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2-4 出発

 クエストの要請があった町は、ここから海を越えた先にあった。パラレルステーションに連絡をとってクエストに応募すると、探知士のジョブのおかげか、二つ返事で要請が返ってきた。


 出発の日が決まり、いよいよその時がきたのだが、一つ問題が発生していた。


「本気でついてくるのか?」


 薄汚れた白い衣服ではなく、鮮やかな色彩模様で彩られた民族衣装の出で立ちで現れたモリスが、断固としてついてくるとゆずらなかった。


「けど、モリスまで来たらビアンの面倒はどうするの?」


 当然の疑問をぶつけると、モリスは真顔のまま首を小さく横にふった、


「心配はいりません。私たちネアン民族は、親が集団で狩りに行く狩猟民族でもあります。長期間、子供だけで家にいるのは慣れてますから。それに、クゥンがいるから心配ありません。クゥンには、遠く離れた場所ともやりとりできる力があります。ビアンの身に何かあったら、すぐに知らせてくれますから」


 モリスが語ると、クゥンがベッドで横になっているビアンを守るかのように鳴き声を上げた。


 ちょっと大人しい感じの子だと思っていたが、どうやらモリスには秘めた意思の強さがあるようだ。


「佐山のスキルがあるから、別にモリスちゃんがついてくるのは問題ないだろ。それよりも、装備をどうするかの問題が先だろ」


 これからドラゴン退治に向かうのだから、それなりの装備が必要だった。だが、俺の場合はレアジョブの影響か、剣や鎧などの装備ができなかった。


 ただ、鎧の代わりとしてモリスからネアン民族が狩猟の際に使用する外套をもらうことができた。派手な民族衣装とは違って質素な茶色の外套だが、吹雪や炎から身を守る術が施されているという。


 モリスの民族衣装にも似たような術が施されているから、防具に関してはとりあえずよしとして、問題は武器をどうするかだった。


「私も武器は持ってますよ」


 やけに小さな声で呟いたモリスが、首にかけていた革ひもの先についている赤い宝石を手のひらにのせた。


「ネアン民族は、術を物質に施して武器にすることができます。この宝石は、代々受け継がれながら術を施してきた強力な武器です」


 なんだか歯切れの悪い口調に嫌な予感のした俺は、誤魔化すように笑うモリスに咳払いして詰め寄った。


「で、威力はどのくらいなの?」

「それが、術を代々施し過ぎてしまいまして」


 言葉を切ったモリスが両手で顔を隠すと、僅かに開いた指の隙間から俺を覗き始めた。


「一つの街が一瞬で灰になるくらい、です」

「って、最終兵器かよ!」


 俺の反応に備えるように、不自然におどけるモリス。かわいい仕草さに騙されそうになるのをこらえ、俺は派手なため息をついた。


「没収」


 宝石の威力を聞いた以上、危険が伴うクエストで持たせられないと判断した俺は、縮こまるモリスから宝石のネックレスを没収した。


「あ、ユウキさんかわいいですよ」


 仕方なくネックレスを身につけた俺を、モリスが不自然に持ち上げてくる。最終兵器クラスのネックレスを身につけてかわいいと言われても嬉しくはないが、気落ちしていたモリスが明るくふるまうのを見て、俺も自然と頬が弛んだ。


「夫婦水入らずのところ申し訳ないんだが、さっさと武器を決めて出発したいんだけど」


 なんとなくいい雰囲気になったのを、呆れ顔の中道が茶化してくる。夫婦という言葉に動揺する俺とモリスを横目に、中道は勝手にオンラインショップから武器を取り寄せ始めた。


 結局、俺の武器は弓矢になり、モリスは呪術を記載した魔導書となった。ネアン人は両親の留守を守る間の危機に備えて、子供の時から術を身につけているから、魔法使いの役割がいいだろうとなった。


「では、行くとしますか」


 咳込むビアンの頭を撫で、クゥンによろしく頼むと告げると、爆音を轟かせ始めたキャンピングカーに乗り込んだ。


 外は快晴。


 穏やかな風を頬に受けながら、俺たちの初クエストが始まった。


~第二章 完~

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