


 一際大きなテントの前でキャンピングカーから降りたところで、周囲の注目を集めることになった。黄金の鎧を身につけているのが竜騎士たちだろう。竜騎士たちは家族同伴で旅をするようで、集団の中には女性や子供の姿も目立っていた。


「魔の森を抜けてくるとは、本当に探知士だったみたいだな」


 取り囲む集団の中から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。目を向けると、僅かに驚いた表情を浮かべるカミュールがいた。


「試す真似をして悪かった。団長のトラッドに会わせてやるからついてこい」


 カミュールは不敵に笑うと、背を向けて大型テントの中に入っていった。口調やふるまいからして、少女ながらも竜騎士たちの中で位が高い感じがした。


 ひそひそと語り合う集団に見つめられながら、カミュールが消えていったテントへと歩いていく。集団から歓迎されている雰囲気はなかったが、かといって拒絶されている雰囲気でもなさそうだった。


 テントに入ると、ぼんやりとランプが照らす先に一際大柄な男がいた。歳は俺と変わらない感じだが、精悍な顔つきと身に纏う威厳のあるオーラは、俺たちにはない代物だった。


「貴方が探知士様ですね? 私は第七兵団である竜騎士を束ねるトラッドです」


 椅子に座っていたトラッドは、立ち上がるなり深々と頭を下げた。その仕草には、噂とされている傲慢さは微塵も感じられなかった。


「探知士様、ようこそと言いたいところですが、今はそんな余裕はありません。ですが、それでも歓迎いたします。最果ての地獄の島と化したエストールへよく来ていただきました」


 トラッドが挨拶しながら、俺たちと握手を交わしていく。その表情には、ひどく疲れた色が濃く現れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ